< 02 地球の在る世界の神02 >
来ました。
地球です。
日本です。
比較的空気が綺麗な国とは聞いていましたが、少し気になりますね。
天界育ちのわたしが慣れるのには、少し時間が必要かもしれません。
マスクをしている人が多いですね。
ここに住む人たちにも、気になるレベルなのでしょうか?
地上に降り立ったわたしは、人の流れを邪魔しない様に歩道の端に寄り、周囲を観察することにします。
姉に慎重に行動する様に、言われたからです。
「あんたは凄いよ。学校を首席で卒業するなんて。」
「やればできる子だよ。目標に突き進んで、努力して、掴み取る能力は神懸かってると思うよ。」
「でもね。」
「あんたは、ドジっ子だからね。」
「神懸かってるからね。」
「うっかりさんだからね。」
「常に、慎重に、行動するんだよっ。」
姉の言葉を思い出し、”慎重に行動する”と、心に刻み込みます。
出来てる。うん。慎重に行動出来てる。
わたしドジっ子なんかぢゃないですよ。できる子です。うんうん。
姉との会話を思い出す。
「あんたは、よそ見をして歩いて、靴を履き忘れた足で側溝にハマって、目的地と現在位置を見失うドジっ子なんだからね。」
「そこまで、ひどくないもん。」
「靴を履き忘れて外出する事は、よく有るだろ。」
「今年はまだ無いもん。」
「毎年有る事が異常だからね。」
ドジっ子と決め付けたがる姉を思い出して、「やれやれだぜ。」と溜息を吐きます。
目線が下へ行ったのは、靴を履いているか確認した訳ではありません。
靴下の色が左右で違いますが、これは、そういうファッションです。
「あ。」とか声が出てしまいましたが、今、気付いた訳ではありません。
これは、そういうファッションです。
…少し動揺してしまいましたが、そろそろ行動に移りましょう。
先ずは食事です。
食べるのは、もちろんアレです。
神たちが絶賛する食べ物、第一位。それは”ラーメン”。
食べた神の誰もが虜になり、自分の世界の住人に作らせるが、何故か上手くいかない。不思議かつ魅惑の食べ物。
辺りを見渡してラーメン屋を探します。
ガイドブックに載っているお店に行くのも良いのですが、良いお店の目安とされる”行列の長さ”が分かりませんので、自分の目で確認します。
「ラーメン屋にハズレ無し。」と、他の神たちが言っていたので、”行列の長さ”で判断して大丈夫でしょう。
…決して現在位置が分からないから、ガイドブックが役に立たない訳ではありません。
現場重要。
それだけです。
この位置から見える、ラーメン屋とおぼしきお店は二つ。
行列の長さは同じくらい。
どちらにしようか、少し考えます。
ふと、”行列 → 待ち時間 → 暇”と、言う考えが、頭をよぎりました。
”することリスト”を、頭に思い浮かべ、待ち時間に出来そうな事を考える。
”お菓子を食べる”がヒット。
うん、異議なし!
コンビニエンスストアを探しましょう。
…在りました。
コンビニ経由、ラーメン屋行きのルートを考え、ラーメン屋を決定。
「よし行こう。」と、思ったところで、姉の言葉を思い出す。
”慎重に行動する”
うん。
起こり得る事態を想定しつつ、周囲の状況を確認。
歩道の状態は良し。人通りは多くない。自転車も走っていない。横断歩道は一か所。交通量は多くない。
うん。大丈夫。
不安な点は無い。
「よし。」と、思ったところで気が付いた。
お金は?
財布を探す。
スカートの右前に手を当てる。
無い。
左前に手を当てる。
無い。
胸ポケットに両手を当てる。
そこにはいつも財布を入れてないので、「もちろん無いよね~。」と呟く。
通りすがりの学生さんらしき人たちが、「ステータス、ステータス。」と言っていますが、何のことでしょうか?
