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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第六章 異世界生活編02 最初の街
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< 02 西端の街02 >


異世界に来て三日目の朝。

俺は街の中を走っている。

朝のジョギングは気持ち良いよね。

そんな習慣、俺は持っていないけど。

俺の後ろにも朝のジョギングを楽しむ人が居ます。

「魔石を寄越しやがれ!」

そんな声が聞こえますが。

うんざりしながら、今日のこれまでの事を振り返ろう。


朝。

俺は森の奥に在る拠点で目を覚ました。

拠点と言っても、たいしたものではない。

三畳ほどの広さで、木を組んだ壁と屋根が在るだけだ。

ドアも無く、出入り口には板を外側から当てている。

その板が倒れない様に、ゴレームさんに寄りかかってもらっています。

「釘が無くても何とかなるよなぁ。」とか、軽く考えていたが、蝶番ちょうつがいの事を忘れてました。(てへ)

拠点の中は、床一面に枯れ葉が敷かれ、その上に熊の魔物の毛皮を被せただけの寝床が在るだけだ。

いかにも、「取り敢えず作りました。」って感じだ。

ちゃんとした拠点は、今日から作り始める。

【多重思考さん】たちとゴーレムさんたちが。

頼んだよー。


起きたら食事をした。

リンゴを食べ、猪の肉と芋を焼いて食べた。

味付けは無いが、満足している。

この世界に来てから、コレしか食べていないから、コレで満足しているのだろうけどね。


次にステータスの確認をした。

ステータスの偽装がきちんとされているかと、結界魔法の状況を確認する為だ。

結界魔法は有効時間があるので、確認しておかないと危険だからだ。

頭の中で、「【物理無効】と【魔法無効】の結界魔法を掛け直しておきました。」と声がした。

周囲の警戒をしてくれている【多重思考さん】だ。

ありがたい。

色々おかしいステータスの偽装がきちんとされているのを確認した。

よし、OK。


身支度を整えた。

小剣を腰に差し、ローブを羽織り、「これだけでよかったかな?」と、少し考えた。

売る予定でいる薪と魔石は、【無限収納】から【マジックバッグ】に移しておいた方がいいよね。

【無限収納】から直接出すと、騒がれたりするかもしれないから。

【無限収納】から【マジックバッグ】を取り出し、薪と魔石を移す。

【マジックバッグ】を手に持ち、準備は整った。

街から少し離れた場所にあらかじめ配置しておいた【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を目印に、俺は転移した。


道の上に転移して来た。

少し先に街が見えた。

いきなり門番の前に転移する訳にはいかないから、仕方が無いよね。


門の前まで歩き、デカい外壁を見上げて、「俺は、これからこの街に入り、この異世界での普通の生活を始めるのだ。」と感激していたら、門番をしている男の人にあきれられた。

街に入る手続きをして街に入り、門の近くに在る薪を取り扱っているお店に行った。

薪を沢山買ってくれて、銀貨3枚を手に入れることが出来た。

銀貨の価値も、薪の相場も、両方共よく分かっていないから、多いのか少ないのか、さっぱり分からないけどな。(苦笑)

