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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第七章 異世界生活編03 魔術師の街
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< 01 始まり01 少女とその父 >


「お嬢様には、魔法の才能がおりのようです。」


その日の夜、娘に付けているメイドに、そう報告を受けた。

「おお、それは本当か?」

「はい、旦那様。」

私は嬉しくなった。

娘が自分の才能を開花させ、幸せな人生を歩むことを想像する。

私は、自分に才能が無かったがために、まわりの人間たちにまわされてきた。

娘には、その様な後悔する人生を歩ませたくなかった。

私は、娘が自分の将来を自分で決められる様に、その才能を伸ばしてあげようと思った。

メイドに口止くちどめをしてがらせ、一人になり、今後、どの様に娘の才能を伸ばしていこうかと考え始めた。



私には何の才能も無かった。

立派な商人であった父のもとで商売について学び、父の仕事の手伝いをしていた。

父のもとで、そこそこの実績を残せていた。

そう思っていた。

だが、俺に任されていた仕事は、誰にでも出来る、誰がやっても失敗しない様な仕事だけだった。

その事に自分で気が付いた訳でもない。

弟に教えてもらって、初めて気が付いた。

私は、その程度の事も見抜けないほどに、才能が無かったのだ。

その弟が優秀だった訳では無い。

その弟も、その下の弟に教えられて気が付いたそうだ。

末っ子の三男は、優秀だった。

父は、早い段階から、三男を後継者に決めていた様だった。

「三人目でやっと後継者の育て方が分かったわい。」と、酒の席で知り合いの商人に話していたらしい。

父にとって、自分はそれほど大切な存在ではない事に気が付いたのは、大分だいぶ後になってからの事だった。


後継者として使えなかった私を、父は政略結婚の道具に使った。

私に才能は無かったが、見た目だけは、そこそこ良かったからだろう。

父が見付けて来た結婚相手は、貴族の令嬢だった。

身分違いもはなはだしい。

父の正気しょうきを疑った。

だがその話は、私の困惑を余所よそまとまり、貴族の令嬢と結婚することになった。


結婚後。

妻が、或る街の領主の地位を継いだ。

後継ぎを亡くしていた、妻の叔父の地位を引き継いだのだ。

副領主として、領主となった妻と一緒にこの街に移り住んだ。

この街の財政状況を見て気が付いた。

私との結婚の目的は、商人である私の父の金を使って、この街を立て直す事だったのだ。


父は、王都に在った商売の拠点をこの街に移し、領主の義父として、この街の商人たちを纏めていった。

この街が王都の隣街である利点を活かし、商人たちが中継地として利用し易い様に、施設や制度を整えて優遇し、この街の商売を活性化させ、街を豊かにし、街の財政を立て直した。

この街の商人たちが、誰も父に逆らえなくなるのに、多くの時間を要することは無かった。


娘が生まれた。

父は喜んでくれた。

妻も喜んでいたと伝えられた。

私は喜べなかった。

何もかもが不満だったから。


娘は、すくすくと成長してくれた。

妻は、娘にあまり興味が無い様だった。

私も、それほど愛情を感じていなかった。

子の成長に、親はあまり関係ないのだろう。

しかし、娘は私になついてくれた。

どうしてかは分からない。

私には、何も無かったのに。

しかし、懐かれれば愛情も湧く。

いつしか私は、残りの人生を娘の為に使おうと決めていた。



娘に魔法の才能が在ると知らされてから、娘の魔法の才能を伸ばす方法を考えていた。

単純に娘の魔法の才能を伸ばすだけでは、十分ではない。

娘の将来の為にならなければならない。


この国の貴族たちには魔術師が少ない。

何故かは分かっていない。

しかしその為、魔術師を貴族の高貴な血と相容あいいれない劣った者として下に見る、少々過激な者も居た。

娘に魔法の才能が在ることが、周りにバレてはいけない。

周りにバレずに、娘に魔法の教育を受けさせる。

とても困難なことだと思った。


教育係は冒険者を宛てることにした。

冒険者ギルドを通して依頼をすれば、守秘義務を守らざるを得なくなるからだ。

他に良い案など思い浮かばなかった。

次に教育を受けさせる場所を考えた。

王都の商人の友人に協力をとりつけた。

この友人は私と境遇が似ていた。

優秀な弟が後を継いだ為、家族の中で少々浮いていて、このまま普通に仕事をしているだけでは駄目だと考えていた。

その為、普通ではない、私の計画に協力してくれることになった。


娘には、父のもとで商売の勉強をさせた。

その後、王都の友人のところに行かせて、現場で商売の勉強をさせた。

「身内のところ以外でも、勉強をさせるべきだ。」と言って、納得させた。

実際にすることの半分は、魔法の勉強だが。

妻は、特に反対しなかった。

あまり興味が無かったのだろう。

娘にも私にも。

妻のその態度に、私はより強く、残りの人生を娘の為に使おうと決意を固めた。


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