< 09 ある男の話02 >
ふわふわしていた俺は、何かに捕まり丸い何かに入れられた。
誰かの頭頂部を見て、何かを考えてた……様な気がする。
その後、でっかい手に捕まり、泥の様な何かに押し込められ、もみくちゃにされた。
何を言ってるのか分からないが、言ってる俺にも分からん。
何が起きているのか考えようとする。
すると、急に意識がハッキリしてきた。
「私の声が聞こえる?」
声が聞こえた。返事をする。
「ああ。」
「目は見えてる?」
見えてる。返事をする。
「見えてる。」
「この子が謝罪と説明をするので、聞いてちょうだい。」
女の子が土下座をした。
「申し訳ありませんでした。」
見た憶えの有る頭頂部だなと、ぼんやりと思った。
女の子が状況を説明してくれた。
この女の子の不手際で、俺は死んでしまったそうだ。
さらに、この女の子の不手際で、俺の存在が無かったことになってしまったらしい。
このままだと魂が消滅してしまうが、別の世界に転移させることで、消滅を避けられるそうだ。
そこで残りの人生を過ごすことが出来ると言う。
”消滅する”か”生きる”かの二択だ。選ぶまでもない。
「生きられるなら、ありがたい。」
俺は、そう答えた。
しかし、不安もある。
よくある異世界転移のラノベだと、勇者召喚だとかで戦争の駒にされたりしている。
どのような世界なのか? 何かをやらされるのか? その確認は必要だ。
だから訊いてみる。
転移する先の世界の神だと言う、俺を両手で持っている人が答えてくれた。
戦争はほとんど無く、宗教はほとんど力を持っていない。
魔物は居るが魔族は居なくて、魔王も居ないし、勇者も必要とされていない。
陸地は6割が荒野、4割が森で、荒地に防壁のある街が点在しているとのこと。
海を渡れるだけの船を作る能力は無い。
武器は剣や弓矢。
銃は無く、火薬も無いそうだ。
「だけど、魔法が有るよっ!!」
「何も無い荒野で、魔法をぶっぱなすと気持ちいいよっ!!」
声がでかいです。体全体がビリビリします。
「こうね!」
俺を片腕に乗せる様に持ち替える。あばらが痛いです。
あと、体が巨大ですね。
「こう「お姉ちゃん火出てる火出てる」荒野で!」
「締め切りなんかぁ「ダメだってダメだって」飛んj…」
ズパン!!!
体全体に衝撃が来た。
「なにやっとるか、バカもん!」
なにやらもう一人、もう一柱? 登場したご様子。
後ろの方だから見えないけど。
視界が横8の字に、ふら~んふら~んと動きます。
酔いそうだから、やめてほしい。
「あまり居るべきでない場所に長く居ると、魂が弱ってしまうぞ。早くせい。」
そんな声が、後ろの方からする。
すると、先ほど俺に謝罪した女の子が屈んで、俺に目線の高さに合わせてから言う。
「あなたの人生を、大きく変えてしまったこと、改めてお詫びいたします。」
「まったく知らない世界での生活には、戸惑うことも多いかと思います。」
「あなたのこれからの人生に、幸福と安らぎがありますことを、心からお祈りいたします。」
真剣な表情と眼差しに、ドキリとしてしまう。
なんとなく目を逸らしながら、言う。
「あ~、まったく知らない世界だからな。この世界の常識が通用しないこともあるかもしれない。」
「揉め事を避けて、のんびり過ごすことにするよ。」
「はい。あなたが、揉め事を避けて、のんびり過ごせますよう、心からお祈りいたします。」
そう言って、女の子は微笑んだ。
言葉を失う様な微笑みだった。
この微笑みを、俺はきっと忘れないだろう。