次に、魔石を売ろうと冒険者ギルドに向かった。


薪を買ってもらった人に訊いた、冒険者ギルドの建物に来た。

一番下が半地下になっている2.5階建て? それとも3階建てと言うのかな? の建物だ。

半階分の階段を上がり、建物の中に入った。

ラノベにある様に、受付と酒場が在る造りになっていた。

酒場では、朝なのに冒険者風の人たちが十人くらい飲み食いしていた。

「朝食かな?」と思ったが、酒くさいので、アカン人たちなのだろう。

目を合わせないでおこう。うん。

受付の窓口は三か所。二か所は人が居た。

俺はいている窓口に向かった。

窓口には綺麗な女性が座っていた。

これもラノベ通りだね。

「いらっしゃいませ。今日はどの様なご用件でしょうか?」

いい笑顔だ。プロっぽいね。

「魔石を買い取ってほしいんだけど、”冒険者でない人からは買い取れない”とか、ある?」

「申し訳ありませんが、一般の方からは買い取りが出来ません。」

「ああ、やっぱりか。じゃあ、しょうがないね。手間を掛けさせて申し訳ない。」

買い取ってもらえない可能性は考えていたので、特に残念とも思わず、俺は帰ろうとした。

「冒険者にはなられないのですか? すぐにお手続き出来ますよ。」

「冒険者になる気は無いんだ。邪魔したね。」

「何か御用がありましたら、またお越しください。」

丁寧な接客だね。さすがプロだね。

俺は冒険者ギルドをあとにした。


俺は魔道具屋に向かうことにした。

魔石を買い取ってもらう為にね。

周囲を警戒してくれている【多重思考さん】から警告が来た。

「後ろから男が近付いて来ています。」

背後を警戒している【目玉(仮称)】の視覚を頭の片隅に置いて、それにも意識を向けた。

「おい、待てよ。」

「なんですか?」

首だけ振り返り返事をした。

立ち止まりはしない。

「ちょっと、待てよ。」

肩をつかもうとしてきたので、ササッと早歩きにして、男の手にくうを切らせた。

「なんですか?」

もう一度言った。歩きながら。

「俺が代わりに魔石を売ってやるぜ。俺はDランクの冒険者だからな。」

後を付いて来て、そう言う男。

「結構です。」

俺は首だけ振り返ったまま、歩き続けた。

男はムカついた様な表情をした。

「いいから、寄越せって言ってんだよ!」

男は小走りになり掴み掛って来た。

強盗かよっ。

俺はダッシュで逃げた。

と、同時に、自分の背後に【シールド】を張った。

男が【シールド】にぶち当たるのを想像していたのだが、俺が動くと【シールド】も動く様で、男が【シールド】にぶち当たることは無かった。

あれ? 失敗した。

こういう状況を事前にシュミレートしていたのだが、【シールド】が自分と一緒に動いてしまうとは知らなかった。

俺は男と一緒に朝の街を走りながら、どうしようかと【多重思考さん】と相談した。


以上、回想終わり。


走りながら、【多重思考さん】と相談する。

「ウォール系の魔法でないと、壁に”どべしっ!”という愉快ゆかいな状況には、ならない様ですね。」

「愉快な状況」とか言うなや。楽しんでんぢゃないよ。(笑)

「足元に【ブロック】を作って転ばすのが面白いと思います。」

よし、【多重思考さん】の案を採用。

(面白そうなので)自分でやろうと思ったが、【多重思考さん】がやってくれた。

ちぇっ。


ガツ

「うおっ。」

ガッ

「ぐぼおぉぉ。」

【多重思考さん】が魔法を使った直後に、背後から猪の鳴き声っぽいのが聞こえてきた。

振り返ろうとしたが、「次の角を右に曲がって、すぐまた右に曲がってください。」と、頭の中で言われたので、それに従う。

角を二つ、右に曲がった。

「【不可視】の結界を張りました。もういいですよ。」

そう頭の中で言われたので、走る速度をゆるめる。

「ふう。」

歩きながら、何をしたのか【多重思考さん】に訊く。

”転ばす”以外の事も、やった様な気がしたので。

「男の足元あしもとに魔力の塊の【ブロック】を作って、転ばせました。」

「それと、ちょうど転んだ男の顔が来るあたりにも、【ブロック】を作っておきました。」

「良い具合に、男の鼻にクリーンヒットしましたよ。(スッキリ)」

うん。よくやった。

スカッとしたね。


よし、魔道具屋に行くか。

そう思ったのだが、「魔道具屋は後回あとまわしにしましょう。」と、頭の中で言われた。

「なんで?」と頭の中で疑問を浮かべたら、「魔道具屋の前にガラの悪そうな別の冒険者たちが居ます。」とのこと。

なんなんですかね? この街の冒険者たちは。

俺はたいした魔石は持っていないのにね。

普通に森に行って、魔物を狩れよ。

俺はちょっと、事情を訊きたくなったので、魔道具屋に向かうことにした。


俺のまわりには、情報収集用の物体の【目玉(仮称。魔法で作られた目)】が浮いている。

不可視なので見えないけどね。

【目玉(仮称)】の操作とか周囲の監視とかは、【多重思考さん】たちがしてくれている。

情報収集用に作ったのだが、これを操作している【多重思考さん】たちが、【目玉(仮称)】を通して魔法を使えるので、心強い護衛となっている。

俺の身を守る為に俺の周囲に【目玉(仮称)】が居て、行先である魔道具屋にも居て、俺が歩いている先で安全の確認をしてくれている【目玉(仮称)】も居る。

【多重思考さん】たちと【目玉(仮称)】たちのお陰で、俺の安全が確保されている。

それだけでなく、初めて来た場所なのに、迷子になることも無い。

ありがたいね。

そんな訳で、俺は無事、迷子にならずに魔道具屋にたどり着いた。


魔道具屋の前には、確かに教えてもらった通りに、ガラの悪そうな冒険者たちが居た。

俺が近付くと、「魔石を俺たちに寄越せ。俺たちが有効に使ってやるから感謝しろ。」なんて言ってきた。

こいつらも強盗だよ。

あきれるね。

「私はゴブリンの魔石しか(マジックバッグの中には)持ってないですよ。」

「ゴブリンくらいは狩れるでしょ? なんで自分たちで狩りに行かないんですか?」

と、俺は訊いた。

「うるせぇ!、さっさt…。」

ドサドサドサ

会話にならないので、【スリープ】で眠らせました。全員。

【多重思考さん】たちが。(てへ)

