< 11 神の姉、創作活動をする。全力全開、徹夜続きのテンションで >
妹の個室から自分の個室に戻って来た。
妹の不手際で亡くなってしまった人の魂を、私の担当している世界に降ろす。
その為にしなければならない事をします。
泥人形のまま、降ろす訳にはいきませんからね。
体形や顔などをランダムで作る事も出来ますが、なんとなく創作意欲が湧いたので、自分で作ってみることにします。
先ず、降ろす先の星の住人の姿に合わせて、大体の体を作ります。
髪は銀髪にしましょうか。
色合いの調整をします。
耳の形は、デフォルトの物から少し形を変えます。
目を作り、眉を作り、鼻を作り、口を作りました。
なかなか、会心の出来なのではないでしょうか。
趣味の創作活動が活きている様です。
アゴの形と顔全体の輪郭を整えます。
全体的にバランスを取りながら、微調整をします。
………。
おお、会心の出来です。
思わず、見とれてしまいます。
ですが、見とれている無駄な時間は有りません。
作業を続けます。
腕、手、胸、お腹、背中、足と、作っていきます。
へそも忘れずに作ります。
指に指紋を付ける事も忘れません。
全身を眺めて、微調整をします。
手の造形に不満があったので、調整します。
よし、いい感じに出来上がりました。
美しい手です。
惚れ惚れします。
次に、鎖骨の造形に取り掛かります。
ここは、こだわらなければいけないポイントです。
指を這わせて、微調整を繰り返します。
よし! 素晴らしく美しい鎖骨が出来上がりました。
美術品の様な出来栄えです。えへへへ。
さぁ、いよいよ”大事な部分”に取り掛かります。ぐへへへ。
やるぜー、超やるぜー。
全力全開だー。
むはーーーー。
じっくり手間を掛けて、素晴らしいモノを作り上げました。ぐへへへへへ。
出来上がった体の最終確認です。
全身くまなく、確認します。
鼻の穴や足の裏まで、全てです。
おかしなところが在っては、いけませんからね。
全身のバランスや各部の造形まで、しっかりと確認します。
よし、完璧です。
最後に魔法を掛けます。
泥人形を肉体に変化させ、肉体に魂を定着させます。
初めて使う魔法なので、緊張します。
体中の神力を練り上げて高めます。
泥人形に魔法を掛けると、その全身が強く光りました。
光が消えた後の体は、すっかり肉体っぽくなっていました。
先ほどまで泥人形だったものから、心臓の鼓動を感じます。
触れると温かそうです。
なんとなく、抱き着いてみました。
温かいです。
私の顔のすぐそばに、造形にこだわった鎖骨があります。
美術品の様な造形にドキリとします。
顔を見上げます。
美しい顔です。
ドキドキします。
「こんな恋人が居ればなぁ。」
そんな考えが頭をよぎりました。
そして、妄想します。
こたつで創作活動に打ち込む私と、そんな私に鍋焼きうどんを作ってくれる彼。
一緒に鍋焼きうどんを食べながら、私のおでこに付いたトーンくずを取ってくれる彼。
呼び子をしてくれる彼。
帰宅後に泥の様に眠る私に、添い寝してくれる彼。
ぬふふふふふふふふ。
ハッ。
いけない、いけない。
妄想に浸っている場合ではありません。
妹の不手際で亡くなってしまった人の魂を救済する、とてもとても大切なことをしているのです。
妄想に流されていてはいけません。
まだ、しなければいけないことが有るのです。
なんとなく抱き着いたまま、次の作業をします。
次は、俗に言う”異世界転移特典”の、付与です。
「やっぱり魔法を使えた方が良いよね。」
「魔法を使えれば、生存確率も上がると思うし。」
頑丈な体と、優れた剣術というのもアリかと思いますが、妹がそういうのを望むとは思えません。
妹は、彼が揉め事を避けて、のんびり過ごすことを願っているのですから。
だから、魔法にします。
「うん。魔法を使える様にする。そうしよう。」
そこで考える。
「”魔法を使える様にする”って、どうやるんだったっけ?」
普段、創作活動ばかりしていて、神さまっぽい事をしていなかったので、よく分かりませんでした。
【全魔法使用可能】で、いいのかな?
あと、【魔法創造】も付けようかな?
でも、そんな【スキル】有ったかな?
悩んでいたら、ふと、お目付け役の方が言っていた言葉を思い出しました。
「あまり居るべきでない場所に長く居ると、魂が弱ってしまうぞ。」
焦って、彼の顔を見上げます。
彼の表情からは、魂の状態はよく分かりません。
魔法で魂の状態を確認します。
かなり弱っています。
マズイです。
早く地上に降ろさなければなりません。
手早く【スキル】を付与しました。
次に、【加護】を与えます。
「あなたに神の加護を。」
少し背伸びをしてキスをしました。
魔法で服を着せ、彼を地上に降ろす…のですが…。
あまりにも良い出来だったので、手放したくない気持ちになります。
しかし、そういう訳にはいきません。
ちょっとの逡巡の後、彼を地上に降ろしました。
「元気でね。」
そう言って、彼の未来が穏やかであることを、祈りました。
「ふうぅぅぅぅぅ。」
一仕事を終えました。
妹の危機をなんとかすることが出来ました。
安堵します。
「ふああぁぁぁぁ。」
私は、こたつに突っ伏しました。
その日の夜。
締め切り前の最後の追い込みの為に訪れた友神が見たのは、こたつで熟睡しまくる友神の姿だった。
初めての魔法の行使や、意識を集中して行った創作活動。
それに、それ以前に五徹していたのである。
彼女が睡魔に打ち勝てる要素など、一つも無かった。
「これは…、駄目かもしれない…。」
訪れた友神は呆然と呟いた。
新刊、落ちました。




