< 07 地球の在る世界の神07 姉視点 >
締め切りに追われていた、この日。
学校を卒業し、”神”に就任したばかりの妹から、電話が掛かってきた。
「お姉ちゃん、困った事があるの。」
「あ~、初日からかい…。」
「やっちゃたか~。」と思い、呆れたような声が出た。
地球の在る世界の神への就任。
これ、実は”トラップ”です。
地球は、神たちとの相性がとても悪いのです。
その為、神たちが色々失敗をしてしまうのです。
一番の問題は車です。
天界にも速い速度で移動する乗り物は在りますが、大抵は飛びます。
地上をあれほど速く移動する乗り物は、天界には在りません。
狭く、見通しがあまりよくないところを、かなり沢山の車が走っている地球は、神たちには危険すぎるのです。
その為、地上に降りた神が事故に遭ったり、事故を誘発することが後を絶たないのです。
地上に降りて1秒フラットで、車にはねられた神も居たらしいです。
事故に遭うのは、まぁいいのです。そのくらいでは死にませんし。
問題が起こるのは、その後の対応の時です。
何せ”神”です。
何でも出来てしまうのです。
隠蔽し放題です。
その対応の仕方を見て評価を付ける、お目付け役の方が居るのです。
ご丁寧に「なかったことにな~れ~。」という、ふざけた名前の魔法を新神に教え、問題を起こした時にどのように対応するのかを見るのです。
性格が悪いです。
さすが”神”です。
慎重に行動する様に、さんざん教えた自慢の妹です。
きっと、慎重に行動したはずです。
”ふざけた名前の魔法”を使っていないことを祈りながら、状況を聞きます。
状況を聞きました。
かなりマズイ状況です。
ゲーム好きの友人が言うところの、跳満レベルです。
先ず、「なかったことにな~れ~。」の、危険な点を妹に教えます。
嫌がらせの為ではありません。
話を先に進める為に、必要なことです。
「「なかったことにな~れ~。」を、死んでしまった人に使うと、その死が無かったことになるのではなく、その人の存在が無かったことになってしまうのよ。」
「居る場所の無くなった魂は、徐々に存在を弱めて消滅しちゃうの。その魂が消滅してしまったら、あなたの”神レベル”が0になっちゃうかも。」
「えええぇぇぇ!!」
妹の悲鳴が電話から聞こえます。
「まだ大丈夫。その魂を私の世界で受け入れるわ。」
「その人が死んでしまったことと、存在が無かったことになってしまったことについては、もうどうしようもないわ。」
「でも、その”失われてしまうところだった魂”を救済すれば、加点があるはず。」
「そうすれば、あなたの”神レベル”が0になる事態は、避けられるでしょう。」
「うんうん。わたし、どうすればいい?」
「先ず魂を捕まえて天界へ連れて来て。そこで受け取って、私の世界に転移させるわ。」
「きちんと謝るのよ。納得してもらえないと”救済”にならないからね。」
「じゃあ、また後で。すぐ行くわ。」
「うん、分かった。ありがとう、お姉ちゃん。」
「いいのよ。」
ガチャリ
電話が切られる。
……ふぅ。
大変な事に、なっちゃってたなぁ。
徹夜明けのしんどい頭で、やることを考え、問題点が無いかを検討する。
お目付け役の方には、既に気付かれているはず。
だから”神レベル”が下がるのは避けられない。
”失われてしまうところだった魂の救済”の加点で、”神レベル”が0になる事態を避ける。
うん。きっと大丈夫。
あの子が、あの世界に居続けられるかどうかは別だけど、それは私にはどうしようもない。
”神レベル”が0.5未満だと、使える魔法がかなり限られるので苦労はするだろうけど、”神レベル”を上げられる可能性が残るだけマシよね。
うん。きっと大丈夫。
あの子は、できる子だから。
「三徹の身には堪えますが、かわいい妹の為に頑張りましょう。」
「あー、〇ンケル頼めばよかったなぁ…。」
「あー、牛丼弁当頼めばよかった…。いや、唐揚げ弁当? のり弁もアリか?」
いやいや、落ち着け。妹に、たかろうとするんじゃない。
大丈夫、そう大丈夫。うふふふふ。
「あと2ページ仕上げれば、女神さまが鍋焼きうどん作ってくれるんだぁ。えへへへ。」
全然大丈夫じゃ無さそうなセリフを呟いて、五徹してやばくなった女神さまは、妹に与えられている個室へ向かった。
死んでしまった男の悲劇は、まだ安心できる状況にはならないらしい。




