表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/400

06 始まり02 ある街のある商人であるはずだった男


王都から離れたある街に、一人の商人の男が居た。

父がそこそこ大きくした商会を、さらにそこそこ大きくし、一応、街一番の商人になった。

だが、割と普通の平凡な男であった。



街に在る、どこかの貴族の別荘に引越して来た一家があった。

王弟おうていの一家だった。

男は驚いた。

『なぜ、この街に?』というのもあるが、王弟様の奥様には、自分の娘が侍女じじょとして付いているのである。

何故なぜ、娘から事前に連絡が無かったのか?』

それが不思議だった。


その答えは、すぐに得られた。

娘からの手紙によって。

その手紙を読んで、書かれていた内容に驚いた。

娘が、王弟様の子を身籠みごもったと言うのだ。

そして、それが原因で王都を離れる事になったとも書かれていた。

さらに、『会いに来るのは控えてほしい。』とも、書いてあった。

この手紙で、自分の娘が困った状況にある事がうかがい知れた。

『娘に会いに行きたい。』

そう思ったが、それは難しいと思った。


知り合いの貴族さまに、王弟様の屋敷に居る娘の様子を知りたい旨、相談した。

すると、理由を深く訊かれる事も無く、こころよく引き受けてもらえた。


後日ごじつ

その貴族さまに連れられて、王弟様にお会い出来る事になった。

貴族さまと事前に打ち合わせていた通りに、援助の申し出を行った。

差し入れさせていただく品物についてのお話をさせていただいたり、庭作りの了承を得たりした。

その後、娘と会える時間を作っていただけて、娘に会う事が出来た。

娘の元気な様子に、心から安堵あんどした。

王弟様と貴族さまには、感謝するしかない。



ある日。

『差し入れられた品物の評価は上々。』とのことと、『出来上がった庭も素晴らしい。』と、王弟様の使いの方から聞かされた。

あの貴族さまに紹介していただいた庭師たちは、素晴らしい仕事をしてくれた様だ。


王弟様にお会いしに行った帰りに、少しお庭を見る機会があった。

素晴らしいお庭だった。

計画には無かった建物が建っていたが、庭師の休憩所兼物置とのことだった。

思いのほか、大きな庭になっていたので、『必要なのだろう。』と思い、納得した。



娘が出産したとのしらせをうけた。

女の子との事だった。

女の子だった事に安堵あんどした。

この国には、王子様が居なかったから。

娘も元気だと聞き、良かったと思った。

王弟様に許可していただき、娘と孫娘にも会えた。

嬉しかった。



孫娘は元気に育った。

奥様にも、とても可愛がってもらっていると聞く。

心から安堵あんどした。


商売の方は、そこそこ順調だ。

王弟様への差し入れなどで大金を使っているが、何とかなっている。

これからも相応そうおうの支出が有るだろうが、何とかなるだろう。…多分たぶん

何か満たされないものを感じるが、仕方が無い事だと思う。



付き合いのある貴族の方々との酒席しゅせきに参加する機会が有った。

今回初めてお会いする貴族さまが、何人かいらっしゃった。

お一人お一人にご挨拶させていただいた。

その合間あいまに、料理とお酒を楽しんだ。

酔いが回ると口の軽くなる貴族の方は多い。

見聞みききした噂話を披露したくなるのだろう。

中には、おかしなことを口走くちばしる貴族の方もいらっしゃるが。

初めてお会いした貴族さまのお一人が、小さい声で私にとんでもない事を言う。

「もし、王女様に何かあれば、お孫さんは王都にお引越しですね。」

滅多めったな事を言ってはいけませんよ。」

酔いが回った頭で、なんとかそう言う。

酔って聞いていないのか、その貴族さまは話を続ける。

「その時は王都へ行って商売をすればいいだけです。」

その貴族さまとの会話はそれだけでした。


私もずいぶんと呑み過ぎてしまった様だ。

翌日には、『王都へ行って商売をする。』という言葉だけしかおぼえていなかった。



『王都へ行って商売をする。』

どんな話の流れで、そんな話が出たのだったか?

『王都へ行って商売をする。』

考えた事も無かった。

『王都へ行って商売をする。』

私が?

