新しい勇気。 輪
『大丈夫?』
「大丈夫なわけ、無いな。」
リズの"躾"が終わって、もう数日は経った。
「喉が、乾いた。」
度々リズは私と話をしに来た。
彼女の思った通りにしなければ、容赦なく躾は始まる。
『ご飯、もう何日も来てないからね。』
そして、リズの望みに沿わなければご飯は抜きだそうだ。もちろん水も。
大分前から視界がぼやけている。
「死ぬな、これは。」
『、、、』
(喜ばないのか?)
影は依然として謎なままだ。
私を殺したいと言ったのに、私を案じる声掛けや心配ばかりをしてくれた。
君は、
『君が死ぬ事は心苦しいよ。それに、』
「、、、」
『これでは条件を満たしてない。』
「ここ、は?」
真っ白な空間。
(死んだのか。)
これでリズに入れ替わる。なんだろう、胸に残るこの気持ちは。
「餓死、ですか。壮絶な生をお送りのようですね。」
女神の声が聞こえる。
「久しぶりだな。なんで前は居なかったんだ?」
「私も忙しいのです。」
その割には余裕そうに答える。
「まあ、いい。お前の方に進展がなかったなら早く戻してくれ。」
「そうですか。申し訳ありません。」
(本当にそう思っているのか?)
全然悪びれる様子が無い。
「でも、良いのですか? 何もせずまた牢屋の中に戻るなど。」
(何を言っている?)
「殺されたんだ。入れ替わるだろう?」
その言葉に女神は首を傾げた。
「替われませんよ。飼われはしますけどね。」
上手いことを言ったかのように女神は笑う。
(入れ替われない!?)
その言葉で私は一気に正気を失う。
また牢屋に戻る? 時を過ごす?
嫌だ、嫌だ嫌だ。嫌
「出る方法もあるでしょう?」
女神が言った。
「そんなの、ないよ。」
声が震える。
「いいえ、貴方は本当は分かっています。でも勇気が出ない。」
女神は私の方へゆっくり、ゆっくりと歩みを進めてくる。そして私の頭をそっと撫でた。
「私が勇気をあげますよ。」
前は断った提案。でも、今は
「お願い、できる?」
女神は満足そうに私に"おまじない"をかけてくれた。
『あ! 起き、た? 大丈夫?』
「ああ、大丈夫だ。」
私は寝そべったまま答えた。
本当にもう、大丈夫だ。心が軽くなったような気分。
(簡単だったのに、自分から難しくしていた。)
「ここから出ようか。」
『どうやって?』
決まってる。
「見てればわかるよ。」
『え、』
影は言葉を失ってしまった。
私は寝た姿勢を保ち、来る時を待った。
ガチャッ! ギィッ!
「、、、」
コツッ、コツッ。
「、、、」
「アンナ、、? アンナ!!」
リズが名を呼ぶ。私は応えない。
「死んだの? えっと、ボタン。」
リズは何の躊躇も無く私に電流をながした。
(もう、慣れたよ。)
電流をながされても声をあげない事ぐらいは余裕だった。
「本当に死んだのね。今回は一段と早かったわ。」
今回は?
薄々感じてはいたが、リズは私以外の子も誘拐して殺した事があるのだろう。しかも何度も。
(屑で良かった。心が痛むことがない。)
リズは何処かから鍵を持ってきて牢屋の扉を開き、少し警戒しながらも私の手錠を外した。
「あれ? 指の怪我が、治って」
時が来た。
私は起き上がりリズの両腕の自由を奪った。




