第6話
こんにちは金色の銀メッキです。ジルオの名前が他作品とかぶっていたのに驚きました。今回は少し狂気です。
激しい金属音がクレスチアの目の前でした。
「ヒューマンの癖に私の速さについていけるなど…」
驚いて目を開けたクレスチアはエルフの女の斧を短剣で軽々と防ぐ団長の姿を見た。エルフの身体能力だと速すぎる移動と攻撃に納得がいく。
「ちょ、ジルっち、血血血血!!!」
梨南子の叫びにクレスチアは我に帰った。ジルオの怪我は深いようだ。
「ダンジョンに潜ってる身だ。怪我くらい最初から覚悟してる…」
と言いながらジルオの顔は痛みに悶えている表情だ。
「とりあえず離れるぞ、アタシたちでは足手まといだ」
ジルオを担いで洞窟の中へ身を隠す。エルフは洞窟のダンジョンであまり見かけない。その理由が、エルフは洞窟を嫌い森を好むので森のダンジョンに集まっているかららしい。本当にそうかは知らないが。幸いなことにエルフの女は団長に気を取られていてこちらの動きに気付いていない。それに団長の方が戦力でずっと勝っているのも見てわかる。クレスチアはジルオに応急処置を施した。
「どうしてヒューマンの癖に!!私は双子星冒険者だぞ!どうしてどこにも証の無いお前にこの攻撃が捌ける?!」
女の怒鳴り声が聞こえる。よく響く甲高い声だ。双子星冒険者は冒険者の中でもかなり強い。上から天星、金星、銀星、双子星、黎明、蒼明、香明、凛明、青葉、若葉。この10段階だ。双子星から星の冒険者と呼ばれ国からお金が支給される。凛明から黎明まで明けの冒険者と呼ばれ明けの冒険者から団を持つことができる。青葉と若葉はいわゆる初級者だ。クレスチアとジルオは青葉冒険者で、団長は凛明冒険者だ。これらの称号には世界基準があり、実績を「国立冒険局」に認めてもらわなければならない。賄賂で昇進する者もいるらしいが星の冒険者になるためには試験が必要なのでそこは誤魔化しが効かない。さらに天星冒険者は今までも今も1人もいない。
「ねぇ、クレっち…あの女の人どうしてあんなに怒ってるの」
「さあな、『復讐のエルフ』だったら面倒だな」
2人が話しているうちに団長が決着をつけるべくエルフの女を弾き飛ばした。女は地面に体を強く打ち付けたようで動かなくなってしまった。気絶したらしい。団長は手際良く縄で女を拘束した。
「もう大丈夫ですよ」
団長がこちらを向いて大きな声で言う。クレスチアはジルオを背負い、梨南子はフラフラとした足取りで団長の元へ向かった。
「団長、ジルオの怪我は深いみたいです。急がなければ危なそうです」
「このエルフは自分が持っていくので急いで帰りましょう」
梨南子は疲れた足でなんとか走った。ずっとスライムを狩っていたのと突然の襲撃で疲れ切っている。ジルオは何も喋らなくなっている。意識はあるようだが危険なことには変わらなさそうだ。
団長が先頭を走り夜の林を突っ切った。道中出てくる魔物を蹴飛ばして進んだ。団長は素手で戦っても強い。
「くそっ、この縄を解け!!!早く解けと言っている!聞こえないのか!!」
ジルオに手当てを施しベッドに寝かせたクレスチアは、目を覚ましたエルフの女の様子を見ているがさっきから縄を解けとしか叫んでいないし明らかにヒューマンを見下している。エルフはもともとプライドが高いが、この女エルフは何処にでもだいたいいる嫌な奴だ。
「いや、突然襲撃してきた貴方を解くわけないですよ」
女は床に座っているが団長は椅子に座っているので完全に団長が上から見ている図だ。それに腹を立てたのか
