< 12 要らない子? >
ゴーレムたちが拠点を作ってくれている場所で、昼食を食べて、ゴーレムたちの作業をぼんやりと眺めている。
ゴーレムたちは、【分離】の魔法で引き抜いた木を、切ったり、運んで積み上げたりしている。
それとは別に、小屋を建てているゴーレムたちも居る。
小屋なのは、建物の作り方を理解する為と、今日中に寝る場所だけでも完成させる為とのことだ。
後日、ちゃんとした建物が出来上がったら、この小屋は、お風呂場に改造するとのこと。
うん、無駄が無いね。
さて、午後は何をするかな?
街で【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を使って、情報収集かな?
「うん。そうしよう。」と、思ったが、情報収集だけなら、”【多重思考】さん+【目玉(仮称)】”で足りるよね。
これまでに集まった情報の確認をするか。
先ず、言葉が通じなかった問題だが、これは街の中の人たちの会話が理解できたことから、【言語理解】で解決したことが確認できた。やったね。
次に、街に入る方法だが、街に入る為には、身分証が必要なことが分かった。
身分証が無い場合はどうするのかは、分からない。
まだ、身分証を持たない人が門を通っていないので、知る機会が無かった。
街の中に冒険者ギルドが在った。
しかし、冒険者ギルドに加入する気は無い。
レベルが上がると依頼を強制されることがあることが、分かったからだ。
揉め事を避けて、のんびり過ごすのが俺の望みだ。
冒険者ギルドから何かを強制されるのは御免だ。
同様に、他の組織にも加入する気は無い。
魔石の買い取りは、冒険者ギルドでしてもらえる様だ。
しかし、「冒険者でない人からは買い取れない。」とか、言われたりするかもしれない。
その場合は、魔道具屋で買い取ってもらおう。
門を入ってすぐの場所に、薪を取り扱っているお店が在った。
門の近くに在るということは、きっと仕入れに都合が良いからだろう。
買い取ってくれそうな気がするね。
ここで薪を買い取ってもらおう。
服を売っているお店が在ったが、値段は分からなかった。
なんとなく高そうな気がした。
手持ちのお金が心許ないので、服を安く売っているお店を探さないといけないね。
お金に換える為の魔石を確保する為に、魔物を狩ろうと思い付いた。
魔法の練習も出来て、都合が良いよね。
「よし、行こうか。」と、思ったところで、「お待ち下さい。」と、頭の中でストップを掛けられた。
「確認をしたいことがあります。少々お待ち下さい。」と、言われた。
言葉に従って、ゴーレムたちの作業を眺めながら待つ。
少し待ったら、「【無限収納】の中の魔石の数を確認して下さい。」と、言われたので、確認する。
3個だったゴブリンの魔石が、4個に増えていた。
理由を頭の中で訊いて、どうしてこうなったのかを、教えてもらった。
森の中に居る【目玉(仮称)】を操作している【多重思考】さんが、【目玉(仮称)】を通して魔法を使い、ゴブリンを倒した。
そして、【分離】の魔法で魔石を取り出して、【無限収納】に仕舞った。とのことだった。
すげぇ。
勝手に魔物を倒して、勝手に魔石を回収してるわ。
そして、その魔石が俺の【無限収納】に仕舞われるとか…。
俺、要らなくね?
「要らなくないですよ!」、「あなたが本体ですからね!」なんて声が、頭の中でした。
あぁ、そうか、俺の一部か。
【多重思考】でしたね。そうでした。
要らない子でなくて良かったです。うん。
ふと、気が付いたことがあった。
「多重思考さんが、【目玉(仮称)】を通して魔法を使い、ゴブリンを倒した。」って、ことだったな。
「詠唱は? 魔法の詠唱はどうやっているんだ?」
周りで作業をしているゴーレムたちを見る。
【風刃】の魔法を使って、地面に横たわる木を切っていた。
「詠唱していない…、よね?」
「もしかして、魔法って詠唱しなくても使えるのかな?」
空に向かって【風刃】の魔法を使ってみた。何も言わずに。
使えた。
詠唱しなくても、魔法が使える事に、今、気が付いた。
そういえば、【並列思考】さんがゴブリンを倒した時も、詠唱していなかったよね。
もっと早く気付いていても、おかしくなかったね。
うん、もうちょっと、観察力が必要だね。
何も知らない異世界に居るんだから、観察力は重要だよね。
もっと、周囲のことに注意を払う様にしよう。
他に、何かやらないといけない事って、有ったかな?
