< 10 目玉完成 >
目が覚めた。
結界の外に見える景色も、すっかり明るくなっている。
周囲の警戒をしてもらっている【並列思考】さんに、俺が寝ている状態でも、【並列思考】さんたちが活動できていたのかを訊く。
まぁ、訊くと言うよりは、頭の中に質問を思い浮かべるだけなんだが。
返答は、「問題無く活動できました。」と、言うものだった。
おお。これはありがたいな。
寝ている間も周囲の警戒をしてもらえるし、何か検討してもらうなんてことも出来るね。
これからの生活に、かなり役立つだろう。
各属性魔法を使いまくってもらっていた【並列思考】さんたちの、進捗状況を頭の中で確認する。
かなりの魔法を使ってみてくれた様だ。
全てでないのは、大規模な攻撃魔法が出来なかったほか、相手が必要な【精神魔法】や【治癒魔法】や【契約魔法】なども出来なかったからだ。
それと、何が起こるのか予測しにくい【召喚魔法】もやらなかったとのことだ。
うん。これは仕方が無いね。
お願いしていた、【火】、【水】、【風】、【土】、【雷】、【闇】、【光】と【無属性魔法】の他にも、【氷属性魔法】というのも有ったらしい。
【氷属性魔法】は【水属性魔法】を担当していた人(?)が担当してくれたそうだ。
ん?
なんか、【並列思考】さんたちの数が増えてる気がするんだが…。
疑問の答えが頭の中に浮かぶ。
【並列思考】さんたちが自分たちで、さらに【並列思考】を増やしていた様だ。
そして、増やした【並列思考】さんたちと手分けして、魔法を使いまくったと。
さらに、余った時間で、”情報収集用のモノ”を作り上げてくれていた。
昨夜、俺が考えていた、「宙に浮く」、「移動可能」、「不可視」、「見る」、「聞く」、「繋がる」を、組み合わせて作ろうと思っていたヤツだ。
既に、結界の外にいくつかを放ってあるそうだ。
早速、その一つと視界を繋いでみる。
視界を繋いでみると、自分がその場所に居るかの様に、良く見えた。
視線の先には、大きな壁と、その壁に作られた門が見える。
東の方角に見える街の入り口だと、頭の中で教えてくれた。
門のそばに、人が一人立っている。警備の人だろう。
人の出入りが少ないのか、暇そうにしている。
あまり、見る物が無い様なので、魔法で作られたコイツを動かしてみる。
まず、その場で回転させてみる。
視界が横に流れていく。
ふと、縦回転させてみた。
普段経験の出来ない視界の動き方をした。おもしろい。
次に、移動をさせてみる。
壁に沿って、反対側の門まで移動させてみよう。
壁に沿って移動させる。
速度を上げていく。
時速80km/hくらい出ただろうか?
門が見えたので、急減速させて、速度を落とそうとした。
しかし、俺の予想に反して、すぐに止まった。
重さを感じさせない動きだったので、重さがほとんど無いのだろう。
コイツには、この門で情報収集をしてもらおう。
きっと、こちら側の門の方が、人の出入りが多いだろうからね。
俺は視界の繋がりを切った。
視界が戻る。
ふう。
少し気分が悪い。
乗り物酔いっぽいな。
「乗り物酔いの耐性ってないかな?」と思ったら、すぐに「有りますよ。」と、頭の中に返答があった。
【並列思考】さんに、必要になると思われていたらしい。
いや、【並列思考】なだけで、本人なんだから、分かって当然だよね。
なんか、他人っぽく接していたね。
「並列思考さん」とか呼んでいたし。
でも、なんか自分っぽくもあるし、他人っぽくもあるし、「並列思考さん」でいいや。
それはそれとして。
早速、乗り物酔いの耐性を付与しようとしたら、「先に【ヒール】を掛けましょう。」と頭の中で声がした。
ああ、これは【光属性魔法】を担当していた人(?)だね。
昨夜、「被験者が居ない。」とか言っていたから、【ヒール】の魔法を使ってみたいんだろう。
【光属性魔法】を担当していた人(?)に、【ヒール】の魔法を掛けてもらった。
乗り物酔いっぽい症状が無くなった。
おお。
初めての【治癒魔法】に感動した。
次に、【乗り物酔い耐性】を付与した。
これで、不快な乗り物酔いから、おさらばだ。
やったね。
他にもいくつか”情報収集の為のモノ”が居るらしいので、それらがどうしているのかを訊こうとしたのだが、先に名前を何とかしよう。
いずれ、カッコイイ名前を付けるとして、取り敢えずの仮称として、「目玉」と呼ぶことにする。
何やら、【並列思考】さんたちの一部から、呆れた様な感情を感じるけど、気の所為だよね。
他の【目玉(仮称)】が、それぞれどうしているのか、頭の中で訊く。
街へ行って情報収集しているのが五つと、森で獲物や果実などを探しているのが五つ。
それと、拠点候補地に四つとのことだった。
最後のやつが気になったので、頭の中で訊く。
「拠点候補地って?」
拠点を作るのに良さそうな場所を、森の奥の山脈の近くに見付けたので、その場所と周辺の調査をしているとのこと。
その場所について訊いたら、斜面を登り切ってから少し下がった場所に、そこそこの広さの平らな土地が有る場所を見付けたんだそうだ。
火山の噴火口に近い感じの形状をしていて、人が近付き難く、見付かり難い地形とのこと。
そして、既にゴーレムを準備していて、「ゴーサインが出れば、すぐに作業に取り掛かれます。」とのことだった。
良い場所を探し出してくれていた様だ。
ゴーサインを出して、拠点作りをお願いした。
お腹が空いたので、朝食にする。
肉と芋を焼きながら、異世界での生活がなんとかなりそうな気がして、嬉しくなった。




