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小さな病院。 輪

「よし、着いたぞ。」


 そう言ってドクが立ち止まった。

 さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かな場所。そこに一軒のボロ屋が見える。都会の喧騒から逃れたなんて言えば聞こえは良いのだがここは、どうだろう。少し、不気味だと思う。


「どうした? 入れ。」


「わ! 引っ張らないで。」


 急かすように私の腕に結ばれた縄を引かれ、足がもつれながらも私は家に入る。その時、慣れた手付きでドクが扉に掛かっていた看板をひっくり返しているのが見えた。


 おーぷん。


 手書きで描かれたそれはまるで子供のおままごとのようで可愛かった。


「ここって病院なの?」


「ああ、そうさ。見えないかい?」


 まあ、お世辞でも見えるとは言えないなりをしているのだが。ドクは心底分からないような表情を浮かべながら辺りを見回している。


「ごめんなさい。そういう訳で言ったのではないのよ。」


「ハハッ、お前はあいつと似て純粋だな。気にするな、見えないのは分かってるよ。」


 気を悪くするような事を言ってしまった。そう思い私は謝るもその心配をドクはからかうように、おおらかな笑いで払い除ける。


「あいつ?」


「順を追って話す。そう急くな。」


 ドクの話に出て来たあいつという言葉に引っかかりわたしは尋ねた。ドクはその事を予測していたように間髪入れずに答える。


 だが、私の中にはもう一つの疑問が生まれた。

 話す? 私の話を聞くために連れてきたのではないのか。


「どうぞ座って。」


 そう言ってボロボロな椅子を勧められる。ボロボロとは言っても埃をかぶっている様子は無く最近使用された感じがあった。

 その椅子の前にはドク用と思われる椅子があるため、ドク以外の誰かがここに居た事が予想された。


「先ずは君の話を聞かせてくれ。」


 腕にはまだ縄が付いている。半ば無理矢理連れてこられた知らない場所で一対一。さらにここは人通りがほとんど無い。多少叫んだところでその声は届かないだろう。

 警戒マックス。それが自然なのに、私にその感情は無かった。死ぬ事に躊躇いがないと言えばそうかもしれないが、ドクから敵意を全く感じない事もその原因だった。


「なんの話をするんだ?」


「君が思った話でいいよ。大切な人が死んだ事でも、それが自分のせいだと考える事でも。 あ、そうそう君の名前を教えてくれ。呼びづらくてかなわない。」


 ドクの言ったそれを聞いて、空いた口が塞がらなくなった。


「どうして、それを?」


「私の質問に先答えてよ。簡単だろ?」


 リズ。と答えてから直ぐにもう一度尋ねた。

 まさか、ずっと見ていたとでも言うのだろうか。そうだったら私は自分を抑えられる気がしなかった。何故って、この人は医者。あの時いたのなら、助けれたかもしれない。


「そんな気がしただけさ。多少のヒントは持ってるし。」


「、、、そう、そうなの。」


 やはりドクの言う事には引っかかるが、それからしばらくの間、私は口をつぐんだ。

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