別れ 輪
「カイ、、、さん。」
「リズ、喋らないで。傷が、、、」
涙を流しながら、私はリズの傷に手当をする。
「血が、血が止まらないよ。」
(このままじゃあ、リズが。)
眼の前が真っ白になって、何がなんだか分からなくなる。
「傷、大分深い、です。もう、駄目ですね。」
「諦めないで、大丈夫。大丈夫だから。」
まるでリズにではなく、自分に言い聞かせるように、私は言う。
「あの、最後に、話しませんか?」
最後?
その言葉が、私の決壊しかけていた心にとどめを刺した。
「最後なんて言わないで! 助かるから!!」
焦りと怒り、哀しみが混じったような声。
「無理です。」
リズは驚くほど冷静に、私の願いともとれるその言葉を絶った。
「無理じゃない!」
「もう、きっと時間もあり、ません。」
(嫌だ。あきらめない、諦めないあきらめない。)
『いい加減にしな!』
その時、怒声が聞こえて私は我に返る。
久しぶりに聞いたそれに、一瞬時間が止まったような気がした。
『今を逃せば一生後悔するよ。』
冷たいその一言で徐々に、少しだが、呼吸が整ってきた。
「リズ、話そうか。」
「はい。」
応えたリズの顔は笑っているように見えた。
「長くお世話になりました。旅、楽しかったです。アンナには、会えませんでしたが。」
「アンナに、」
(私の姿を変えて!)
私が影に頼むと、直ぐに私の身体が変わる。
「ごめん、リズ。ごめん。ずっと隠してきたけど、私がアンナだったのよ。」
「、、、フフッ。」
少し固まった後に、リズは笑った。
「これは、夢でしょうか。カイさんがアンナ、だった? 夢だとしても、嬉しいです。」
リズはジッと私の眼を見る。
「アンナ。先ず、謝らせてください。私は取り返しのつかない事をしました。」
意識が朦朧としているからか、リズは私がアンナである事を簡単に受け入れた。
「私もリズに酷いことをした。おあいこ、だね。」
私がそう言うと、リズは申し訳無さそうに笑った。
「そして、もう一つ。アンナのおかげで私は、間違いに気付けました。アンナに会っていなかったら間違っている事さえ、知らなかったでしょう。」
リズが手を伸ばして来た。私はそれを優しく包む。
「ごめんなさい。そして、ありがとう。貴方が居たから私は変わる努力をした。」
少し間があいてから、もう一度リズは口を開く。
「もっと話をしたい、けど。カイさんに、変わってください。」
「どうしたの? リズ。もう、アンナとはいいの?」
姿を戻して、私はリズに聞く。
「はい。私はカイさんと話がしたいです。」
目標としていた者、アンナよりも私と話したいと言われた。その事は嬉しかったが、同時に悲しさ、苦しさを感じた。
どうして、私はもっと早くアンナと会わせなかったのか。
そうすれば、もっとゆっくり話ができただろうに。
そこには後悔しか無かった。
「カイさん。私なんかと、旅をしてくれて、ありがとうございました。」
改めて、お礼を言われる。
「いつも、私を、心配して、、、くれて。」
リズの声が、急激に小さくなった。
私は焦りを感じる。
「リズ! 私を殺して。」
私が大声でそう放つ。リズとしては突然だっただろう。しかし、私にとっては先程からずっと思っていた事だ。
そうすれば、リズは影として残る。まだ旅を続けられる。
「殺して、ですか、、、前に私が言った事ですが、言われた側は、こんな気分、だったのですね。」
哀しそうに、リズが言った。
「そんな事、できないですよね。困りました、よね。」
リズは私の言った事をさし置き、過去の自分の言った事に言及している。
とりあえず、断られたようだ。
「心配、です。カイさん。余計なお世話かもしれませんが、私を追うような事は、しないでくださいね。」
「私を殺してくれれば旅が続けられる。」
「もう、辞めてください。」
「本当だ! 私は殺されたらその人と入れ替わるんだ。それで、私を殺した人は私の側に残り続ける。」
必死に説得しても、リズは首を縦に振らない。
信じて貰える筈もないか。
「バン、」
急に、リズが手を銃に見立ててそういった。なんの事やら、分からない。
「今、私は貴方を殺しました。」
「え?」
「私は貴方と、入れ替わりました。」
「何、言ってるの?」
リズは私の声が聞こえてないかのように続ける。
「私は、私は死にたく、ない。」
背筋に冷たいものが走った気がした。恐怖を感じたわけではない。
リズの顔が崩れたからだ。
リズはダムが崩壊したように、ボロボロと涙を流す。
今まで、私を落ち着かせるために、仮面を被っていた事を知ったからだ。
「だから、リズは死のうなんて、思いません。」
「リズ、それって。」
「リズ? 私はカイですよ。リズは、あなたでしょう?」
私が、リズ。
ああ、そういうことか。
「私の分まで生きてください。」
「リズ、、、分かった。」
そう言うと、リズは安心したように力を抜いた。
「寒い、です。温めてください。」
リズが腕を広げる。
私はリズを抱きしめる。
強く、優しく。
「もっと早く会いたかったなぁ。」
リズが冷たくなっていくのを感じた。




