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夢、予兆  輪

 (ここは、どこだ?)

 私は真っ白な空間で目がさめた。その部屋はどこまでも広がっているようで、辺りを見渡しても何もない。


 (何をしていたっけ?)

 私は起きる以前の記憶を思い出す。


 (そうだ! 私は、)


「おはようございます。」


 耳に直接響くような声が突然聞こえたかと思えば、私の目の前には女? が立っていた。


 と言うのも、顔は布で隠れてしまっていて見えない。それになんだろう、輪郭もぼんやりしていて上手く捉えることができない。

 聞こえてきた声と、そのぼやけた輪郭で判断した。


「誰だ!?」

 私がそう聞くと、女は自分の事を神の使いのような物だと答えた。そして今は、女神でいいと付け加えた。


「女神様が何のようだ?」


 (これは夢だろうか。)

 普段だったらこれは間違いなく夢だと答えるだろう。でも今は違う。

 これは私の覚えている最新の記憶のせいであった。私は死んだのだ。自分の部屋の天井にぶら下げた縄を掴む私の腕が脳裏に焼き付いている。


「貴方に伝えねばならない事があって来ました。」


 (伝えねばならない事?)

「それは何だ?」


 神の使いとやらが自殺した私なんかに何のようだ?


「簡単に言いますと、貴方は輪廻の輪から外れてしまいました。」


 (輪廻?)

「生まれ変わりか? じゃあこれからどうなる?」

 私は何故かその言葉を受け入れていた。


「貴方はこれから死と生の狭間で"生きる"のです。」


 (狭間で生きる? 何を言っているんだ。)


「今は理解できないでしょう。追々話します。では、行ってらっしゃいませ。」


「は? なにを、、、」


 激しい衝撃、激しい痛み。

 まるで神経を逆撫でされているかのような不快感が私を襲う。

 私は悶え、自然と眼を閉じる。


「はぁ、はぁ。」

 痛みがやっと消えて、目を開けると私はベッドに寝そべっていた。


 見慣れない家。内装。

 (ここはどこだ。)


 私は鏡の前に立った。


 生前の私と何も変わらない顔立ち、身体付き。


 私の姿は変わらない。それに、部屋にある食器棚や台所、机の上を見ただけでわかる生活感。おそらく私がここで生活をしてきたのだ。


 その記憶もないことはない。


 (夢を見たのか? 長い夢を。)


 そう考えると、私が自殺をした記憶がとても昔の事のように感じる。


 (夢、か。)


 私は立ち上がっていつものように朝食の準備を始める。


 (今日は畑の様子を見て、それから薪を。)

 頭の中で今日することを整理する。


 (頑張ろう!)

 そんな時、


 コンコンコンッ。


 玄関の扉がノックされた。

 来客かな。


「は〜い。」

 私は返事をして扉を開いた。


「いッ!!?」

 お腹に冷たい物が当たって、私から生温かい液体がこぼれる。


 急な事で頭の整理が追いつかない。

 扉の前に居た覆面を被った人は血のついたナイフを持っている。


 その血は私の物だろうか?


 死ぬ? 死ぬ。

 私は先程見た夢を思い出した。


 (あれ? 死んだらどうなるの?)

 私の意識はそこで途絶えた。



 、 、 、


「うぅ、」

 夢と全く同じ空間。そこで私は目覚めた。

 死んだのだろうか。


「お久しぶりです。18年程ぶりですかね。」


 (お久しぶり? 18年?)

18年、それは私が生きてた年数だ。


「つい、さっきあっただろ?」

 その言葉に女は首を傾げる。


「ついさっき? それはきっとあなたの能力の一つである予兆を見たのでしょう。」


 (能力の一つ。普段であれば胸が踊る話だ。)

 だが、今はそんな気分にはなれなかった。


 腹に刺されたナイフの感触が私を地に引き落として離さない。


「私は、これからどうなるんだ?」


 女神は少しの間黙る。


「生まれ変わります。」


 は??

「輪廻から外れたんじゃないのか?」


「詳しくはまだ、話せませんが。目が覚めればきっと分かります。」

 女神がそれを言い終わるとまた私を不快感が襲う。私は床に転がる。視界がぼやけて、歪んで。

 気がつくと、私は何かを右手に握って先程の家の玄関に立っていた。


 (傷は!?)

 私は左手でお腹を探る。痛みが無かったのでまさかと思ったが、傷がなくなっている。

 これも私の能力なのだろうか。


 (あ! さっきの人は?)

 私は周りを見ようとするが、私の顔は布で覆われており良く見えない。

 (ああもう、邪魔。)

 私はその布を取る。



 !!!?

 視界に飛び込んで来た光景に、息が詰まった。


 お腹を抱えて土下座のような体勢の人。それの周りには血溜まりができている。


 思わずそれから目を逸らす。その時、画面の端で何かを捉えた。

 血のついたナイフ。それを私は右手でしっかりと握っていた。


 この血はこの人の物だろうか?


 (私が殺したの?)

 私は、覆面をした人にナイフで刺されて気を失った。そこからどうやったらこうなるんだ。


 (覆面に、ナイフ?)

 私は自らの格好を確認する。


 (これは、そんな、、、)

 信じられない。信じたくない。


 私の格好は私を刺した奴と同じだ。

 そして、ズボンになっていて気が付かなかったが目の前で横たわっている男の格好は私が刺された時に着ていた服装に酷似している。


 私はこの男と入れ替わったのだ。


 これが輪廻から外れたという私の力?



◇私の長く険しい道の始まりは動揺と困惑、恐怖に満ちた物だった。

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