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腹を割って 輪

「話しませんか?」

 リズの放ったその言葉に、不安の色は感じなかった。

 私を心配してのことだろうか?


『さあ、もっと寄って。』

 背中を押されて私はリズのもとに近寄る。


『あとは二人だけで。』

 そう言うとカイは消えてしまった。


「、、、2日あるき続けて、疲れてない?」

「それに関しては、大丈夫です。」

 リズは頷いて、笑みを浮かべた。


「そう、何か心配事とか無い?」

「それは、あります。」

 リズは変わらず答えたが、その笑顔は少し歪んでいる。


「私は、あなたに何度も嘘を付きました。でも今、正直に言います。だから、あなたも、、、」

 リズが顔を伺うようにこちらを見る。


「話してくれると嬉しいです。」

(正直に? 言ってもリズは理解できない。)


 私は実は君の思うアンナだと言って姿を変えたらリズはどんな反応をするだろう?

 私は実はリズの事を殺したい程憎んでいたことがあったと知ったらリズは同じ態度をとってくれるだろうか。


「私が度々一人になる理由。それを、話します。」

 リズの目には覚悟の念がこもっていた。

 私はそれを見てなぜか、その口を塞ぎたくなった。しかし、そうする前にその言葉は放たれた。


「私はあなたに殺意を抱きました。」

「な!」


「それが何故かはわかりません。でも、ある時突然、ナイフに手が伸びるのです。」

「もういい、辞めてくれ。」

 リズは実は私の事を殺したいと思っていた。


(それで私はどう思った?)

 わからない。


(これから、どうする?)

 リズ次第だ。


 殺されること自体に恐怖はもう感じない。なのに、自然と呼吸は乱れていく。


「そんな事を言われても、分かりませんよね。」

 リズは自分の鞄から縫いぐるみを一つ取り出して、「他の話をしましょうか。」と話を変える。


「私が殺した子の持っていた縫いぐるみです。可愛いでしょう?」

 縫いぐるみを撫でながら、リズは目を閉じた。


「この子は7歳の男の子が持っていたわね。純粋で笑顔が素敵な子だった。」

 そこでリズの手が止まる。


「私はその子の笑顔だけではなく、命までもを奪った。」

「嫌な冗談だな。」


「これを冗談と言うのは辞めてください。」

 血が出るほど、リズは強く手を握りしめる。


「この時の私、いやずっと、ずっと私はそれが間違っていると知らなかった。なんて。言い訳にしか聞こえませんよね。」

 私は黙る以外に出来なかった。リズを庇うことは到底して良い事では無いし、何を言っても自分が苦しくなるだけだと思ったから。


 その後もリズは縫いぐるみを取り出してはそれの持ち主のエピソードを話す。聞いてて気持ちの良い物では無かったが、一つ欠かさず持ち主の特徴を熱心に話すリズ。それが時に見せる様々な表情に魅せられた。


「こんな私です。」

 全て言い終わったのか、リズがそう言った。


「人を大勢殺しました。あなたを殺したいと思うことがあります。そんな、私です。」

 自分自身に言い聞かせるようにゆっくりと、ゆっくりと。


「、、、」


 静寂が辺りを包む。リズの秘密にしてきた事を聞いても、私の重い口は開かなかった。

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