第2話
こんにちは、金色の銀メッキです。クレスチアの過去回想がメインの回です。
ジルオの作ったゴブリンの煮込みは中々凄まじい味だった。団長は口に入れた瞬間、目を少しだけ大きく見開いて黙々と食べ続けたがクレスチアは咳き込んでそのままむせてしまった。とても食べれる味では無かったのか、ジルオは一口食べてそのままスプーンを置いた。
「やっぱ団長強いわ…」
ジルオとクレスチアは団長の強さをひしひしと感じたのであった。
「寝れねぇな…もう2人とも寝ちまったか」
夜中、クレスチアは普段着に着替えて自分の部屋からそろりと出た。明日もダンジョンに潜るのに起こしてしまってはいけない。そしてそのまま家の外に出て外壁にもたれかかって人の気配の無い森を見ていた。
「ほんと、アタシって戦いの才能ないねぇ、盗みなら上手いのにな、まあジルオもアタシと一緒だけど…アイツは丸くなった…」
自分に話しかけるようにクレスチアは呟いた。
「団長…タンに出会った時のこと、まだ鮮明に覚えてるな、初めての失敗だったからなあ。ジルオはどうだろうね」
ジルオとクレスチアの出身は貧民街だ。政府は貧民街を救済するつもりなど端からないのか貧民街で生まれた奴は出世も出来ずに病気か事故か喧嘩で若くで死ぬか、たまに奴隷として連れていかれるかだ。奴隷がどのような運命を辿ったか、ジルオもクレスチアも詳しくは知らない。奴隷になった奴が帰ってきた事がないからだ。繁華街の酒場などで聞いた噂によれば、奴隷を欲しがる奴は拷問趣味のある奴がほとんどで死んだほうがマシな苦痛を日々味わいついに奴隷耐えきれずに悲惨な死を遂げる。まあ、魔法の発展した世の中でわざわざ身の回りの世話をする人間など召し抱えなくても家庭用ゴーレムで十分だ。政府の役人も知ってるし、政府の役人も貧民をいたぶって己の欲を満たしている。お金がなくて武器も防具も冒険者になるための登録料も無い貧民が多く、貧民街は荒んでいた。ジルオとクレスチアは両親の顔も覚えていない。いつ生まれたかもはっきりしない。2人に血縁関係があるのかどうかもわからない。しかし気がついたら2人は一緒に暮らしていて、繁華街まで出掛けてはスリに引ったくりを重ねて生き延び続けた。
2年前の秋だった。とある不良の持っていた品を盗んだジルオとクレスチアは、その仲間の不良達から目をつけられてしまい、盗みができないでいた。繁華街に通じる道全てに不良達やその仲間が塞いでいたからだ。次に出くわしたら絶対ジルオもクレスチアも命はない。しかし、冬が近づいて来ていてその寒さは家の無い2人にはこたえる。凍死が先か殺されるのが先か、それとも餓死か。貧民街での殺人は日常茶飯事であり、そもそも皆余裕がないので誰も助けてはくれない。
「クレスチア、どうする?」
「ジルオ…強行突破だ、どうせこのまま死ぬのなら出来ることをするぞ」
ジルオは怯えた顔をしながらも繁華街に向かうクレスチアについていった。
「死にに来たかガキども」
「ひぃっ」
「盗られる方が悪いんだよ鈍間ぁ」
「ふん、そこのチビのようにしてりゃあ可愛げがあるのにな、メスガキ」
不良の突きつけたナイフはクレスチアにじわじわと食い込み、クレスチアの腕から血が滴る。頭を押さえつけられたクレスチアは文字通り絶体絶命のように見えた。しかし不良が倒れた。ジルオの吹いた毒矢が不良の首に命中して意識を失った。
「クレスチア、大丈夫?」
「ああこのくらい痛くねぇ。作戦成功だな、こいつが馬鹿で助かったよ」
クレスチアは恨みを込めて不良の頭部を蹴飛ばし繁華街へと進んだ。やはりナイフ痛かったのだろう。
「うーん、あの飛行帽被ってる奴、装備からして見習い冒険者ってとこだろうな、良いカモだな」
歴戦の強者からはなかなか盗めない。彼らの気配察知には敵わないのだ。
「アタシが気をひくからジルオ、スれ」
「わかった」
クレスチアが怪我をした腕を抑えて、大袈裟によろめいて飛行帽を被った男性にぶつかる。
「す、すいません、怪我が痛くて」
クレスチアは男性を見上げつつジルオが静かにスったのを確認して大袈裟によろめきながら雑踏へと消えた。そしてそのままジルオを追うように走った。
「やったぜ」
「多分気づいてないよあれ」
人気のない路地で戦利品の確認を行う。盗ったポーチの中になにかの鱗が何枚か入っていた。透き通るような白色をしている。
「何だこれ、鱗?」
「見たことねぇな、いつもは大体似たような古いコインとかなのにな、売れるのか?」
「わからんけど持って行くか?」
「そうしよう」
ジルオもクレスチアも人の気配に気づいていなかった。
「あの」
その声に驚いたジルオは持っていた鱗を落としてしまい、クレスチアは叫んでしまった。声の主はさっきの飛行帽の男性だった。まだ若く、クレスチアと2、3歳しか離れていないように見える。
「そ、その鱗、自分のなので返してもらえますか?」