< 08 遭遇と衝撃 >
道を東に向かって歩く。
日が沈みかけている。
遠くに見える街の壁が、赤く照らされているのが見える。
まだ街まで、かなりの距離がある様だ。
野営をするのも、選択肢の一つだ。
だけど、歩き続けることにした。
【疲労耐性】と【睡眠耐性】と【暗視】を付与してあるので、夜通し歩き続けることが可能だからね。
持っている食料は多くはないし、街の外が安全か分からない。
早く街に着いた方がいいよね。
俺は街を目指して、東に向かって歩き続ける。
周囲を警戒してもらっていた【並列思考1】さんに、「後ろから馬車が来ます。」と、頭の中で言われた。
道の端に寄ろうとして、どちら側に寄ればいいのか悩む。
「右に寄って下さい。」と、【並列思考1】さんに言われたので、それに従う。
道の右端を歩きながら、情報をもらう。
馬車が二台と、他に馬が四頭いるらしいとのこと。
馬車の音と馬の足音が、大きくなってきた。
立ち止まって、振り返る。
馬車の前を走る二頭の馬には、それぞれ冒険者風の男が乗っている。
その後ろを、一頭の馬が引く馬車が二台走り、その後ろにも、それぞれ冒険者風の男が乗った二頭の馬が走っている。
二頭の馬と馬車二台が通り過ぎた。
馬車の後ろを走っていた二頭の馬が立ち止まり、馬に乗る男の一人が話し掛けてきた。
「$$$$$$$、$$$$$$$$$$$$$」
その男が何を言っているのか、分からなかった。
言葉が分からない事に、衝撃を受けた。
何て返事をして良いのか分からない。
「$$$$$$$、$$$$$$$$$$$$$」
もう一度、何かを言われた。
やっぱり、分からない。
どうしよう。
馬に乗ったもう一人の男が、こちらに馬を歩かせて来る。
彼らに前後を挟まれると厄介だ。
逃げる事にした。
走って逃げた。
俺のすぐ後ろに【並列思考2】さんが、落とし穴を作る。
さらに二つ、落とし穴を作ったのを感じた。
少し走ったところで、「【不可視】の結界を張りました。荒野に向かって下さい。」と【並列思考1】さんに言われた。
走る速度を緩めて、道を外れて荒野に向かう。
振り返って男たちを見ると、先ほどの位置から動いていない様だった。
そして、道を外れた俺の方も見ていない。
【不可視】の結界が、きちんと仕事をしてくれている様だ。
少し、心が落ち着いたので、しゃがんで男たちを見る。
男たちは馬の向きを変え、馬車を追い掛けて行き、すぐに姿が見えなくなった。
「ふう。」
行ってくれて良かった。
しかし困ったな。
言葉が分からないとは思わなかった。
街に行くのは駄目だな。
この辺りで野営して、今後の方針を考えよう。
俺は、【不可視】と【物理無効】と【魔法無効】の結界を張って、野営することに決めた。
落とし穴は、ちゃんと直しました。
~ 冒険者さん ~
護衛の仕事は順調だ。
今、俺たちは、街が近くに見える場所で、野営の準備をしている。
明日の朝に街に入れば、この護衛の仕事は、お終いだ。
ふと、先ほど会った男のことを思い出す。
声を掛けたら、すごく驚かれた。
何をそんなに驚くことが有ったのだろうか?
ただ、あの大きな木のことを、訊いただけなのに。
分からない。
5日前、あそこを通った時には、あの大きな木は無かった。
でも、今日、あそこには大きな木が在った。
あの大きな木は、何なのだろうか?
街に行けば何か分かるだろうか?
明日は街に行くんだ。街で訊いてみよう。
そんなことを考えながら、野営の準備を終わらせた。




