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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第七章 異世界生活編03 魔術師の街
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< 04 始まり04 魔術師たちの増長 >


”魔術師の街”とうたうこの街に移住して、暮らし始めた魔術師たち。

彼らは、この街の住人たちに歓迎されたことに感激した。

パーティー内で低く見られていたり、粗暴な冒険者たちの仲間扱いされて、嫌な目で見られてきた者が多かったから。

その様な者たちにとって、この街は楽園の様に感じられた。

「この街の為に頑張ろう。」、「この街に貢献しよう。」と言う魔術師たちが多く居た。

魔術師たちと街の住人たち。

その関係は、とても良好なものだった。

初めのうちは。


人は環境に慣れてしまう。

良い意味でも、悪い意味でも。

優遇され、感謝され、それによって魔術師たちが増長ぞうちょうし始めた。

「自分たちは特別なのだ。」と、そう口にする者たちが現れる様になった。

そうした者たちが、徐々に増えていった。

やがて、「魔術師は至高の存在だ。」、「優遇されて当然だ。」などと言いはなつ者も現れた。

この街の住人たちとのトラブルが、増え続けていった。


その報告を執務室で受けて、俺は失望し、呆れた。

しかし、呆れているだけで済ます訳にはいかない。

魔術局の局長である俺は、その対応に迫られた。

今、この街は変わりつつあるところだし、俺の計画は半分ほどしか進んでいない。

今、この街の住人たちとの間に問題を起こしてはいけない。

俺は対策を考えた。


素行そこうに問題のある男たちを十人ほど集めた。

その男たちの前には、大金が積まれている。

かなりの金額だ。

男たちの頭の中は、期待でいっぱいになっていることだろう。

「仕事を頼みたい。君たちにしか頼めない仕事だ。」

「他の街で、この街の様に魔術師を集めてほしい。」

「この街の様子は、君たちの知っている通りだ。他の街の領主も喜んで協力してくれるだろう。」

「魔術師とは特別な者たちだ。君たちには簡単な仕事だろう。」

男たちは、”特別な者たち”に相応ふさわしい報酬に目がくらんだのだろう。

仕事を引き受け、さらに数人の仲間を誘って、俺の指示した街に向かった。

俺は、問題を起こしそうな男たちを追放することに成功した。

彼らに与えた仕事は失敗するだろう。

この街の様にするには、領主の協力と大量の資金が必要だ。簡単な事では無い。

彼らは、自分たちには不可能な事なのだと、気が付くことも無いだろう。

それに、成功されても困る。

魔術師を一番多く集めなければ、大きな力にはならない。

二番や三番では意味が無く、俺が目指すのは圧倒的な一番なのだから。

出費は大きかったが、副領主に用意させたお金だ。気にはならない。

今はまだ、この組織を大きくしなければならない。

まだ、多くの魔術師がこの国には居るのだから。


この街に沢山の魔術師が集まった。

そして魔術局も十分に大きくなった。

魔術局で雇った魔術師たちに作らせている魔道具とポーションも、かなりの量が貯まった。

そして、国中くにじゅうに、この街の評判が広まった。

そろそろ頃合ころあいだろうか?

俺は、魔道具とポーションを、まだ魔術師が多く居る街に一気に流通させて、価格破壊を引き起こした。

こうすれば、魔道具やポーションの作製をしている魔術師たちや、治癒魔法に特化した魔術師たちの仕事が減り、その者たちがこの街に移住する後押しになるだろう。

良い成果が出ることに期待し、魔道具とポーションを作らせ続けた。


この街に、さらに沢山の魔術師が集まった。

魔術局は、かなり大きな組織になった。

特に、この国のポーションの生産量の半分近くを、この魔術局で握っているのは大きい。

貴族たちも冒険者たちも、自分たちが必要としているのに、ポーションを作る魔術師たちを下に見過ぎていた。

彼らはもう、我々を下に見る事は出来ないだろう。

ここまで来るのに、沢山の資金を使った。

しかし、副領主もこの成果に大変喜んでくれている。

俺は、自分の成し遂げた事に満足した。


満足した事がいけなかったのだろうか?

街でとんでもない事件を起こした者が出た。

「俺は魔術師さまだぞ、至高の存在なんだ。」

「この街の発展は俺たちのお陰だ。お前たちは俺たちに奉仕していればいいんだよ!」

その男は、そんな馬鹿なことを言い放ち、揉めた街の住人たちに攻撃魔法を撃ち込んだ。

とんでもない暴挙ぼうきょだった。

街の住人たちとは良い関係を築いていきたいのに、それをブチ壊してしまいかねない。

衛兵と協力して取り押さえ、留置場にブチ込んでもらった。


魔術局の幹部たちを集めた。

問題を起こした者への処罰と、街の住人たちへの謝罪文の内容を検討する為だ。

幹部の中にも「魔術師は至高の存在です。この街の発展は我々のお陰です。街の人たちは我々に尽くすべきでしょう。」なんて言う者が居た。

危険な兆候ちょうこうだった。

「副領主の尽力と、街の人たちとの友好的な関係があったから、短期間でこの組織がここまで大きくなったのだぞ。魔術師が至高の存在だったからではない。」

「そもそも魔術師は至高の存在などではない。以前のあつかわれ方を、もう忘れたのか? 至高の存在だったのなら、初めから魔術師を下に見る者など居なかっただろうが。」

幹部の一人が静かな口調で言った。

まわりの者たちがおろかだったからですよ。」

その一言ひとことで場が静かになった。

その男が続けて言う。

「至高の存在である我々が導いていかなければならないのです。おろかな者たちを。」

俺は絶句した。

「……正気か?」

「当たり前です。」

その男は、そう堂々と言い切った。

まわりの者たちも、彼の言葉に賛同している様だった。

いや、こいつらは言葉に酔っているのだ。

自分たちを至高の存在だと思いたいのだ。街の住人たちを自分たちの下に見る事で。

処罰を決めるどころの話ではなくなった。

説得を試みたが、まったくの無駄だった。

それどころか、以前、大金を渡して追放した者たちについて、「魔術局の金をどこかに隠した。」だの、「横領だ。」などと糾弾きゅうだんされた。

一番簡単な方法で対処したツケが、こんなところで回った来た。

問題を起こしそうな者たちを追放する事が目的だったのだが、目の前の幹部たちにそんな事を言っても無駄だ。

目の前の幹部たちも、追放した者たちと同類なのだから。


紛糾ふんきゅうした会議が終わった。

俺を解任する決議をして。


報告

11/04に、前話の最後の方を少し追加、修正しました。


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