< 01 西端の街01 >
これから、彼のこの異世界での”普通の生活”が始まります。
彼の望む、のんびりした生活です。
ただ、彼がのんびりと過ごす。
ただ、それだけの話です。
たぶん。
きっと。
(ムリナンダナー)
俺は目の前に建つ大きな壁を見上げている。
街を囲んでいる外壁だ。
俺は、これからこの街に入り、この異世界での普通の生活を始めるのだ。
これまでの苦労を思い出して感激する。
たった二日間の苦労だが、何も知らない異世界で、言葉も通じず、食料も持たず、一人で荒野に居た。
魔法の使い方を独学で学び、森へ行き猪を狩ったり、言葉が通じない状況を魔法で解決したり、色々な問題を克服して、俺は今、この街の入り口に立っている。
感激もしようと言うものだろう。
俺の冒険は、ここでお終いだ。
俺はこの街で、揉め事を避けて、のんびり過ごします。
< 完 >
「おまえは、何をしているんだ?」
門の前で感激していたら、そう声を掛けられた。
声のした方を見る。
革鎧を着た人が、槍にもたれ掛かる様に立ち、呆れた顔でこちらを見ていた。
門番をしている男の人だ。
「………………。」
「………………。」
「こんにちは?」
「ああ、おはよう。」
そうだね。まだ朝だったね。
「で? おまえは、何をしているんだ?」
「えーっと、感激していました?」
「なんで疑問形なんだよ。 で? 街に入るのか? 入らないのか?」
「あ、入ります、入ります。」
俺は、街への入り方を訊く。
「街に入るのには、どうすればいいのでしょうか?」
一応、調べてはいるけど、”ド田舎から出てきた体で行こう”と、考えていたからね。
俺は、この世界の常識が無いから、その言い訳を「ド田舎から出て来たばかりだから。」で、通すつもりだ。
「身分証は持っているか?」
「いえ、持っていません。」
「どこから来たんだ?」
何か怪しまれているのかな?
前もって考えていた設定の通りに話をする。
「森の中の村から来ました。」
「森の中に村が在るなんて聞いたことが無いぞ。」
「ド田舎なんで。」
「何て名前の村だ?」
「名前は知りません。ただ、”村”とだけ呼んでいました。他の村とかとは交流が無かった様です。」
「すげえな。どんだけ、ド田舎なんだよ…。」
呆れらた。
これで話を切り上げてくれれば、計画通りだ。
「まぁ、いいや。」
(ニヤリ)
「身分証が無いのなら、銀貨1枚を預けてくれ。これは街を出る時に返してもらえるから、安心してくれ。」
「それと、ステータスの確認をさせてもらうので、一度、詰所に来てくれ。」
「はい。」
門番の人の後に付いて、詰所に来た。
「これに手を当ててくれ。」
促されるままに、机の上に鎮座している水晶玉に手を当てる。
すると、目の前に”ステータスの一覧”が表示された。
それを見た門番の人が「よし、いいぞ。」と、言う。
何がいいのか俺には分からなかったが、街に入れればいいので、それは些細な事だ。
銀貨を1枚渡して、銅貨っぽいのを渡される。
「この街から出る時にコレを門番に渡せば、銀貨1枚を返すから。あと、一時的な身分証代わりだから無くさない様にな。」
「こいつの有効期限は20日間だ。それまでに役所やギルドで身分証を作ってもらえ。身分証が無いと不便だからな。」
「はい。ありがとうございます。」
「では。ようこそ西端の街、グシラグへ。」
俺はこの異世界の街の中に、最初の一歩を踏み出した。