第7話-2
「皆さま、本日は劇場に来て頂きありがとうございます。それでは8人の英雄を率いた英雄王ことアーサーの伝説をお楽しみください!」
ある晴れた日のことであった。世界で最も強い8人の1人、八英雄の鋼鉄卿ことザダルが森の中を歩いていた!泉のほとりに人が倒れていたのであった
ザダル「おい、そこのお前、しっかりしろ!」
倒れていた人「気を失ったと思ったのだがな、一体ここは何処なのだ?」
ザダル「ここはヴェラズの外れの森だ。お前、変わった見た目をしているな」
倒れていた人「そちらこそ顔が真っ青だ」
ザダル「む、これだと話し辛いな、我が名は八英雄が1人ザダル」
倒れていた人「余はアーサー。ザダルと言ったか、どうしてそんなに顔が真っ青なのだ?」
ザダル「いやいや、私の肌の色は普通だ。アーサーこそどうして淡い橙の色をしているのだ」
アーサー「ところでここはヴェラズの外れの森と言っていたな、ヴェラズなどという都市の名前は聞いたことがない」
ザダル「王都ヴェラズを知らぬというか?まあいい、とりあえず付いて来い」
木陰に潜む魔物をザダルは蹴散らした。
アーサー「ザダル、見たことのない生き物だな、あれは何だ?」
ザダル「ゲイザーすらも知らないのか?奴らはこの森に住んでいて、我らに仇をなす存在だ」
アーサー「ザダル、手から紫の光が出ているが何が起こっている?」
ザダル「本当に何も知らないのだな。これは魔法を使った時に漏れ出た分だ」
アーサー「こんな魔法は見たことがない!余のいたところでは呪いなどしかないぞ!魔法を用いて戦うなど見たことがない!」
ザダル「アーサーはもしかすると異なる世界から来たのではないか?」
アーサー「それならば納得が行くな。余はモードレッドを辛うじて倒したが深い傷を負ったはず。それなのに今はどうだ、無傷だ。それに泉に投げさせたはずのエクスカリバーもしっかりここにある」
アーサーとザダルは王都ヴェラズへとたどり着いた。
ザダル「先程のような魔物がたくさん生息している洞穴があるのだ」
アーサー「それは気になるな。さっそく行こうではないか」
ザダル「それならば友を呼ぼう」
そして現れたのは優しい微笑みをたたえた男。
ザダル「彼は八英雄が1人タートンと言う。『陽光の聖人』という二つ名を持っている。タートンは禁忌を犯し回復の術を使えるのだ」
タートン「怪我の治癒ならお任せくださいね」
3人は冷たくじめじめとした洞穴へ入る。
アーサー「何だ全く手応えがない」
タートン「アーサーさん、素晴らしいお手前です。魔法が使えないのにいとも容易く土竜を屠るとは」
ザダル「この様子なら奥までも行けるな」
ついに洞穴の最奥にたどり着いた一行。そこで待ち構えていたのは数多の勇者を屠ったゴーストだった!
ザダル「気をつけろ、こいつは強い」
タートン「ゴーストによる怪我の治癒は難しいのでお気をつけを」
アーサー「気にするな、骨のない敵ばかりで飽き飽きしていたところだ!」
アーサーは持っていた剣、エクスカリバーを一振り!ゴーストはたちまち消え去った。
ザダル「アーサー、これほど強いとは。このザダル、そなたに仕えよう」
タートン「私も仕えたいです」
アーサー「よかろう、しっかり付いて来るがいい!」
鋼鉄卿と陽光の聖人という名高い英雄を従え、その恐るべき強さでアーサーはたちまち世界中に名を馳せた。数多の腕自慢の冒険者が戦いを挑んだがどれもアーサーの足元にも及ばなかった。そしてついには残りの八英雄も手合わせをしに来たのだ。
悪魔と契約を交わした「災厄の巫女」 パトリシア、槍使いの頂点「魔槍の龍人」 ガウェン、至極の音色を奏でる「天翼の奏者」ルーシール、死神と恐れられる「大鎌の巨人 」ドプツェルコス 、強力な魔法で全てを破壊する「破滅の幼童 」ユピ、最高の術者と称される「不屈の患者 」レイユ。6人はそれぞれ長い激闘の末にアーサーに敗れたのだ。そうして八英雄を従えたアーサーは英雄の長という意味を込めて、英雄王と呼ばれることになった!
