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05 始まり01 王弟の一家


王都の屋敷に住む、王弟おうていの一家。


この一家には、少し事情が有った。

王様と王弟との関係は良好である。

王弟と妻との関係も、今のところ良い。

王弟夫妻の間に、まだ子供は居ない。

その一方で、お腹の大きな侍女じじょが一人、屋敷に居た。

その侍女は、王弟の子を身籠みごもっていた。


王家の人間が、愛人をかこって子を産ませるというのは、この国でもよく有る事だった。

貴族の家の出身である妻も、愛人が夫の子を産むこと自体は、まぁ容認している。

しかし、自分よりも先に、愛人が身籠みごもった事については、不愉快に思っていた。

さいわい、夫婦仲は良いので、二人の間に子供をさずかるのも時間の問題と思われた。

それでも、不愉快なものは不愉快なのであった。


王弟は、そんな妻の機嫌を取る為に、色々気をつかう事となった。

まず、妻が身籠みごもった事にした。

次いで、妻が身籠みごもっていない事を隠す為に、住居を王都から移した。

身籠みごもった侍女を、妻とは離れた部屋に住まわせた。

そして、妻が身籠みごもるようにはげんだ。

しかし、なかなか妻が身籠みごもる事はなかった。

王弟は、そんな妻の機嫌を取る為に、他にも何か出来ることはないかと思案していた。

そこへ、知人が一人の商人の男を連れて来た。

王弟は、その商人の男からの援助の申し出をがたく思ったのだった。



この商人の男。

実は、身籠みごもった侍女じじょの父親であった。

娘が身籠みごもった事で、王弟夫人の機嫌をそこねている。

その為、王弟夫人が娘をがいする事が無い様、機嫌を取らなければならないと考えた。

差し入れられた美味しい食べ物やアクセサリーなどで、王弟夫人の機嫌は良い。

さらに庭作りも行った。

美しい庭が出来上がった。

王弟夫人は、おおいに喜んでくれた。

さらに庭が拡張されていく。

庭師が休憩する為の小さな建物兼物置が、屋敷から離れた場所に建てられた。

庭が大きくなるにつれて庭師が多くなり、建物兼物置も大きくなった。

そして、その建物兼物置には、いつの頃からか少人数の庭師が常駐する様になったのだった。



この常駐している庭師たち。

『いざという時に、あの侍女を保護する為に、あの商人の男が置いた者たちであろう。』と、王弟は考えた。

親が娘の身を心配してした事であろうし、そうしたい理由も理解できた。

王弟は、その建物が屋敷から離れていたこともあり、庭師たちが常駐する事を黙認もくにんすることにしたのだった。



この屋敷に関わる多くの者たち。

それぞれ、事情や思惑が有ったが、関係は良好であった。

そして、身籠みごもっていた侍女じじょが出産した。

女の子であった。

女の子であった事に安堵あんどする者、落胆らくたんする者が居たが、おおいに喜ばれた。

王弟夫人も、女の子であった事に安堵あんどした。

王様には男の子が居なかったから。

もし男の子だった場合、次の王様になる可能性が高くなっていたから。

その場合、夫の寵愛ちょうあい侍女じじょに向かってしまうかもしれなかったから。

だから、王弟夫人は心から安堵あんどしたのだった。



侍女じじょが産んだ女の子は、すくすくと大病たいびょうもせずに育った。

王弟夫人にもよくなつき、皆の関係は良好であった。

皆の関係が良好なのは良かったのだが、この事がおかしな事態を引き寄せる事になる。


おかしな事態を引き寄せるのは、侍女じじょの父親である商人の男である。

以前は、王弟夫人の機嫌をそこねている娘を王弟夫人ががいしてしまわぬ様、大金を投じて機嫌を取らなければならなかった。

その恐れが、かなり小さくなった様に感じると、少し欲が出てきた。

今まで投じた大金に対する見返りを、漠然ばくぜんほっする様になったのである。

さいわい、金銭面で困る様な状況にはなく、それゆえに金銭以外の何かを漠然ばくぜんほっする様になった。


そこへ王弟派の貴族たちが、この商人の男を利用しようと、何事なにごとかをたくらむ様になった。

王弟派のある貴族が、同席していた酒の席で、この商人の男にとんでもない事を言う。

「もし、王女様に何かあれば、お孫さんは王都にお引越しですね。」

滅多めったな事を言ってはいけませんよ。」

その貴族は酔っていて聞いていないのか、話を続ける。

「その時は、王都へ行って商売をすればいいだけです。」

その貴族との会話はそれだけであった。


だが、『王都へ行って商売をする。』というその言葉に、この商人の男は翻弄ほんろうされてしまう事になるのだった。


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