第8話
前の更新から1ヶ月以上経ちました。遅くなりすみません。
マキノスと梨南子が息を切らして家に辿り着いた。
「おい、タンはいるか?!大変だ!クレスチアが、クレスチアが!!!」
「落ち着いてください。クレスチアさんがどうしたのですか?」
「ハンターにやられた!ウチがヘマしてそれで…」
梨南子は責任をひどく感じて過呼吸気味だ。マキノスは悔しくてたまらないと言った顔をしている。
「私の力不足だ…」
自分の実力に自信があった分、凹んでいる。珍しく団長の表情が大きく変化した。明らかに動揺して真っ青だ。目も泳いでいる。
「マキノスさん、案内してください」
団長は狙撃銃を背負い、愛用している短剣を太腿に刺し、珍しく片手剣を腰に刺した。目はもう泳いでいないが、そこには強い殺意が宿っていた。こんな姿はジルオとクレスチアでさえ見たことがない。その殺意に梨南子もマキノスも震え上らずにはいられなかった。
「おやおや、急いては事を仕損じる、と言いますよね?」
突如、入り口の方向から見知らぬ男の声がした。瞬時に団長が片手剣を振り向きざまに抜き、声の主の喉仏に突きつけた。
「おお、物騒ですねえ。安心してください、私はハンターじゃありませんよ」
男は聖職者のような、白いベールを被り、白い前髪が少しそこから出ていた。穏やかな微笑みをたたえている。年齢は20代だろうか。そしてクレスチアをお姫様抱っこしている。クレスチアは目を閉じて眠っているようだが、怪我をしているようには到底見えなかった。
「…とりあえず、クレスチアさんをこちらに渡していただけませんか」
「そんなに睨まないで下さいよ、怖いなあ。さ、剣を収めてください」
団長が無言のまま剣を収めると男はクレスチアをそっと渡した。
「クレっち、無事なの?!死んでないよね??」
「息はしているようだ」
マキノスと梨南子がクレスチアの様子を探っている。しかしどこにも怪我の跡はなく、息もしていてただ眠っているだけのようだ。
「私が助けなければその人死んでましたよ、確実に。傷は内臓まで達してましたからね」
相変わらず微笑みながら男は言った。
「おいお前、どういうことだ?そんな傷で助かるわけがないだろう!!」
マキノスが驚き叫んだ。
「そうですね、私の持つ力じゃなきゃダメでしたねえ」
団長もマキノスも梨南子も男が何を言っているのかわからずに黙り込んでしまった。
「そういえば名乗ってませんでした。私はタートン。皆さんがよく知る八英雄が一人『陽光の聖人』ですよ」
団長は眼を見開き、マキノスはそのまま停止し、梨南子は
「えっ?」
と一声発した。
「どうして現在生きている?伝説上の存在ではなかったのか?伝説でなくとも、遥か昔の存在ではなかったのか?」
「禁忌を犯しちゃうと色々不思議なことが起こるんです。傷を癒す力が手に入ったりだとかね」
雑な説明だったが納得する他ない。
「で、どうして貴方のような人が自分達のような無名の団の所へ来たのですか?」
「我が主人アーサーに頼まれていたのです。自分と同じ世界の住人が1000年程後に来るだろうからその時は面倒を見てくれ、ってね。彼は自分の後の世代の事も自分の子孫や家臣のように思ってたみたいですね、今は知りませんが。要するに私の使命は貴方方を外敵から守ることですね。貴方方もあの洞窟に行くというのなら仕事もさっさと終わってのんびり暮らせるんですがねえ」
「ひとつお願いしたいことがあります」
団長はタートンの現実離れした話に特に驚くそぶりも見せずにタートンに話しかけた。
「ジルオさん、仲間を治してもらえますか?」
「んー?良いですよ」
タートンは快諾してジルオが寝ている横に行き、何やら唱え始めた。団長もマキノスも梨南子も知らない言葉だった。ジルオから黒い煙が飛び出した。そして煙が収まるのを確認するとタートンは「終わりましたよ」
と一言言った。ジルオの怪我は綺麗に消えていた。
「まあしばらくしたら目覚めますよ。で、貴方方のんびりしてる場合じゃあないですよね。何しろハンターに追われてますもんね」
「その、タートンさん?が守ってくれるのじゃないの??」
梨南子が恐る恐る尋ねた。
「戦いは専門外ですし、国中のハンターから守るなんて無理がありますね。いくら私の力でも死んでしまったものを復活させるのは無理ですし、あまり酷い度合いに怪我されると治せなかったりしますよ」
「国中…もうそんなに広まったのか…まずいなこのまま国中どころではなくなるぞ」
「流石に我が主人もハンターの存在までは予測してなかったようでして、私だけが隠り世の外に残ったわけなのです」
タートンの声のトーンが下がった。顔は相変わらず微笑んでいるが、どうやらこれは本気のようだ。
「こうなれば…死ぬかそれとも…」
団長がぼそりとつぶやいた。
「おい、お前、正気か?」
団長が言わんとしていることを悟ったマキノスは壁を殴り怒鳴った。
「そうですねぇ、死にたくなければ隠り世に行くしかないですよねぇ」
タートンの声のトーンは明るくなった。
「絶対に出れない、ということで有名な洞窟…」
団長は決断できずにいる。隠り世は外見は洞窟だが、中はどうなっているか誰も知らない。
「そりゃあいいな。冒険者の血が騒ぐ」
クレスチアが体を起こしニヤリと笑って言った。
「クレっち、クレっち!!!!」
梨南子が泣きながらクレスチアに抱きついた。
「クレスチアさん、よく戻って来てくれました!」
「ははははっ、そうだな、私達は冒険者だったなあ。二度と出れない洞窟なんて唆るじゃないか!」
マキノスはすっきりとした笑顔で隠り世行きに賛成した。
「クレスチアうるせぇ!」
ジルオがドアを勢いよく開けて出てきた。
ジルオはこれまでのことを説明を受け、とても不安な顔をした。やはり隠り世行きに対する恐怖はあるようだ。そしてしばらく黙り込んでぽつりと
「俺も行く」
と言った。それを聞き逃さなかったタートンは
「さてさて、では早速出発しましょうか!」
とより一層明るく手を叩いた。荷物をまとめる一行を待ちながらタートンは
「貴方に頼まれた最後の仕事ですね…」
と寂しげに呟いた。
「ハンターに見つかりにくいコースを選びました」
「おいおい、コースってこれ…」
文字通りの茨の道を前に一行は尻込みした。
「これならハンターは来ないけど、ウチら生きて目的地にたどり着けないんじゃない??」
「貴方方は今から隠り世に行くのですよね、そんな程度の覚悟でどうするのです」
タートンは面白そうに笑って言うと茨の中へと躊躇うことなく入って行った。
だいぶ先にはなると思いますが絶望を交えたいと思っておりますので気長にお待ちいただければ幸いです。