おかしな人 輪
平和な町中に、一つの銃声が響き渡った。
街の人は皆私に注目している。
(まるで私が悪者ではないか。)
でも、悪い気分じゃないな。
「逃げようか。」
私は街の外へと走り出した。
『何か、無い? 胸に残る気持ち。』
影が神妙な面持ちで私にそう言った。
「気持ちか? 開放された気分だ。」
『どうして、そうなってしまったの。』
そう俯いた影からは哀愁が感じられた。
(なんで哀しんでいるんだ?)
私には分からない。
「あぁ、私が殺されないから都合が悪いんだろ?」
『違う!!』
軽い気持ちで言っただけなのに、想像以上の否定が飛んできて気圧される。
『私には分からないけど。けど! 君の中の大切な物が死んで、哀しいよ。』
(何を言ってるんだ。)
「死んでない、むしろ生まれたんだ。」
影はそれ以降黙ってしまった。
少し寂しくはなったが、私は街を出て森の中を進む。
「することも無いから暇だね?」
しばらく歩いても、景色は変わらず人の気配もある筈がない。
(しばらくの間リズと遊んでいても良かったな。)
そんな事を思いながら私はひたすら歩き続ける。
「ねぇ、話さない?」
影は未だに口を開く事が無い。
(嫌われちゃったなぁ、)
でも私は何もおかしな事をしていない。自分にされた事を返しただけ、自分にされる前にしただけ。
「望むなら、殺されてやるから。」
『だから、私は』
「今ぁ、殺されてやるって言ったよね?」
後ろから突如話しかけられる。
(いつから居た? 気づかなかった。)
「確かに言ったよな? 絶対言った。なんて言ったっけなぁ?」
「なんだ、お前は。」
意味不明な言動に恐怖を隠しきれない。いつ私を殺しに来てもおかしくは無いが予兆はない。
「あぁそうだ、殺されてやるって。」
『この人、なんだか様子がおかしいよ。』
(そんなのわかってる。)
『そうじゃなくて、他の人と違う。』
「何がなんだか分からないよなぁ。じゃあ自己紹介がてら。」
男はナイフを取り出した。
「させるか!」
私は拳銃を取り出して確実に男の眉間を撃ち抜いた。
男は後ろに倒れる、と思った。
「やっぱりいたいなぁ。」
眉間を撃ち抜いたにもかかわらず男はよろけただけ。そのままこちらを見て笑う。
「は、、?」
「ありがとうね? ナイフを洗わなくて済んだよ。」
私はもう一度、二度と鉛玉を撃ち込んだ。
拳銃の弾が無くなるまで撃ったのに男が倒れる事は無かった。
「自己紹介は十分だろ? で、俺は何しに来たんだっけ。」
男は頭を抱えた後、メモ書きのような物を見た。
「あぁ、そうそう。そうだった。」
何やら思い出したように男は何度も頷く。
「何なの? 何者なの!?」
「自己紹介、君の番だよ。」
(え?)
首筋に冷たい物が当たった。その直後そこから暖かい物が溢れだす。
「洗わないで済んだのに、自分で汚しちゃったぁ。」
(何? 予兆は無かったのに。)
「あれぇ、死ぬのぉ? 間違えたのかな。」
(何なんだ、こいつは。)
『君と同じで、呪いを受けた人だよ。』
(私と、同じ?)
私は力無く崩れ落ちた。