「偉そうに見下しやがって!ぶち殺すぞ!」
と喚き始めた。
「なあ、あんたもしかして『復讐のエルフ』か?」
「だとしたらなんだ小娘」
「いや、面倒な奴って有名だからな」
「私を侮辱するのか小娘!!」
ギャンギャン騒ぐその姿は気高いエルフとはかけ離れていた。
「おいなんだ小娘、解く気になったのか」
クレスチアの取り出したナイフを見て女は捻くれた笑みを浮かべた。偉そうな奴が見下している相手にする笑みだ。
「何をする…こんなことをして許されると思っているのか…?」
クレスチアのナイフは女の肩にどっぷりと刺さっている。クレスチアはナイフを引き抜いた。血が流れ出る。
「は???お前、なめてんのか?」
「クレスチアさん、怒る気持ちはわかりますが今は抑えてください」
「団長、甘やかすからダメなんですよ。『復讐のエルフ』っていうのはただの殺人鬼なんですよ。ただねぇ、昔ヒューマンに親と兄弟を殺されたからヒューマンばかりを狙って殺してるから復讐とかカッコいいアダ名付いてるんですけど、無関係なヒューマンからしたらこんな奴ただの殺人鬼ですからね。徹底的に痛めつけてやらないとダメですよ」
突如残酷に豹変したクレスチアは感情の無い声で言うと女の頭を掴んでそのまま全力で床に押し付けた。
「うぐっ…なんだ私に恨みでもあるのか?この私を拷問しようだなんて面白いことを思いつくな」
女は歪んだ笑みを浮かべている。痛みに歪んでいるのではなく、狂気が満ちている。
「うるせぇな名前はなんだ」
「聞いてどうする」
「貴様を躾けるのに必要だ」
「ふん、マキノス・アルーナデビラだ。言い間違えたら許さん」
マキノスは自分が圧倒的不利で痛めつけられている状況にも関わらず依然として偉そうだ。
「ほう、良い子だ」
そう言いながらクレスチアは屈託のない笑みでマキノスの長くて透き通る黄緑色の髪を鷲掴みにして引っ張り、顔を上げたマキノスの鳩尾に靴を履いたまま蹴りを入れ、顎にも蹴りを入れた。
「お風呂あがったよーってクレっち?!?!」
風呂から上がり着替えを済ませて部屋に入ってきた梨南子はクレスチアの行いを見て叫んだ。
「ねぇ、何してるの?今のクレっち凄く怖いよ?」
梨南子のクレスチアを見つめる見開いた目に光はなかった。それにぞっとしたクレスチアはマキノスの髪の毛を離した。クレスチアはジルオに重傷を負わせたことを許せなかったが本心から残酷になって豹変したわけではなかった。もう二度とこのエルフが自分達に近づかないように、恐怖を埋め込んでおきたかっただけだったが、この梨南子にはそれを全く感じない。
「わかったよ…これに懲りたら二度とアタシ達に手出しするんじゃねえぞ」
「はっ、何を言うか。貴様らを気に入った。ヒューマンの癖にこんなに抵抗した挙句、この私が痛めつけられるとは思ってもいなかった!!このマキノス、貴様らの団に入ってやろう」
血塗れになっているはずのマキノスはどこか生き生きとしていた。梨南子はいつも通りの梨南子に戻っていた。
「よろしくお願いしますね、マキノスさん」
「次変なことしたら、本気で殺すからな?」
「安心しろ、仲間に手出しはしないさ」
何故か清々しい笑顔でマキノスはクレスチアを見上げる。
「ジルオの馬鹿は手当ての時に『あんな強い冒険者が入ってくれたら俺らの団はどこへでもいける』とか言ってたし喜ぶと思う。でも謝れよちゃんと」
「ああわかっているさ」
「マキちゃん、手当てしなきゃダメだよこれ!!」
梨南子が縄を切り、マキノスを自分の部屋に連れて行く。こうして双子星冒険者が団に加わった。