言う事 輪
「ん、んぅ。」
「おはようございます。」
「おはよう。」
起きた途端、リズに挨拶をされる。
(嫌に早起きだな。)
「あの、やっぱり荷物を交換しませんか?」
リズが突然にそう言った。
「どうして?」
体力の無い事はリズ自身も自覚していたようだったのに、何故重い方を持とうとするのかが疑問だった。
「いえ、なんでもないです。」
何か隠しているように感じる。
「これ、貴方のですよね。渡しておきます。」
そう手渡されたのはナイフ。私の荷物に入っていたものだ。
「ああ、ありがとう。」
予期していない行動に驚いたが、断る理由も無いのでそれを受け取る。
『様子おかしいよね。』
影がリズを難しい顔で見ながら私の耳元で囁いた。
(やはりそう思うか。)
自分も思っていた事だ。
「リズ、具合はどう?」
笑顔をつくってそれとなく聞いてみる。
「もうなんともありませんよ。」
笑顔で返される。
(そういう事では無いのだが。)
「何か思うことはない?」
「え? お腹空きましたか?」
リズは首を傾げて悩む素振りを見せた後、そう答えた。
「、、、そうだね。」
(私の思い違いだったのだろうか。)
私はそう思いながらも朝ご飯の支度を始める。
食料は殺しにきた人の懐からくすねたお金で買った物。少なからずも胸にくる物がある。
「これからは私が準備しますよ。」
申し訳無さそうにリズが言った。
「気を使わなくてもいいよ。」
私は手を振りながら返す。
「すみません。あの、ちょっと向こう行ってても良いですか?」
「いいよー。」
作業をしながら聞いていたのもあって私は雑に応える。
視界の端で見えたその時のリズの顔は少し苦しそうに思えた。
『私、ちょっと見てくるね。』
「ああ、行ってらっしゃい。」
影も行ってしまって、私は一人になる。
「どうも、ごきげんよう。」
ガシャァン!
その声が聞こえて、私は持っていた調理の器具を落とした。
後ろから話しかけられて驚いたのではない。この声は、それに、今までの機械のような声じゃない。肉声。
「無視ですか? わざわざ身体を貰って会いに来てあげましたのに。」
「、、、どうして女神がこんな所にいるんだ?」
「こんな所、とは? 女神が現世にいる事はそこまでおかしいことですかね?」
薄ら笑いを浮かべながら言う女神。
「自分で言ってておかしいとは思わないのか?」
「えぇ、ちっとも。」
(なにが目的だ?)
私は警戒を強める。
「どうしてそんなに怖い顔をするのです? 私は味方の筈ですが。」
「私はお前を信用していない。」
私はハッキリと言った。
前々から思っていた事だ。でも、面と向かっていったのは初めてだった。いや、面と向かって話したのも初めてなのか。
「そうですか。良かった。これで思う存分できますね。」
女神は喜々として言った。
「お前は何者なんだ! 何が目的なんだ!!」
「そうですねぇ。じゃあ私の言う事を聞いてくれたら教えてあげます。」
"あの女の言う事をこれ以上聞くな戻れなくなるぞ"
その言葉と同時に、女神に貰った勇気の事を思い出す。
「嫌、だ。」
「じゃあ私も教えません。では精々お元気で。」
「あ、待て!」
「どうしたんですか?」
その場を去ろうとする女神を止めようと伸ばした腕が、リズの声と共に止まる。
「ああ、リズ。大丈夫かい?」
「はい。手伝いますよ。」
リズは少し不思議そうな顔をしながら地面に転がった調理器具を拾い集める。
私はしばらくの間、女神が去っていった方を見つめたまま立ち尽くしていた。