強盗たちを踏み越えて、魔道具屋に入って行く。

魔道具屋は奥行2mほどの狭い店だった。カウンターにおじさんが座っている。

「こんにちは。」

「………………。」

挨拶したが返事が無い。

まだ、朝だったね。

「おはようございます?」

「あー、いや、そうじゃなくて。…おもてのは、おまえさんがやったのか?」

「えーっと、はい。」

「何をしたんだ?」

「えーっと、横になってもらいました?」

手に持った物を横にする様なジェスチャーを、首をかしげながらしてしまう。

我ながら、おかしなジェスチャーだと思う。(苦笑)

「言いたくないんだったらいいや。よくやってくれた。ありがとう。」

「いえ、邪魔だったんで。」

「それで、どんな用件だい?」

カウンターに座るおじさんが、笑顔で訊いてきた。

「魔石を買い取ってもらいたいんですが、出来ますか?」

「おお、買い取らせてもらうよ。」

なかなか好印象だったので、【マジックバッグ】に入れておいた魔石を全部買い取ってもらうことにする。

「ゴブリンの魔石ですけど、20個お願いします。」

【無限収納】には、もっと魔石があるんだが、【マジックバッグ】には20個しか入れていなかった。

沢山たくさん売って値段が下がると、困る人が居るかもしれないからね。

【多重思考】さんたちが【目玉(仮称)】を通して魔法を使い、森の中で魔物を狩ってくれるので、俺が何もしなくても【無限収納】に魔石が貯まっていきます。

その為、この街くらいの規模なら、魔石の価格が変動してしまいそうです。

【マジックバッグ】の中から魔石を掴んでカウンターに置いていく。

20個全部を買い取ってもらって、銀貨6枚になった。

銀貨の価値も、魔石の相場も、両方共よく分からないので、多いのか少ないのか、さっぱり分かりません。(苦笑)(本日二回目)


おじさんにこの街の事を訊こう。

「この街の冒険者たちって、どうなってるんですか? 強盗っぽいんですけど。」

「あぁ、それはなぁ…。」

そう言って、おじさんは話してくれた。

この街には、これと言った交易品も仕事も無く貧しい為、衛兵があまり居ない。

その為に、いざという時の街の防衛の戦力として冒険者たちをアテにしている。

それに気付いた冒険者たちが、好き勝手していたのだとか。

「何で過去形なんだよ。現在進行形で好き勝手してんぢゃん。」と、思ったが、街の人たちがやられっぱなしにせずに、集団で反撃したそうで、今では街の人たちに対しては手出しはしないらしい。

その分、街の外から来た人たちには、少々アレとのこと。

冒険者たちもアレですが、街の住人たちもアレなんぢゃないですかね?

割と世紀末風味な街ですね。(苦笑)

「冒険者ギルドは、何か対策をしていないんですか?」

「有効な手立ては無いみたいだな。厳しく取り締まれば、冒険者たちが出て行ってしまって、ギルドも領主も困るからな。」

「領主は何も対策をしていないのですか?」

「あー、何もしていない様に感じるなぁ。知恵もお金も無いんじゃないかな。」

一刀両断だな。

「下手に街から追い出しても、この街の周囲で盗賊になられたら、より状況が悪くなって、街が完全に終わってしまいかねないからね。」

そう言うおじさん。

俺から見れば、盗賊が街の中に居るか、街の外に居るかの違いにしか見えないけどな。

わざわざ、口に出して言わないけど。

おじさんに礼を言って、魔道具屋を出た。

俺は、ゴミを踏み越えて東側の門に向かって歩いて行く。

この街で、のんびり過ごせるという気が、まったくしないな。

とっとと、この街を出よう。

うん。


東側の門に向かって、さっさか、さっさか歩いて行く。

歩きながら、この街の治安の事を考える。

「いっその事、冒険者たちを追放してしまえばいいのに。」と。

世紀末風味な街の人たちが居れば、冒険者たちが居なくても、いざという時も大丈夫な気がするけどな。

冒険者たちが街の外で盗賊になっても、困った状況になったら、集団で蹴散らしに行くんぢゃないかな。

そんな状況にならない様に、冒険者たちは街の人たちに手を出さなくなったのかな?

………………。

あれ?

俺、今、何か変な事を考えちゃってるかな?

冒険者ギルドを存続させる為には、現状って、割と悪くない状況なんぢゃないのか…?

いや、気の所為せいだな。

二度と来ることの無い街だと思うし、どうでもいいや。


俺は東側の門から、この街を出た。


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