頭の中で財布を取りに帰る時間を計算しつつ、ペタペタとあちこちを探る。
すると、スカートの左後ろに財布らしき感触が。
ホッとすると同時に、今起きている事態を頭の中で確認。
このスカート。左後ろにポケットは無かったはず。
そして、今、前に有るチャックは、いつもは後ろに有ったはず。
「たまにはチャックが前に有る日もあるよね~。チャックだし。」
”チャックだし”の意味が不明だが、現実は一つ。
そして現実を認める事は、時に残酷だったりする。
「…スカートゥの前後がぁ、逆ぅ…かしらぁ?」
現実を認めたがらない、自称”できる女神”がそこに居た。
「何故そうなる?」とか言うのは無意味だ。
ドジっ子とは、そういうものだから。
残酷な現実だけが、そこに在った。
ダッシュでコンビニに駆け込んだ。
「慎重な行動とは?」と、言いたくなるが、仕方が無い。
「ファッションです。」で、自分をごまかせないのだから、仕方が無いのである。
先ほどの靴下とは違うのだよ、靴下とはっ。
コンビニでトイレを借りて、スカートを直す。
靴下も脱いでしまおうかと考えたが、狭いトイレ内で転んで身動きが取れなくなる未来しか見えなかったので、それは止めた。
ファッションだから、脱ぐ必要なんて無いしね。
念の為、財布の中のお金を確認する。「バリバリ」
うん、大丈夫。
一安心してトイレを出る。
ふぅ。
「スカートの前後を間違えちゃうなんて。(てへ)」
そう心の中で呟いて、ちょっとした失敗だと、自分に言い聞かせる。
しかし、受けたダメージが、「いや、結構いいヤツ食らいましたよ。」と主張してくる。
「わたしは、できる女神。」、「わたしは、できる女神。」
そう、心の中で呟き、ヤツの主張を塗り潰した。
落ち着きを取り戻したところで、コンビニの店内を見渡す。
数多くの商品に、わくわくする気持ちが湧き上がる。
しかし、ココに来た目的は、ラーメン屋の行列の待ち時間の間に食べるお菓子を、買いに来ただけ。
目的を忘れない。これ大事。
メインイベントはラーメン。OK?
舞い上がるな~。平常心で目的を達成するのだ。
お菓子コーナーに行く。
実は、この世界の神が絶対買わなければならないお菓子という物が存在する。
そのお菓子をココで買うことは、既に決めていた。
そのお菓子は、スナック菓子のコーナーには無い。
うん、知ってる。
並ぶ商品を端から端まで見ながら、「コンソメは鉄板だよね。」とか、「すっぱいヤツってどんな味なのかしら。」とか、口から出てしまう。
おせんべいコーナーで、「合法麻薬粉せんべいキターーー。」
飴、ガムのコーナーで、「パチパチするヤツってどんなのかな~。」などなど。
お菓子コーナーを堪能してから、チョコレート菓子のコーナーで商品を二つ手に取り、レジに向かう。
噂に聞く「ポイントカードお持ちですか~。」の呪文に、「うは、キター。」と、心の中で歓喜したりしながら会計をする。
地球で流行っていると聞いてから愛用している、”バリバリ鳴く(←!)財布”を取り出し(「バリバリ」)会計を済ませる。
変に注目されている気がしますが、何なのでしょうか?
「ありがとうございましたー。」と言っているであろう、聞き取り難い声を背中に聞きながら、コンビニを出た。
お菓子を買って、はしゃぐ様な”お子様”ではないので、左右をきちんと確認してラーメン屋に向かう。
自転車や、他の歩行者に注意を払いながら歩き、横断歩道を渡り、目的のラーメン屋に到着。
行列に並び、注文を取りに来た店員に、しょうゆラーメンを注文し、待つ。
できる女神は、ラーメン屋の行列の待ち時間だって無駄にはしない。
この世界の懸案、二大宗教の戦争を、今、終わらせよう。
コンビニ袋の中を見ながら、できる女神は笑みを浮かべた。
お菓子を見て喜ぶ女の子の様にしか見えないが、自称”できる女神”の笑顔なのである。




