< 02 始まり02 ある魔術師の男 >
冒険者ギルドのギルドマスターから、依頼の打診を受けた。
依頼内容は、ある少女に魔法を教えるという内容だった。
俺に来る様な依頼内容ではないと思った。
ギルドマスターから直接話が来た事と、”ある少女”と言う表現から、貴族絡みの依頼だと思った。
きっと、他の者たちに断られて、俺なんかのところにまで話が来たのだろう。
そう思って断ったのだが、思いの外、ギルドマスターに粘られた。
「他に頼める者が居ない。」と、言われた時には、噴き出すのを我慢できなかった。
「貴族絡みだから断られただけだろ。俺も御免だ。」
そう言って立ち去ろうとした。
「報酬は良いぞ。お前は、今、パーティーに所属していないから、稼ぐアテが無いだろ。」
確かに俺は、今、パーティーに所属していない。
依頼中にメンバーの一人が死んで、その穴埋めが出来ずに解散になってしまったからだ。
子供がまだ小さいので、稼ぎは必要だ。
一応、万が一と言うヤツがあるかもしれないので、もう少しだけ話を聞く事にした。
しかし、依頼の内容については、ギルドマスターの口が堅かった。
報酬が期待できそうな雰囲気は感じたが、やはりその依頼を受ける気にはならなかった。
結局断って、ギルドを後にした。
冒険者ギルドを出た後、俺は情報屋に向かった。
”念の為”と言うよりは、”なんとなく”だった。
その情報は、すぐに手に入った。
あの依頼は、王都の隣街の領主の娘に魔法を教える仕事だと分かった。
やはり貴族絡みだった。
貴族絡みだったが、危険は少ない様に感じた。
情報が、あっさりと、安く手に入ったからだ。
貴族たちが、他の貴族の弱味を握って駆け引きに使おうとするならば、弱味になりそうな情報は必死に隠そうとするはずだ。
情報が外に出てしまったら、その情報をもみ消そうとするだろう。
何か有効に使える情報ならば、その情報を得た者が、やはりもみ消そうとする。
あっさりと、安く情報が手に入ったので、あの依頼は危険の少ないモノなのだろうと俺は思った。
そうなると、報酬が良いのは魅力的だ。
少し考えた後、俺は冒険者ギルドに戻り、その依頼を受けた。
王都の或る商人の家で、その少女に魔法を教えることになった。
その少女は真面目に取り組んでくれるが、才能は平凡だった。
大成する様には感じられなかった。
俺は、手の掛からない平凡な生徒に、退屈し始めた。
課題をさせながら、何か利用する方法はないだろうかと考える様になった。
夜、ベッドの上で考える。
今の状況の利用方法を。
金や地位に繋がる”何か”がないか考えた。
「情報が少ないか…。」
そう感じたので、諦めて寝た。
少女に将来の夢を訊いた。
「父様を安心させることです。」
「貴族たちに振り回されないだけの力を得て、父様を安心させたいです。」
少女はそう答えた。
夜、ベッドの上で考える。
もちろん、今の状況の利用方法をだ。
”貴族たちに振り回されないだけの力を得る”
それが依頼主の父娘の願いだった。
その願いを叶えさせ、得た力を、俺も利用できる様にすれば、お金を稼げたりするのだろうか?
何か良さそうに感じた。
その方向で考えてみようと決めた。
少女の父親の情報を集めた。
領主である妻を、副領主として支えている様だ。
そして、少女の父親は貴族ではなかった。
有名な大商人の息子だった。
利用できると思った。
チャンスだと思った。
俺にも運が向いて来たと思った。
俺は必死になって考える。
依頼主の父娘の利用方法を。
王都の隣街に来た。
この街の、或る料理屋で、俺はあの少女の父親に会った。
少女に魔法を教える仕事を終えた後、父親宛てに手紙を渡していたのだ。
一度、実際に会って確認したかったから。
この場所は、あの少女の父親の指定だ。
娘にコッソリと魔法の勉強をさせていたと思っているのだろう。
情報が安く売られていた事には気が付いていない様だ。
この男は無能だな。
俺は自分の計画が上手くいく事を確信した。
父親は俺に礼を言った。
「娘に魔法を教えてくれてありがとう。」と。
能天気だな。
娘には大して才能が無かったのだがな。
「娘さんには、確かに魔法の才能が在りました。」
「ですが、大成することは無理でしょう。せいぜい”普通の魔術師”止まりです。」
「娘さんに将来の夢を聞きました。「貴族たちに振り回されないだけの力を得て、父様を安心させたいです。」と、言っていました。」
「彼女の魔法の才能だけでは、その夢を叶えることは難しいでしょう。」
「ですが、あなたの協力があれば、その夢を叶えられると思います。」
父親は身を乗り出して訊いてくる。
「それは一体、どの様な事ですか?」
「先ず、この街に魔術師を集めます。」
「魔術師を優遇する政策を採れば良いのです。あなたのお父上がこの街を再建する際に、商人を優遇する政策を採りましたよね? あれと同様の事をすれば良いのです。」
「魔術師は、戦士などから下に見られていて、その待遇に不満を持っている者は多い。」
「多くの魔術師をこの街に集める事は、容易に出来るでしょう。」
「そして、集めた魔術師をすべて雇います。」
「雇った魔術師たちには、魔道具やポーションなどを作らせます。」
「街の収入になりますし、それらの生産量がこの国で一番になれば、この街の発言力は大きなものになるはずです。」
「それは、”貴族たちに振り回されないだけの力”に、十分に成り得ます。」
父親は俺の話に感動している様だ。
俺は用意していた、計画を書いた紙の束を渡した。
この計画の初めには、俺のやることが無いからな。
やるのは少女の父親の仕事だ。
せいぜい頑張ってほしい。
俺の為に。




