33 外伝 とある冒険者の話
目の前に王都が見えている。
商隊の護衛の仕事も、もう終わりだ。
今回は急な仕事だった。
夜に依頼があり、出発は夜明け前だった。
慌ただしく準備をして、集合し、出発した。
二日酔いと乗り物酔いで、えらい目に遭った。
しかし、リーダーに文句を言うつもりは無い。
急な護衛の仕事が入った場合、その仕事を受ける目的が”王都を離れること”だった事が、過去に何回か有ったからだ。
以前、急な護衛の仕事から帰って来たら、男爵家が潰れていたなんて事もあった。
貴族同士の抗争らしかった。
大量に雇われた冒険者たちがそれに巻き込まれて、多くの怪我人が出ていた。
その時の怪我が元で廃業した者も居た。
そんな危なそうな依頼は受けなければ良いのだが、貴族に睨まれると厄介だから、断るのは難しい。
危なそうな時は、王都に居ない事が一番だ。
その貴族同士の抗争の後。
冒険者ギルドには、受ける者が居ない依頼が溜まっていった。
俺たちのリーダーは、そんな溜まった依頼を「沢山受けよう。受けまくろう。」と言った。
そんなことをしたら冒険者ランクが上がり過ぎて、目立ってしまう。
俺は反対した。
しかしリーダーは、「俺には幸運の女神様が付いているから大丈夫だ。」とか言って、沢山の依頼を受けて来た。
沢山の依頼をこなして、A級までランクが上がった。
上がってしまった。
揉め事を引き寄せる予感しかしなかった。
当時、沢山溜息を吐いた事だけは憶えている。
どんな依頼をこなしたのかは、ほとんど憶えていないのにな。
王都に入った。
街はお祭り騒ぎだ。
明日、王女様の結婚式が行われるからだ。
賑やかな喧騒の中。
馬車を慎重に進ませ、冒険者ギルドを目指す。
商隊の護衛の依頼完了の報告をする為だ。
冒険者ギルドの中は静かだった。
『街の警備の仕事が忙しくて、人が居ないのだろう。』
そう思ったのだが、どうにも雰囲気がおかしい。
近くに居た顔なじみに訊く。
「何かあったのか?」
「オークの集落の殲滅に行った者たちが、一人も帰って来ないんだ。」
そう言われた。
だが、それにしても雰囲気がおかしい。
オークの集落の殲滅ともなれば大仕事だ。
手こずる事もあるし、失敗して壊滅する事だって有り得る。
こんな雰囲気になるのはおかしくないか?
不思議に思っていたら、さらに言われた。
「行った者たちの中には、ギルマスも居たんだ。」
ギルマスも?
何故、ギルマスが同行していたんだ?
ギルマスが同行した理由に、一つに思い当たるモノがあった。
声を潜めて訊く。
「それは、貴族絡みか?」
そいつは、無言で頷いた。
そして、『グラスプ公爵が、爵位と領地を失ったらしい。』とも、小さな声で教えてくれた。
俺は言葉を失った。
大事件が起きていた。
俺たちが慌ただしく王都を離れた後に。
しばらく呆然とした。
ふと、リーダーの顔を見た。
リーダーの顔は、『俺には幸運の女神様が付いているのさっ!』と言わんばかりの、見事な”ドヤ顔”だった。
俺たちは用事を済ませ、ギルドを出た。
何とも言えない気持ちで。
「お帰りなさいませ、アナタ。(喜)」
沈んだ気持ちを吹き飛ばす様な明るい声が聞こえた。
見ると、リーダーの奥さんがお迎えに来ていた。
「ただいま。あと、『お帰りなさいませ。』は、止めてくれ。」
照れるリーダー。
「じゃあ、ここで解散な。」
「おう。」
「じゃあ。」
「またな。」
俺たちは、そう軽く言葉を交わして、それぞれのねぐらに向かった。
俺は、リーダーと奥さんの後ろ姿を何となく眺めて…。
地面に付きそうなほどの長いスカートを履いた、言葉遣いがメイドさんな奥さんに、何やら不思議なものを感じたのだった。
この章はこれで終わりです。
次の章では、この世界に来ることになった、一番最初の話を書きます。
作品タイトルに”姫様”を入れたけど、なかなかその姫様が登場しなくて、こんな順番になりました。(てへ)




