自分の中の 輪
「女神、、!」
怒りで震えた私の声に、血まみれの女神が笑顔で応える。
「あなた達の円満の邪魔をするつもりはなかったのだけれど。ごめんなさいね。」
「ふざけるな! これはどう言うことだ。」
「あなたを守っただけですよ?」
そう言った女神の表情は恍惚としていた。全てを愉しんでいるように感じるそれには、恐怖を感じた。
「この女があなた達の邪魔をしようとしていたから私が阻止したのです。その途中、少々興が乗ってしまいましたが。」
「、、、」
恐怖か、怒りか嫌悪か、それともそれら全てだろうか。私の口から言葉が出ない。
「それにしても、仲がよろしいですね?」
女神がニコニコしながら私の来た道の奥を見る。
「あなたはあの子の事をどう思っているのですか?」
リズにもされたその質問。
「どうも思っていない。むしろ嫌いなぐらいだ!」
すぐに私はそう返した。
「あら、あらら? 素直じゃない。それとも自分の気持ちさえも分からなくなったのですか?」
「何を言っているのかサッパリだな。」
「キャア!」
「、、!!?」
リズの声。咄嗟に声のした方を向く。
「リズ。」
気付くと私は女神をそのままに、来た道を引き返していた。
「あなたのそういう所は、好きですよ。それを壊す時を考えるだけで、たまりませんね。」
、、、
「リズ!」
「あ、すみません。大きな蜘蛛が出て、大っきな声、出しちゃいました。」
「そっか。」
何故だろう、全身の力が抜ける。
「あ、何かありましたか?」
「ちょっと、あったかな。」
「そうですか。」
(本当の事は言えないな。)
また私は正直になれない。
「あっちの道は使えないから、他の道を探そう。」
「まだ、私との旅を続けますか?」
RPGの選択肢のような質問をリズがしてきた。
当然の事のようにイエスと答えると、リズは涙を零した。
(なんで? どうして?)
その涙の意味はわからない。
「ど、どうしたの?」
声が震えている。心の中は、そうとう動揺しているようだ。
「いえ、ありがとう、ございます。」
涙を手で拭っても、拭っても、リズの眼からは絶えず涙が流れている。
「正直に話したら、もう、だめかと思って、ずっと言えなかったんです。」
嗚咽混じりにリズがそう話した。
何故だろう。胸が締め付けられる物があった。
「でも、これだけはお願いします。」
「なに?」
必死に呼吸を整えながら、リズは真面目な顔に変わる。
「私があなたを殺しそうになったら、あなたは私を殺してください。そのつもりで来てください。」
「そんなこと、できるわけ無いでしょう?」
「手前勝手な話ですが、私はあなたを殺すぐらいなら死んだ方が良いと思っています。なので万が一の時。お願いします。」
リズのその眼には覚悟が座っていた。




