わかっていた 輪
(変わった、か。)
その言葉が少し時間のたった今でも頭を巡っていた。
「悩み事でも?」
「いや、リズはすごいなって思っただけだよ。」
「え! ありがとうございます。」
照れくさそうにリズは応えてくれる。
(もう、リズは再会を果たしてもいいと思う。)
リズは本心を私に話してくれた。リズは最初会ったあの時から見違えるように変わった。
当初の私の目的からすれば、もう、旅は終わりの筈だ。しかし、今は終わらせたくないと思っている。
なにも、アンナと会って旅が終わる訳ではない。少なくとも、私はそのつもりだ。なのに、会わせたくない。
万が一の事を考えてしまう。もしかしたらリズは満足して旅を辞めてしまうのでは無いのかと。
そう考えると、嫌だ。それは嫌だ。
これは、完全に私の我儘だ。身勝手な考え。
ふと、リズの方を見た。
顔色が優れない。
発作、が来たのだろう。
「ちょっと、一人に。」
「わかった。」
私は二つ返事をする。
ちょうど私も一人になって頭を冷やしたかったところだ。
『私も席外そうか?』
(いや、そこに居てくれ。)
『そう?』
軽く地面に寝そべって目を瞑る。
(アンナと会って、リズが旅を辞めたいと言うならそれはリズの意思だ。尊重したい。)
『別れても、また会えるよ。』
そういえばそうだ。また、会えるじゃないか。
"生きてさえいれば"
「カイさん!! 危ない!!」
え?
「うっ、つぁ。」
リズの鬼気迫る声で私は眼を開き、上体を起こす。
「リズ?」
私の眼の前にリズが立っていた。
私に背を向けて。
その向こうにもう一人、知らない男が立っている。
「冷たっ、、、」
地面についていた掌に液体が触れた。
咄嗟に私は掌を見る。
、、、血?
少し遅れて、爆発したかような心臓の音が聞こえた。
「リズ!?」
私が立ち上がるとほぼ同時、リズが崩れ落ちる。
私の血の気がスッと引いていくのを感じた。
呼吸が上手くできない。
そんな中、男が腕を高く上げて私に襲って来た。
しかし、それよりも私は男の持っているナイフに気が行く。それにはベッタリと赤いペンキが付いている。
(邪魔だ。)
その動きが私にはすごく遅く見えた。
ゆっくりと振り下ろされるそれをしっかりと見極めて避け、私は男を思い切り蹴り飛ばした。
ドンッ! という音がして、男は宙を舞った。さながらバトル漫画のようで、自分でも驚いた。
男はしばらくのたうち回った後、うめきながら何処かへ走り去っていった。
「リズ、しっかりして。」
私はリズに呼びかける。
リズのお腹から、大量の血が出ていた。
「カイ、、、さん。」
そのリズの声を聞くだけで、私の眼からは涙が溢れていた。




