変化 輪
「ありがとう。」
なんとなく僕も言い返した。
そのまま、ふわふわした気分で次の街につく。
「アンナの情報はありますかね?」
「どうだろう。」
そんな会話をしながら僕とリズ、影は並んで街中を歩いた。
久しく感じていなかった温もり。最初に殺されたあの時に忘れてしまっていたもの。いや、無駄な痛みをなくすために自ら消したものを今、思い出した。
『君が楽しそうで、私も嬉しいよ。』
影が私にそういった。
『でもね、悪いことは言わない。早く別れたほうが良い。君はただでさえ死を招く。』
(どうしてそんな事を言うの?)
間をおいて言われたその言葉に私は少しムッとする。
『君のためだよ。』
(私のためを思うなら黙っててよ。)
私はリズに怪しまれない程度に軽く耳を塞ぐ。
『君の気持ちは分かってる! でも、、、』
(うるさい。うるさい!!)
耳を塞いでも入ってくるその音のせいか、頭痛がする。数回私が訴えると影は案外あっさりとやめてくれた。
「どうかしましたか?」
「ああ、少し考えることがあってさ。」
不思議そうな顔のリズに聞かれる。私の身を案じてくれているのだろうか。
「僕は大丈夫だよ。」
「そうですか? あっ!」
リズが突然声を上げて一つの方向を見つめる。
その視線を追うと一人の子供がいた。目は涙ぐみ、辺りをキョロキョロと見渡している。
「私、ちょっと行ってきますね。」
「え!?」
(まさか。)
脳裏に浮かぶのはリズとの初対面の時の記憶。
「あ! だ、、」
「どうしましたか? 親とはぐれちゃいましたか?」
「、め?」
リズは優しく子供に話しかけた。それに裏は少しも感じられない。
「お母さんがどこかに行っちゃった。」
「じゃあ一緒に探しましょう。あ、カイさん。良いですか?」
「ん、良いよ。」
まさか私に許可を求められると思わなかったので、驚いてしまった。
「ありがとうございます。」
そう言ってリズは子供の親を探し始めた。
『今ならお友達になれるね。』
(アンナ? 急にどうしたんだ。)
『変わったと思っただけだよ。』
(、、そうだね。)
確かに変わった。
『あの子だけじゃないよ。あなたも。』
(私も?)
「あ! お母さん!!」
その時、子供の無邪気な声が聞こえた。
「どこ行ってたの!? 探したのよ。ああ、連れてきてくださったんですね。ありがとうございました。」
その子の親であろう人が興奮気味に、早口で感謝の意を述べた。
「いえ、見つかって良かったです。」
リズは笑顔を振る舞ってその親子から離れる。
「時間を取らせました。」
「どうしてあの子を助けようと思ったの?」
純粋に疑問に思ったことを聞いた。リズは、私の予想に反して困った顔をした。
「本当の良い人なら、放っておけなかったと言うでしょうね。」
リズは頬をかく。
「でも、私は違います。良い人にはまだなれません。自己満足というやつです。」
ああ、リズは格段に良くなった。良い方向に変化した。
では、私は?
あの時からどう変わった? あの子供を見て何か思ったか? 死体を見て何を思っている?
何気なく言った、もしかしたら私を褒めたのかもしれないアンナの言葉が私を締め付けた。