それから間もなくのこと。
アーサー「どこに行っても魔物は弱く退屈だ。良い場所はないのか?」
ルーシール「隠り世、と呼ばれている洞窟はどうでしょうか」
レイユ「隠り世というと一度入ると二度と出られないと有名なところですね」
パトリシア「私知ってますわ!確かヴェラズから半日で着くらしいですわ!遥か昔から数多くの凄腕冒険者が挑み、未だ誰も帰って来ていないらしいですわ!」
ガウェン「パトリシアの話が本当だったらかなりまずいのでは?」
タートン「何やら恐ろしそうな場所ですねえ」
ザダル「何を怯えているのだ!我々は冒険者であろう?そのような面白い場所に行くしかないではないか!」
ユピ「おもしろいところいきたい!!!」
アーサー「余もザダルと同じく行きたいと思っていた。無理に来いなどとは言わぬ。付いて来る者だけが来ればよい」
8人は地獄の底までアーサーに付き従おうと決めていた。誰も欠けることなく隠り世へと旅立った。それから9人の英雄を見た者はいなかったが、9人はまだ隠り世にいると言われている!
劇場に拍手が響いた。
「アーサー王…ひょっとして…」
梨南子は何やら思い当たるものがあるようだったが、クレスチアとマキノスはすっかり興奮してしまって小さな子供のようにはしゃいでいる。
「アーサー王の伝説はやはり最高だ!隠り世と呼ばれる洞窟は本当存在するし、私もいずれ行ってみたいものだ」
「アタシもアーサーのように強くなりたい!」
「なるほどね、ウチとアーサー王がダブるって言いたいんだね」
「そうだな、でもアーサー王は伝説上の人物だから実際、術無しで来たのは小娘が初めてだろうがな。100年生きてきたがそのような話は聞いたことがない」
マキノスは梨南子に興味津々だ。
「マキちゃん100歳なの?!」
「そうだ。エルフは300年程生きる。長生きな者は4.500年生きるぞ」
「クレっち達ヒューマンもそうなの?」
「アタシ達ヒューマンは長生きでも80歳くらいまでだな。エルフはダントツで長生きなんだ」
3人は劇場を後にして家へと向かった。しかしその道中で大きな水龍に遭遇した。
「街中に水龍が何でいるんだよ」
「相当大きいぞ、こやつは水龍の長かもしれん」
「えっ、なにこれ、大きすぎない?なんか暴れてない?」
「怒っている…どうやら誰かが逆鱗に触れ、討伐に失敗して龍除けをせずに逃げたようだな、そしてそのまま追いかけてここまで来た…ダンジョンの入り口はきっと滅茶苦茶に壊れているだろうな」
マキノスは水龍の攻撃を捌きながら説明をしたがクレスチアと梨南子にはそれを聞く余裕がなかった。
「お前ら!もう少し凌ぎきれ!私が倒す!」
マキノスは状況を理解し、高く飛び上がり斧で切りつける。何度も強力な攻撃を放つ。しかしマキノスがとどめの一発を放つ前に梨南子の顔面に水龍の攻撃が直撃した。仮面は木っ端微塵に割れ、梨南子は衝撃で後ろに吹き飛んだ。その後水龍はマキノスによって倒されたが梨南子の顔が晒されてしまったのだ。クレスチアが急いで駆け寄りどうにか隠そうとするが手遅れだった。何人かの男がこちらに走って来ている。
「まずい、ハンターだ」
「ど、どうしよう」
「とにかく逃げるしかない!マキノス!任せた!」
クレスチアよりも圧倒的に速く動けるマキノスが梨南子を掴んで全速力で駆けた。クレスチアはその後を追うハンターの妨害をした。動きを止めることは出来ない。明らかにハンターの方が強い。クレスチアの血が流れでる。意識が朦朧としている。容赦のない蹴りがクレスチアに直撃する。
「上手く逃げられただろうか」
クレスチアはそんなことを考えながら倒れた。