< 04 始まり04 魔術師たちの増長 >
”魔術師の街”と謳うこの街に移住して、暮らし始めた魔術師たち。
彼らは、この街の住人たちに歓迎されたことに感激した。
パーティー内で低く見られていたり、粗暴な冒険者たちの仲間扱いされて、嫌な目で見られてきた者が多かったから。
その様な者たちにとって、この街は楽園の様に感じられた。
「この街の為に頑張ろう。」、「この街に貢献しよう。」と言う魔術師たちが多く居た。
魔術師たちと街の住人たち。
その関係は、とても良好なものだった。
初めの内は。
人は環境に慣れてしまう。
良い意味でも、悪い意味でも。
優遇され、感謝され、それによって魔術師たちが増長し始めた。
「自分たちは特別なのだ。」と、そう口にする者たちが現れる様になった。
そうした者たちが、徐々に増えていった。
やがて、「魔術師は至高の存在だ。」、「優遇されて当然だ。」などと言い放つ者も現れた。
この街の住人たちとのトラブルが、増え続けていった。
その報告を執務室で受けて、俺は失望し、呆れた。
しかし、呆れているだけで済ます訳にはいかない。
魔術局の局長である俺は、その対応に迫られた。
今、この街は変わりつつあるところだし、俺の計画は半分ほどしか進んでいない。
今、この街の住人たちとの間に問題を起こしてはいけない。
俺は対策を考えた。
素行に問題のある男たちを十人ほど集めた。
その男たちの前には、大金が積まれている。
かなりの金額だ。
男たちの頭の中は、期待でいっぱいになっていることだろう。
「仕事を頼みたい。君たちにしか頼めない仕事だ。」
「他の街で、この街の様に魔術師を集めてほしい。」
「この街の様子は、君たちの知っている通りだ。他の街の領主も喜んで協力してくれるだろう。」
「魔術師とは特別な者たちだ。君たちには簡単な仕事だろう。」
男たちは、”特別な者たち”に相応しい報酬に目が眩んだのだろう。
仕事を引き受け、さらに数人の仲間を誘って、俺の指示した街に向かった。
俺は、問題を起こしそうな男たちを追放することに成功した。
彼らに与えた仕事は失敗するだろう。
この街の様にするには、領主の協力と大量の資金が必要だ。簡単な事では無い。
彼らは、自分たちには不可能な事なのだと、気が付くことも無いだろう。
それに、成功されても困る。
魔術師を一番多く集めなければ、大きな力にはならない。
二番や三番では意味が無く、俺が目指すのは圧倒的な一番なのだから。
出費は大きかったが、副領主に用意させたお金だ。気にはならない。
今はまだ、この組織を大きくしなければならない。
まだ、多くの魔術師がこの国には居るのだから。
この街に沢山の魔術師が集まった。
そして魔術局も十分に大きくなった。
魔術局で雇った魔術師たちに作らせている魔道具とポーションも、かなりの量が貯まった。
そして、国中に、この街の評判が広まった。
そろそろ頃合いだろうか?
俺は、魔道具とポーションを、まだ魔術師が多く居る街に一気に流通させて、価格破壊を引き起こした。
こうすれば、魔道具やポーションの作製をしている魔術師たちや、治癒魔法に特化した魔術師たちの仕事が減り、その者たちがこの街に移住する後押しになるだろう。
良い成果が出ることに期待し、魔道具とポーションを作らせ続けた。
この街に、さらに沢山の魔術師が集まった。
魔術局は、かなり大きな組織になった。
特に、この国のポーションの生産量の半分近くを、この魔術局で握っているのは大きい。
貴族たちも冒険者たちも、自分たちが必要としているのに、ポーションを作る魔術師たちを下に見過ぎていた。
彼らはもう、我々を下に見る事は出来ないだろう。
ここまで来るのに、沢山の資金を使った。
しかし、副領主もこの成果に大変喜んでくれている。
俺は、自分の成し遂げた事に満足した。
満足した事がいけなかったのだろうか?
街でとんでもない事件を起こした者が出た。
「俺は魔術師さまだぞ、至高の存在なんだ。」
「この街の発展は俺たちのお陰だ。お前たちは俺たちに奉仕していればいいんだよ!」
その男は、そんな馬鹿なことを言い放ち、揉めた街の住人たちに攻撃魔法を撃ち込んだ。
とんでもない暴挙だった。
街の住人たちとは良い関係を築いていきたいのに、それをブチ壊してしまいかねない。
衛兵と協力して取り押さえ、留置場にブチ込んでもらった。
魔術局の幹部たちを集めた。
問題を起こした者への処罰と、街の住人たちへの謝罪文の内容を検討する為だ。
幹部の中にも「魔術師は至高の存在です。この街の発展は我々のお陰です。街の人たちは我々に尽くすべきでしょう。」なんて言う者が居た。
危険な兆候だった。
「副領主の尽力と、街の人たちとの友好的な関係があったから、短期間でこの組織がここまで大きくなったのだぞ。魔術師が至高の存在だったからではない。」
「そもそも魔術師は至高の存在などではない。以前の扱われ方を、もう忘れたのか? 至高の存在だったのなら、初めから魔術師を下に見る者など居なかっただろうが。」
幹部の一人が静かな口調で言った。
「周りの者たちが愚かだったからですよ。」
その一言で場が静かになった。
その男が続けて言う。
「至高の存在である我々が導いていかなければならないのです。愚かな者たちを。」
俺は絶句した。
「……正気か?」
「当たり前です。」
その男は、そう堂々と言い切った。
周りの者たちも、彼の言葉に賛同している様だった。
いや、こいつらは言葉に酔っているのだ。
自分たちを至高の存在だと思いたいのだ。街の住人たちを自分たちの下に見る事で。
処罰を決めるどころの話ではなくなった。
説得を試みたが、まったくの無駄だった。
それどころか、以前、大金を渡して追放した者たちについて、「魔術局の金をどこかに隠した。」だの、「横領だ。」などと糾弾された。
一番簡単な方法で対処したツケが、こんなところで回った来た。
問題を起こしそうな者たちを追放する事が目的だったのだが、目の前の幹部たちにそんな事を言っても無駄だ。
目の前の幹部たちも、追放した者たちと同類なのだから。
紛糾した会議が終わった。
俺を解任する決議をして。
報告
11/04に、前話の最後の方を少し追加、修正しました。




