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普通 輪

 拳銃を構えている状態で私は目を覚ました。

 途端それを投げ捨てる。


「はあ、気分が悪いな。」

 女神と別れる直前に言われた事が妙に頭に残っていた。


(私を裏切るなら手段を選ばない、か。)

 もうとっくに私は誰が仲間なのか分かっていない。

 裏切るものも分からない。


「あれ? そういえば。」

 今、冷静に考えをまとめることが出来ていた事に違和感をおぼえた。


「この人、なんだったのだろう。」

 いつもなら殺された人の記憶、感情が真っ先に来るのに。

 私を、いやアンナを知っているような口ぶりだったのだが、記憶を探してもそれは無い。


「アンナは知らないか?」

『知らないってさ。』

 影が代弁する。

 ならば、諦める他ないだろう。そのうちに本人から説明してもらえば良い。


『リズの所に行く?』

「迎えは明日だぞ。」


『、、、どうかしたの?』

「は?」

 私は影が突拍子の無い事を言ったと思って威圧的な声を出したつもりだったのだが、その声は震えてしまっていた。


『震えてるよ?』

 その震えは声だけでなく、身体までも。


「どうしてだろう、おかしいね。」

 本当はわかっている。


『何かあったの? 話聞くよ?』

 言うつもりなどなかったのだが、そう優しく囁かれると、私の口は勝手に開いていた。


「女神に、言われたの。」


 "あなたの隠していた気持ちです。"


「リズに言った言葉。拳銃の引き金を引いた事。それこそが本当の私なんだって!」

『そうなんだ。』

 ケロッとした顔で反応する影に、私はかまわず続ける。


「いつあれになってしまうかと考えると怖くて。」

 それを聞いて、影は安心したように笑った。


『人に腹が立つ事は誰にでもあることだよ。』

「それとこれとは違うでしょ。」


『君は人を傷つける事を恐れてる。なら、大丈夫だよ。』

 私は影に抱擁される。

 感触も、重みもほとんど感じない。でも、暖かかった。


『人の感情を弄んだあいつが悪いんだよ。』


 "私を裏切るなら"

(どんな手段も。)


「いや、女神は悪くないよ。」


『え?』


「お前が悪い。邪魔だ消えろよ。」

『急にどうしたの?』


「、、、何? どうしたのそんな顔して。」

『なんでも、無いよ。』

 驚いた顔のまま影は応えた。


『あっちも、かなり焦っているみたいだね。』

「何か言った?」

 影は横に首を振る。


「じゃあ、今日は何処かで野宿でもして、リズの所に行こうか。」

『野宿なの?』

 何やら不服そうに言う影。


「あなたは関係ないでしょ?」

『そんな事無いよ。』


 影と私は笑い合う。

 今日の事を忘れないように、一つ一つの事象を噛み締めながら私は、眠りに落ちた。

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