カンナ 輪
沈黙が続く。
私はその間視点を地面から動かす事は無かった。
「名前は、なんていうのですか?」
リズがその言葉で沈黙を破った。
(そういえばいってなかったか。)
アンナという名は使えない。
「カイだ。」
私は嘘を吐いた。
「カイさん。」
リズがそう言った。私の反応を求めているのだろうか? その後に言葉は続かない。
「なんだい?」
私がそう応えるとリズは嬉しそうに笑った。
「私の名前は、、、」
そこでリズが固まる。
「カンナです。」
「え?」
(この子の名前はリズだ。それは間違いない。)
どうしていまさら名前を偽ろうとする必要があるのか。
「リズでしょう? カンナって、どういうつもり?」
「、、、はい、嘘です。私の名前はリズ。でも、どうしてあなたが私の名前を知っているのですか?」
私がリズの嘘を指摘すると、とんだしっぺ返しが来た。
「私の名前はまだあなたに話していません。」
「あ、それは。」
アンナの時に名乗られたので、カイの私も名乗られたと勘違いしていた。
「それに、どうしてあなたは私の家に、牢屋に来たのですか?」
リズが私を追い詰めていく。
「あ! アンナに教えてもらったんだよ。」
「アンナに、、、」
その言葉でリズの顔色が変わる。
「それなら、牢屋に来たことも納得がいきます。では、アンナはなんて、言っていましたか?」
「なんて、言った?」
答えに困る。
「女の子に監禁されたって。その子を逆に閉じ込めて出てきたって。」
「それだけ、ですか。」
厳しく言及が来ると思いきや、リズは寂しそうな悲しそうな顔で下を向いた。
「あなたは何か心配事とかありませんか?」
下を向いたままリズに聞かれた。
(ある。埋もれてしまって分からなくなる程に。)
「ないよ。」
「どうして初め、出会ったばかりの私と旅をしてくれると言ったのですか?」
(ただ、興味を持っただけだ。)
「リズの熱意が伝わったんだよ。」
「私の事をどう思っていますか?」
(どうも思っていない。)
「同じ目的を持った旅仲間だよ。」
「本当ですか?」
(全部、嘘だ。)
「本当だよ。」
「あなたがそう言うなら信じます。あなたが嫌なら私は一人で旅をします。あなたが望むなら、、、」
「イヤァァァアァ!!」
「何!?」
リズの話が、女の人の叫び声で打ち切られた。
「リズはここでじっとしてて!!」
「え、はい。」
リズの返事も聞かぬまま、その方へ私は走った。
「何、これ。」
映ったのは赤い、水たまり。
それを目で追いかけると一人の女の人が倒れている。
「誰が、何で。」
「あらららら、聞こえてしまいましたか。バレないよう口枷をつけていたのですが、外れてしまいましたね。」
血に汚れた女神が、そこに立っていた。




