< 01 始まり01 少女とその父 >
「お嬢様には、魔法の才能がお在りの様です。」
その日の夜、娘に付けているメイドに、そう報告を受けた。
「おお、それは本当か?」
「はい、旦那様。」
私は嬉しくなった。
娘が自分の才能を開花させ、幸せな人生を歩むことを想像する。
私は、自分に才能が無かったが為に、周りの人間たちに振り回されてきた。
娘には、その様な後悔する人生を歩ませたくなかった。
私は、娘が自分の将来を自分で決められる様に、その才能を伸ばしてあげようと思った。
メイドに口止めをして下がらせ、一人になり、今後、どの様に娘の才能を伸ばしていこうかと考え始めた。
私には何の才能も無かった。
立派な商人であった父の下で商売について学び、父の仕事の手伝いをしていた。
父の下で、そこそこの実績を残せていた。
そう思っていた。
だが、俺に任されていた仕事は、誰にでも出来る、誰がやっても失敗しない様な仕事だけだった。
その事に自分で気が付いた訳でもない。
弟に教えてもらって、初めて気が付いた。
私は、その程度の事も見抜けないほどに、才能が無かったのだ。
その弟が優秀だった訳では無い。
その弟も、その下の弟に教えられて気が付いたそうだ。
末っ子の三男は、優秀だった。
父は、早い段階から、三男を後継者に決めていた様だった。
「三人目でやっと後継者の育て方が分かったわい。」と、酒の席で知り合いの商人に話していたらしい。
父にとって、自分はそれほど大切な存在ではない事に気が付いたのは、大分後になってからの事だった。
後継者として使えなかった私を、父は政略結婚の道具に使った。
私に才能は無かったが、見た目だけは、そこそこ良かったからだろう。
父が見付けて来た結婚相手は、貴族の令嬢だった。
身分違いも甚だしい。
父の正気を疑った。
だがその話は、私の困惑を余所に纏まり、貴族の令嬢と結婚することになった。
結婚後。
妻が、或る街の領主の地位を継いだ。
後継ぎを亡くしていた、妻の叔父の地位を引き継いだのだ。
副領主として、領主となった妻と一緒にこの街に移り住んだ。
この街の財政状況を見て気が付いた。
私との結婚の目的は、商人である私の父の金を使って、この街を立て直す事だったのだ。
父は、王都に在った商売の拠点をこの街に移し、領主の義父として、この街の商人たちを纏めていった。
この街が王都の隣街である利点を活かし、商人たちが中継地として利用し易い様に、施設や制度を整えて優遇し、この街の商売を活性化させ、街を豊かにし、街の財政を立て直した。
この街の商人たちが、誰も父に逆らえなくなるのに、多くの時間を要することは無かった。
娘が生まれた。
父は喜んでくれた。
妻も喜んでいたと伝えられた。
私は喜べなかった。
何もかもが不満だったから。
娘は、すくすくと成長してくれた。
妻は、娘にあまり興味が無い様だった。
私も、それほど愛情を感じていなかった。
子の成長に、親はあまり関係ないのだろう。
しかし、娘は私に懐いてくれた。
どうしてかは分からない。
私には、何も無かったのに。
しかし、懐かれれば愛情も湧く。
いつしか私は、残りの人生を娘の為に使おうと決めていた。
娘に魔法の才能が在ると知らされてから、娘の魔法の才能を伸ばす方法を考えていた。
単純に娘の魔法の才能を伸ばすだけでは、十分ではない。
娘の将来の為にならなければならない。
この国の貴族たちには魔術師が少ない。
何故かは分かっていない。
しかしその為、魔術師を貴族の高貴な血と相容れない劣った者として下に見る、少々過激な者も居た。
娘に魔法の才能が在ることが、周りにバレてはいけない。
周りにバレずに、娘に魔法の教育を受けさせる。
とても困難なことだと思った。
教育係は冒険者を宛てることにした。
冒険者ギルドを通して依頼をすれば、守秘義務を守らざるを得なくなるからだ。
他に良い案など思い浮かばなかった。
次に教育を受けさせる場所を考えた。
王都の商人の友人に協力をとりつけた。
この友人は私と境遇が似ていた。
優秀な弟が後を継いだ為、家族の中で少々浮いていて、このまま普通に仕事をしているだけでは駄目だと考えていた。
その為、普通ではない、私の計画に協力してくれることになった。
娘には、父の下で商売の勉強をさせた。
その後、王都の友人のところに行かせて、現場で商売の勉強をさせた。
「身内のところ以外でも、勉強をさせるべきだ。」と言って、納得させた。
実際にすることの半分は、魔法の勉強だが。
妻は、特に反対しなかった。
あまり興味が無かったのだろう。
娘にも私にも。
妻のその態度に、私はより強く、残りの人生を娘の為に使おうと決意を固めた。