今のままで十分。

………本当にそうか?

思考がまとまらない。


私は考えるのをやめた。



あの貴族さまに連れられて、花を育てている畑を見学させていただいた。

ここは、私を王弟様に紹介していただいた、あの貴族さまの所有する花畑だ。

王弟様の屋敷の庭には、ここの花を使わせていただいている。

私の商会でも、ここの花をあきなわせていただいている。

私の商会が周辺の街にも販路はんろを広げる事が出来たのは、ここの花をあきなわせていただいているからだ。

この貴族さまには大変感謝している。

近々(ちかぢか)、王都にまで販路はんろを広げるおつもりらしい。

「その時は、お願いするかもしれない。」

貴族さまにそう言われました。

がたい事です。



夢を見た。

娘と孫娘が王都に行く夢。

それを見送る私。

ただそれだけの夢。



いつもと変わりの無い日々を過ごしていた。

商人として、必要な品物を必要としている人に届ける。

充実していると思っていた。

だが、今までとは何かが違う。

満たされないものを、感じていた。

えの様なものを、感じていた。

でも、自分が何を求めているのか、自分でも分からなかった。



夢を見た。

娘と孫娘が王都に行く夢。

それを見送る私。

前にも見た夢だ。

「私も王都に行きたい!」

夢の中の私は、そう叫んでいた。



目が覚めた。

そうか…。

私は王都に行きたかったのか…。

口に出して言う。

「私は…、王都に行きたかったのか。」

もう一度、口に出して言う。

「私は、王都に行きたかったのか。」

私は、自分の心の求めるものを、やっと知る事が出来た。



その日は、あまり仕事が手に付かなかった。

『私は、王都に行きたい。』

その思いが心の中を満たしていた。

「王女様が、近々(ちかぢか)この街に来るらしいですよ。」

部下の一人がそんな事を言っているが、あまり頭に入らない。

気が付いたら、一日が終わっていた。



ある日の朝。

どんな夢を見ていたのかおぼえていない。

顔が濡れていたので、良い夢ではなかったのだろう。

おぼえていなくてさいわいだ。



あの貴族さまがたずねて来られた。

「王都に行く用事があってね。明日出発するんだが、君も一緒に行かないか?」

「行きたいです。」

すぐに、そう答えていました。

「出発は明日の朝。ここまで迎えに来るね。」

「盗賊が出る危険もあるから、短剣ぐらいは身に付けてね。」

「はい、分かりました。よろしくお願いいたします。」

私は、留守るすにしている間の事の打ち合わせを行い、いっぱい働いて翌日にそなえた。



朝起きた。

少しだるいか?

何か夢を見た気がする。

王都? 王女?

よく分からない。



食事を済まし、店の前で待つ。

あの貴族さまの立派な馬車と、護衛の方が乗っているのか、もう1台の馬車が来た。

挨拶をわし、貴族さまの長旅用の馬車に同乗させていただく。

馬車の外装も素晴らしかったが、内装もまた素晴らしかった。

”貴族さまの乗り物”という感じがする。

そして、いいにおいがする。

『この貴族さまは凄いな。』と思った。

「退屈でしょうから、眠ってしまってもかまいませんよ。」

「いえ、興奮して眠れないと思います。素晴らしい馬車です。」

この馬車は、乗り心地も素晴らしいです。

門を出て、馬車は街道を進みます。



いつの間にか寝ていた様です。

貴族さまに起こされました。

馬車をります。

街道の途中とちゅうです。

街道にを向けて歩きます。

王都に行く為に。


さらに歩きます。

貴族さまが私に声を掛けます。

「王都に行く為にする事は分かってるね?」

「はい、王女を殺します。」

誰かが恐ろしい事を言っています。

手に短剣を持っている事に気が付きます。

見覚みおぼえのある短剣です。


これで王女を殺します。


騎士の様な人が近付いて来ます。

「王女が居ません。」

「なにっ?!」

「盗賊は片付けました。ですが、王女ともう一人が居ません。」

さがせっ!」

「はいっ!」

私は待ちます。


王都に行く為に。


…?

…地面を近くに見た様な気がします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