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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第七章 異世界生活編03 魔術師の街
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< 02 始まり02 ある魔術師の男 >


冒険者ギルドのギルドマスターから、依頼の打診を受けた。

依頼内容は、ある少女に魔法を教えるという内容だった。

俺に来る様な依頼内容ではないと思った。

ギルドマスターから直接話が来た事と、”ある少女”と言う表現から、貴族絡みの依頼だと思った。

きっと、他の者たちに断られて、俺なんかのところにまで話が来たのだろう。

そう思って断ったのだが、思いの外、ギルドマスターに粘られた。

「他に頼める者が居ない。」と、言われた時には、噴き出すのを我慢できなかった。

「貴族絡みだから断られただけだろ。俺も御免ごめんだ。」

そう言って立ち去ろうとした。

「報酬は良いぞ。お前は、今、パーティーに所属していないから、稼ぐアテが無いだろ。」

確かに俺は、今、パーティーに所属していない。

依頼中にメンバーの一人が死んで、その穴埋めが出来ずに解散になってしまったからだ。

子供がまだ小さいので、稼ぎは必要だ。

一応、万が一と言うヤツがあるかもしれないので、もう少しだけ話を聞く事にした。

しかし、依頼の内容については、ギルドマスターの口がかたかった。

報酬が期待できそうな雰囲気は感じたが、やはりその依頼を受ける気にはならなかった。

結局断って、ギルドをあとにした。


冒険者ギルドを出たあと、俺は情報屋に向かった。

”念の為”と言うよりは、”なんとなく”だった。

その情報は、すぐに手に入った。

あの依頼は、王都の隣街の領主の娘に魔法を教える仕事だと分かった。

やはり貴族絡みだった。

貴族絡みだったが、危険は少ない様に感じた。

情報が、あっさりと、安く手に入ったからだ。

貴族たちが、他の貴族の弱味よわみを握って駆け引きに使おうとするならば、弱味になりそうな情報は必死に隠そうとするはずだ。

情報が外に出てしまったら、その情報をもみ消そうとするだろう。

何か有効に使える情報ならば、その情報を得た者が、やはりもみ消そうとする。

あっさりと、安く情報が手に入ったので、あの依頼は危険の少ないモノなのだろうと俺は思った。

そうなると、報酬が良いのは魅力的だ。

少し考えた後、俺は冒険者ギルドに戻り、その依頼を受けた。


王都の或る商人の家で、その少女に魔法を教えることになった。

その少女は真面目に取り組んでくれるが、才能は平凡だった。

大成する様には感じられなかった。

俺は、手の掛からない平凡な生徒に、退屈し始めた。

課題をさせながら、何か利用する方法はないだろうかと考える様になった。


夜、ベッドの上で考える。

今の状況の利用方法を。

金や地位に繋がる”何か”がないか考えた。

「情報が少ないか…。」

そう感じたので、諦めて寝た。


少女に将来の夢を訊いた。

「父様を安心させることです。」

「貴族たちに振り回されないだけの力を得て、父様を安心させたいです。」

少女はそう答えた。


夜、ベッドの上で考える。

もちろん、今の状況の利用方法をだ。

”貴族たちに振り回されないだけの力を得る”

それが依頼主の父娘の願いだった。

その願いを叶えさせ、得た力を、俺も利用できる様にすれば、お金を稼げたりするのだろうか?

何か良さそうに感じた。

その方向で考えてみようと決めた。


少女の父親の情報を集めた。

領主である妻を、副領主として支えている様だ。

そして、少女の父親は貴族ではなかった。

有名な大商人の息子だった。

利用できると思った。

チャンスだと思った。

俺にも運が向いて来たと思った。

俺は必死になって考える。

依頼主の父娘の利用方法を。


王都の隣街に来た。

この街の、或る料理屋で、俺はあの少女の父親に会った。

少女に魔法を教える仕事を終えた後、父親宛てに手紙を渡していたのだ。

一度、実際に会って確認したかったから。

この場所は、あの少女の父親の指定だ。

娘にコッソリと魔法の勉強をさせていたと思っているのだろう。

情報が安く売られていた事には気が付いていない様だ。

この男は無能だな。

俺は自分の計画が上手くいく事を確信した。


父親は俺に礼を言った。

「娘に魔法を教えてくれてありがとう。」と。

能天気だな。

娘にはたいして才能が無かったのだがな。

「娘さんには、確かに魔法の才能が在りました。」

「ですが、大成することは無理でしょう。せいぜい”普通の魔術師”まりです。」

「娘さんに将来の夢を聞きました。「貴族たちに振り回されないだけの力を得て、父様を安心させたいです。」と、言っていました。」

「彼女の魔法の才能だけでは、その夢を叶えることは難しいでしょう。」

「ですが、あなたの協力があれば、その夢を叶えられると思います。」

父親は身を乗り出して訊いてくる。

「それは一体、どの様な事ですか?」

ず、この街に魔術師を集めます。」

「魔術師を優遇する政策を採れば良いのです。あなたのお父上がこの街を再建する際に、商人を優遇する政策を採りましたよね? あれと同様の事をすれば良いのです。」

「魔術師は、戦士などから下に見られていて、その待遇に不満を持っている者は多い。」

「多くの魔術師をこの街に集める事は、容易に出来るでしょう。」

「そして、集めた魔術師をすべて雇います。」

「雇った魔術師たちには、魔道具やポーションなどを作らせます。」

「街の収入になりますし、それらの生産量がこの国で一番になれば、この街の発言力は大きなものになるはずです。」

「それは、”貴族たちに振り回されないだけの力”に、十分にます。」

父親は俺の話に感動している様だ。

俺は用意していた、計画を書いた紙の束を渡した。

この計画の初めには、俺のやることが無いからな。

やるのは少女の父親の仕事だ。

せいぜい頑張ってほしい。


俺の為に。


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