所詮、望み。 輪
「躾が必要ね?」
彼女が言った。
その言葉に緊張が走る。
(何をする気だ。何にせよチャンスでは?)
扉を開いた瞬間に飛び出せば、
「一旦、おやすみなさい。」
「うっ!」
部屋の四隅から何やら薬のような物が散布される。
途端、瞼が重くなる。催眠スプレー? 私は眠りに落ちてしまった。
、 、 、
「おはよう。」
目が覚めて直ぐに彼女にそう言われた。
「何これ、」
私の身体には何やら巻き付いている。
「今から実際に体感して貰うわ。」
そう言って彼女は眠る前には持っていなかった筈のボタンを私に見せつけ、押した。
バチッ!
「痛ッッ!」
その瞬間、私に巻き付いている物から電流がながれた。
「やめっ、キャぁッ!」
し、死ぬ。
「お仕置きされたく無かったら私の、望み通りにしてね。」
彼女はまた、笑顔という仮面をつけた。
「あなたは長生きしてね。」
そう言い残して彼女は去っていった。
「いかれてるよ。」
『どうするの? 殺される?』
殺されるための策をたてた方が早いかもな。
(いや、駄目だ。何を考えているんだ私は。)
「目指すは犠牲無しで脱出だ。」
『、、、君はずっとそうであってね。』
影は優しく微笑んだ。
「なんだ? どういう意味だよ。」
『さぁ?』
(まぁ、いいか。)
私は影に感謝していた。今、この場で一人だったら私はおかしくなっていたと思う。
話し相手が居るのは良い事だ。たまに変な事を言って私は理解に苦しむ事もあるが、こいつを私は認めてしまっている。
「お前は何なんだ?」
『前言ったでしょ? 君の中の呪いだよ。』
呪い、、、
「君のためだって言った事があったな? 私を死に導いた時に。」
『あったね。』
「どういうことなんだ?」
『君は入れ替わり続けなければいけないんだ。』
間髪入れずに影は答えた。
(は? なんで?)
『分からないのも無理ないよ。でも君は殺されなければいけないんだ。』
その言葉は嘘では無い。そう思った。
前までと何も変わらない、最初からこいつの目的は私を殺す事だったんだ。なのに、それを言われた途端に私は影が全く別の者に見えた。
「お前は私を殺すためにここにいるのか?」
『聞こえが悪いけど、そうなるかな。』
「私を殺す人はお前が選んでいるのか?」
『僕にそこまでの力は無いよ。』
やはり敵なのか? でも事実、影には元気付けられた。
そして、本当に敵だとして私に話す必要などあったのだろうか。
私にとって影がどのような立ち位置かが測れない。
「気分はどう?」
相当に動揺していたのだろう。そこに居た彼女に気が付かなかった。
「大丈夫、よ?」
これで良いのかと疑問に思いながら口にする。
「誰と話していたのかしら?」
(聞かれていたのか。)
「独り言、よ。」
苦しい言い訳だが、彼女はそう、と言ったきり黙り込む。
しばらくの間沈黙が続く。
「アンナ、私の事どう思ってる?」
え、
答えの決まった質問。それ以外に道はない。
「友達、よ。」
「、、、私、嘘が嫌いなの。一人では楽しそうに話していたのに、友達とは話せないのね。」
彼女から笑顔が消える。
(まずい!)
「違うのよ、ずっと地下にいて貴方を楽しませれるような話が無いなって。」
「リズよ。」
女の子は懐からボタンを取り出した。
「まだ、分からないのね。」
ああ、誰か。
代わってほしいな。