情報収集と、言葉の問題と、食料の問題と、生活環境の問題だけだったっけ?
あぁ、対人戦闘の検討が有ったね。
頭の中で、何か良い魔法がないか訊く。
「拘束する【バインド】、攻撃を防ぐ【シールド】、魔力の塊をぶつける【バレット】、空気の塊をぶつける【エアバレット】、眠らせる【スリーブ】などが使えそうです。」とのこと。
それと、「【物理無効】の結界に、【反射】を付与したり、【不可視】の結界を張って逃げるのも良さそうだ。」とも言われた。
ほう。
なんとか上手くやれそうな気がしてきた。
これで一応、考えなければならなかった事は、だいたい目途が立ったのかな?
残っているのは、街に入る方法くらいかな。
他に何かないか考える。
寝床に問題を見付けた。
枯れ葉を大量に確保したが、その上にシーツっぽいのを掛けたいよね。
森の中で、シーツを手に入れることなど、出来ない。
街の中に転移して、買って来る?
その方法で街に入って、問題になると困るので、それは止めておこう。
森の中で大きな葉っぱを探す?
うーん、どうだろう。
服が緑色になりそうだ。
頭の中で閃いた。
”大きな毛皮を確保する”
うん、これだね!
熊とか居れば良いね。
よし、熊を狩ろう。
【多重思考】さんたちに、熊を狩ることをお願いした。
熊を狩ることをお願いしたら、暇になった。
「………。」
俺は要らない子なんかぢゃないですよね?
俺は、ちょっと落ち込んだ。
しばらく、ゴーレムたちが作業しているのを眺めていた。
「熊の魔物を一体仕留めました。」と、頭の中に報告が来た。
【多重思考】さんの一人(?)が、【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を通して魔法を使い、熊の魔物を仕留めてくれたとのこと。
”ビッグベアの毛皮”と”ビッグベアの死体”と”魔石”が、【無限収納】に入ったのを確認した。
「ビッグベアの死体は、血抜きをしてあります。」と、頭の中に情報が来た。
「血抜きって、こんなに短時間に出来る訳ないよね?」と、思ったら、【分離】の魔法で血抜きをしたとのこと。
「【分離】魔法さん、マジ便利だなっ!」
【分離】魔法さん、マジ大活躍です。
ビッグベアの毛皮を、【無限収納】から地面に出す。
毛皮は、頭と手足を切り取って、腹の部分で縦に裂いた状態の様だ。
飾り物ではなく、ベッドのシーツ代わりに使うのだから、頭とか必要ないし、これで良いよね。
手に取ると、ズシリと重かった。
「乾燥させないと、いけないのかな?」
毛皮の処理方法なんて知らないから、どうしたらいいのか分からないな。
においを嗅いでみた。
獣と血のにおいがする。
「うーん。どうすればいいのかな?」
困った。
【ドライ】と【消臭】の魔法で良いのかな?
取り敢えずやってみようと思い、【ドライ】と【消臭】の魔法を掛けてみた。
毛皮は地面に置いた状態のまま硬くなってしまった。
広げてから魔法を掛けるべきだったね。
失敗したね。
【クリエイトウォーター】で水を作り、毛皮に掛けて柔らかくしてから、地面に広げて置いて、もう一度、【ドライ】の魔法を掛けた。
状態はイマイチだった。
「うーん。」
硬いけど、割れたりはしないと思う。
においを嗅ぐ。
気にならない程度の、においになっていた。
「よし、これでいいや。」
ビッグベアの毛皮を、【無限収納】に仕舞った。
あぁ、そうだ。
猪の肉の血抜きをしておこう。
【無限収納】から取り出し、【分離】の魔法で血抜きをした。
うん。簡単だね。
【分離】魔法さんが、マジ便利すぎて、控えめに言っても最高です。




