31 外伝 鎖骨狂乱 (6日目 ナナシサイド)
俺は王宮の部屋で、目を閉じてソファーに座っている。
そして【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を通して、オークの集落の周辺の様子を見ている。
その場所では、魔法で姿を消している者たちが撤収しようとしていた。
彼らを【目玉(仮称)】で追う事にする。
彼らが使用している魔道具が、どの様にして、姿を消している仲間を見ているのか知りたかったからだ。
彼らの目の動きなんかを見逃さない様に、意識を集中して監視する。
姫様が部屋にやって来た。
彼らに意識を向けたまま、姫様を手招きして隣に座らせる。
彼らに意識を向けたまま、姫様と軽く話をする。
彼らに意識を向けたまま、姫様と軽く話をする。
彼らに意識を向けたまま、姫様が体を預けてくるのを、そのまま受けとめる。
彼らに意識を向けたまま、姫様が、くんかくんかするのを放置する。
彼らに意識を向けたまま、姫様が、くんかくんかくんかくんかくんかくんかするのを放置する。
彼らに意識を向けたまま、姫様が胸元に抱き着くのを、そのまま受けとめる。
彼らに意識を向けたまま、姫様が、くんかくんかくんかくんかくんかくんかするのを放置する。
彼らに意識を向けたまま、部屋のメイドさんたちが「胸元を広げて下さい。」と言うのをそのまま聞いている。
彼らに意識を向けたまま、部屋のメイドさんたちが「むほー!」と言っているのをそのまま聞いている。
彼らに意識を向けたまま、部屋のメイドさんたちが「これが噂の鎖骨っ!」と言っているのをそのまま聞いている。
彼らに意識を向けたまま、部屋のメイドさんたちが「もっと噂の鎖骨をっ!」と言っているのをそのまま聞いている。
彼らに意識を向けたまま、姫様が胸元に抱き着き「むふー、むふー。」と言っているのをそのまま聞いている。
彼らに意識を向けたまま、部屋のメイドさんたちが「もっと私たちにも噂の鎖骨をっ!」と言っているのをそのまま聞いている。
彼らに意識を向けたまま、部屋のメイドさんたちが「姫様っ!少しだけ替わってくださいっ!!」と言っているのをそのまま聞いている。
彼らに意識を向けたままでいるのは、もう無理だと思ったので、【目玉(仮称)】での監視は【多重思考さん】たちに任せた。
そして言う。
「君たちは何をしてるの?」
「「「「………………。」」」」
時が止まるのが見えた。
「もっと、私に構ってください!!!」
「「「もっと、私たちに噂の鎖骨をっ!!!」」」
何故かキレられた。
しかもメイドさんたちには、訳が分からない事でキレられた。
”噂の鎖骨”って、何ですかね?
今、部屋の中には、俺と姫様と三人のメイドさんたちが居る。
俺のシャツの胸元が、やや大きく開いている。
そして、そこを凝視する女性陣。
今、シャツの胸元を閉めたらどうなるんだろうな?
『残念そうな表情をされるだけでは済まない。』と、俺の直感が告げている。
襲われるかもしれない。
そう思うと、迂闊な行動は出来なかった。
動けない俺。
凝視する女性陣。
詰んでいた。
トイレに行くことすら禁止されそうな、そんな緊張感があった。
夕食までもう少し時間があるが、それまでこの状態で耐えなければいけないのだろうか?
打開策が思い浮かばない。
【多重思考さん】たちにも打開策を考えてもらう。
ふと、『転移魔法で逃げる。』という案が浮かんだ。
それだっ。
がしっ
姫様に捕まった。
何で分かったんですかね?
だきっ
姫様に抱き着かれた。
俺の胸元が見えなくなったメイドさんたちが、見えるポイントを探そうと三者三様の動きをする。
姫様が、くんかくんかくんかくんかくんかくんかする。
「姫様、見えないです。」
「姫様、替わってください。」
「いや、それはマズイことになるぞ。」
「メイドの土産に。」
「ツッコまないぞ。」
詰んだ状態から状況が少し動いた。
ダメな方向に。orz
くんかくんかくんかくんかくんかくんか
「姫様、見えませんから少し離れてください。」
「姫様、左側は譲りますから右側は私に」
「姫様、鎖骨の前に人は平等なのですぅーー。」
ダメ度がさらに上がっていく。
この状況は駄目だ。
何か打開策はないか? 衛生兵は居ないか?
いや、衛生兵がまともとも限らないか。
その時、廊下をこちらに向かって歩いて来るメイドさんの姿に気が付いた。
夕食の時間かな?
そうだといいな!(切実)
ドアがノックされる。
メイドさんたちは誰も返事をしない。それどころではない様だ。
いや、返事はしようよ…。(苦笑)
廊下に緊張が走るのを感じた。
ノックの音と、「失礼します。」と言う声がして、ドアが開いた。
部屋に入って来るメイドさん。
廊下に居た護衛のメイドさんも、部屋の中の様子を窺っている。
部屋に入って来たメイドさんは、一度立ち止まり、ある一点をジッと見た。
そして、再び移動するメイドさん。
その動きは、”何かを伝える為に近くに移動した”のではなく、”ある一点が良く見える位置に移動した”様に見えた。
メイドさんが立ち止まった。そして言う。
「夕食のお時間です。」
「…はい。」
俺は、そう返事をした。
そう返事をしたのだが、詰んでる状況は何も変わらなかった。orz
「…なるほど、これが噂の…。(ごきゅ)」
そう言うのが聞こえた。
一人増えた。
ダメ度がさらに上がった。
おわた。 \(^o^)/
ふと、ドアのところから様子を窺っていた護衛のメイドさんと目が合った。
が、目を逸らされた。
他の、ダメになっているメイドさんたちとは違う反応だった。
その反応に、希望の光を見た!
目を逸らされただけなのに。(苦笑)
護衛のメイドさんは廊下を走って行った。
助けを呼びに行ってくれたんだと信じてるからねっ! 頼んだよっ!
さて。
来てくれるのは、どちらの方向へ逝っちゃった人だろうか?
”まともな人が来る”という可能性を考えていない自分に、少し呆れてしまった。
来た人は、やっぱりまともな人ではなかった。
”あててんのよ”さん、参上!
「はいはいはい、夕食ですよ。離れて、離れて。」
メイドさんたちを俺から遠ざけ、姫様をペリっと引っぺがした。
そして俺を立たせてくれた。
礼を言おうとする前に抱き着かれた。
理由の無い”あててんのよ”が俺を襲う。
むはー。(歓喜)
ふにょんです。
ふにょんです。
大事なことなので2回言いました。
姫様が何か文句を言っています。
「夕食です。文句を言う暇が有るなら手を煩わせないで下さい。」
正論さんが強い。(笑)
でも、抱き着く事とは、まったく関係が無いし、必要も無かったよね。
俺は何も言わないけどさっ。
「さぁ、食堂に移動してください。」
先ほどまでの”詰んだ空気”は、もう無くなっていた。
助かった。
廊下を歩きながら、シャツのボタンを留める。
夕食の席に着く頃には、姫様も正気を取り戻してくれていた。
「ナナシさんは、もっと私に構うべきです。」
そんな事をずっと言われましたが。
夕食後も俺の部屋に居座る姫様を構って、少し用事を済ませてから、この日は寝た。
翌朝。
「このシャツ、ボタンが外れてるよね?」
「そういうデザインです。」
「でも、ここにボタンホールが有るよ。」
「そういうデザインです。」
「………………。」
「………………。」
「一周回って、”着ない”というのもアリですねっ。」
「いや、何周回ってもそこには行かないよね? むしろ崖下に落ちてるよね?」
「一緒に落ちる覚悟は出来ています。(キリッ)」
「そんな覚悟はいらないから、ボタン付けて。」
「せっかく、外しましたのに…。」
「やっぱり、外れてたんじゃないか。」
部屋付きのメイドさんの病状が心配です。




