07 犯人確保 ナナシ、ガッツリと働く
隠れ家のソファーに座って、その現場の様子を【目玉(仮称。魔法で作られた目。 正式名称決めるのめんどくさい)】を通して見ていた。
その現場は、俺が姫様たちを救出した、あの洞窟の近くだ。
姫様を護衛していた騎士たちが戻って来たので、俺は彼らを監視していた。
騎士たちは、俺が気絶させておいた盗賊たちを殺して回った。
その後、2台の馬車が、姫様たちが乗って来た馬車とは反対方向から来た。
立派な馬車から降りたのは、貴族らしき男と商人風の男。
さらに彼らの護衛と思われる冒険者風の男たちが、騎士たちと合流した。
「王女を殺します。」とか言っていたから、犯人だと思って全員気絶させた。
気絶して倒れている男たちを【目玉(仮称)】を通して見る。
そして、考える。
どうすればいいんだろうな? これ。
犯人だと思って、魔法でMP(Magic Point)を”0”にして全員気絶させたのだが、扱いに困った。
冒険者らしき男たちは護衛してただけ。犯罪者ではない。よな?
騎士は盗賊を退治しただけだから犯罪者ではない。かな?
だが、無関係でもない。
特に騎士たちは、姫様を盗賊に引き渡した件があるからね。
盗賊たちを殺したのは、『証人を消した。』とも言えるし…。
放っておく事は出来ない。…よな?
うーーん。
俺の手には余るよね。
丸投げだな。
そうしよう。(笑顔)
【目玉(仮称)】を通して【魔法の腕】を使い、気絶させた男たち全員を【無限収納】から出したロープで縛って、一か所にまとめた。
その後、様子が少しおかしかった商人風の男を、【目玉(仮称)】を通して【鑑定】してみた。
[状態異常:薬物中毒]と出た。
一緒に居た貴族らしき男も【鑑定】してみる。
こちらは、状態異常では無かった。
一先ず俺がやる事はこれでいいよな。
よし。アントニオに丸投げしに行こう。
俺は、アントニオの部屋に【転移】した。
【転移】した先のアントニオの部屋。
ソファーに座る姫様が見えた。
姫様は、すっかりお寛ぎあそばされているご様子です。
ソファーに寝かせていた”アレ”は、そこには無かった。
”隔離済み”ね…。
「こんにちは。」
執事さんと何やら話し合っていたアントニオに声を掛けた。
「どうされました?」
アントニオが、少し不思議そうに訊いてきた。
この部屋を出て行ってから、あまり時間が経ってないからね。
『忘れ物かな?』とか思っちゃうかもね。
もちろん、”アレ”を持ち帰る気なんてありませんよー。
それはそれとして。
「犯人っぽいのを捕まえたんだけど、どうしたらいいのか分からん。受け取ってもらえると有り難い。」
俺は、アントニオにそう言った。正直にね。
「え? もうですか?」
「うん。現場に戻って来たのを捕まえた。『王女を殺す。』とか言っていたから犯人だと思う。気絶させて縛って転がしてあるんだが、どうしようか?」
アントニオと執事さんを交えて、対応を検討する。
だが、薬物中毒の者の扱いに困った。
犯人たちを馬車で王都まで移送するのに要する日数を無駄に過ごすと、薬物中毒の状態でなくなってしまうかもしれない。
犯行現場の近くの街の領主が信用できる人であれば良いのだが、共犯である可能性もある。
そうしたことを考えると、今すぐ王都で取り調べをするべき。
だが、そうしようとすると、俺の転移魔法の件が知られてしまう。
うーん。どうしたものか。
『転移魔法 便利だけど 不便だね。』
俳句かっ!
季語が無いのはデフォだよね。(←そんなデフォは無い)
転移魔法を使える者が居る事がバレるのは仕方が無いね。
転移魔法を使える者が、”俺”だとバレなければいいか。
そうだね。
そうすることにしよう。
俺がこの屋敷まで運び、その間に審問官とやらをここに呼んで、この屋敷で取り調べをする事になった。
早速、貴族らしき男と商人風の男を持って来て、別の部屋に運び込んだ。
その他大勢は、審問官と相談して引き渡し場所を決める事にした。
人数が多過ぎて、この屋敷では対応し切れないからね。
次の出番が来るまで、俺は待機だ。
待っている間にもう一度現場に戻って、縛って転がしている騎士たちを【隠蔽】の結界を張って隠した。
誰かに発見されて、何処かに持って行かれちゃったら困るからね。
馬車はどうしようもないね。操縦できないから。
見えなくすると他の馬車がぶつかって事故になるし、転移魔法で移動させるには大き過ぎる様な気がする。
お馬さんの扱いにも困るしね。
魔法でも出来ない事って、結構有るよねー。
そんな事を思いながら、アントニオの部屋に戻った。
こんなに疲れた日は、この異世界に来てから初めてかもなー。
そう思いながら、姫様とポツリポツリと会話をしつつ、ソファーで”ぐでーー。”とした。
しばらくしたら、アントニオがやって来て、「彼らが犯人で間違いありません。」と教えてくれた。
そして、あの縛って転がしている騎士たちを留置場に移送してほしいと言われた。
俺はアントニオに魔石を一つ渡し、留置場に置いてくれるように頼んだ。
「それを目印に【転移】するから。」と言って。
実際には、魔石を持って行く人を【目玉(仮称)】で追い掛けて、その【目玉(仮称)】を目印に【転移】するのだが、それは内緒だ。
【目玉(仮称)】の存在を隠しておきたいからね。
審問官が打ち合わせの為に呼び寄せた留置場の職員。
彼が留置場に戻るその後を、【目玉(仮称)】がコッソリと付いて行く。
彼が留置場の建物に入ろうとしたところで、異変が起きた。
留置場の建物に結界が張ってあって、それに【目玉(仮称)】が弾かれたのだ。
初めての出来事にびっくりした。
慌てて、結界の中に【短距離転移】させた。
幸い、【転移】できたので、ホッとした。
ふぅ。
結界の内側に【目玉(仮称)】を入れるのは初めての事だったのだが、”位置情報の取得”と”視覚共有”が共に出来た事にもホッとした。
びっくりしたなー、もう。
留置場の一室に魔石が置かれ、職員がその場を離れて行った。
それを確認してから、俺は騎士たちを留置場に【転移】させる作業に入る。
あー、もうひとしごとだぁー。
姫様たちに一言断って、【隠蔽】の結界を自分に張って姿を消してから、現場に【転移】する。
縛って転がしている騎士たちの姿を隠してるのだから、俺の姿も隠しておこうね。
置きっぱなしになっている馬車に気が付いた人が、様子に見に来たりしたら面倒だからね。
縛って転がしておいた騎士たちを【魔法の腕】で二人ずつ持って、【転移】で留置場との間を何度も往復して、サクサク運び込んだ。
全員を留置場に運び終わって、「ふう。」と一息吐く。
運び終わって、ふと考える。
俺が転移魔法を使える事を知られたくなかったから職員には離れてもらったんだけど、呼びに行くのに姿を晒す事になっちゃうね。
どうしよう?
どうしようか考えていると、目の前にモザイクが浮かんだ。
【闇魔法さん(闇魔法の習得と研究をする多重思考された人(?))】の仕業だね。
うーーん。まぁこれでいいか。
疲れて、考えるのがめんどくさくなってきた。
鉄格子の向こう側の通路に【短距離転移】して、職員さんを探す。
居た。
声を掛ける。
「すいませーん。(←高い変な声)」
【風属性魔法グループ(風属性魔法の習得と研究をする多重思考された人(?)たちのグループ)】さん、なに悪乗りしてんのー!
「ひっ、うわっ。」
うん。脅かしてごめん。
「騎士たちを運び終わったから、取り調べをお願い。(←高い変な声)」
「は、はいっ。」
俺は、さっさと【転移】した。
恥ずかしくて仕方が無かったから。
きっと留置場で変な噂が流れることになるだろう。
もー、どうにでもなーれー。(ぶん投げた)
その後。
3日間ほど、アントニオの屋敷と隠れ家との間を行き来した。
何か手伝いが必要になるかもしれないと思ったから。
しかし、何もする事は無く、割とのんびり過ごせた。
姫様が王宮に帰る事になった。
俺も一緒に王宮に行く事になっていた。
何故だっ!
精一杯抵抗した。
しかし、姫様が俺に抱き着いて、まったく離れようとしなかった。
転移魔法って抱き着いている人が居ると、その人ごと【転移】しちまうのな。
初めて知ったぜ。
出来れば、もっと早く知りたかった…。orz
姫様の婚約者であるアントニオに助けを求めたのだが、苦笑いしか返って来なかった。
婚約者さんェ…。
やたらめったら姫様に説得されて、止むを得ず王宮に行く事になった。
断ったら、一生追い掛け回されそうな気がしたから。
『行く。』と言った方が、面倒にならないと思ったから。
「分かった、行くよ。」
俺がそう言ったら、姫様がトイレに小走りで向かった。
姫様がどんな説得をしたのかは、姫様の名誉の為に言えませんよー。(苦笑)
王宮に行ったら行ったで、さらに面倒な事に巻き込まれた。
『さて、どうしたものか…。』と思案しながら…。
『俺は、揉め事を避けてのんびり過ごそうと決めていたのに、姫様を助けたのは失敗だったなぁ。』と、そう思ったのだった。
(設定)
【闇魔法さん】は、闇魔法の習得と研究をする多重思考された人(?)。
【闇属性魔法グループ(闇属性魔法の習得と研究をする多重思考された人(?)たちのグループ)】が、【闇魔法さん】と【精神魔法グループ】に分離したのです。
【光属性魔法グループ】も【光魔法さん】と【治癒魔法グループ】に分離してます。
どうでもいい話ですが。