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29 10日目 ナナシサイド 決着 その後


グラスプ公爵家との勝負に決着が付いた。


公爵家は、思いのほか手応てごたえの無い相手だった。

呪術師じゅじゅつしには、ちょっとだけ、ヒヤリとさせられましたがっ。


貴族の持つ力ってやつを、過大評価し過ぎていたのかな?

あの公爵家に、実力も人望も無かったという可能性もあるのか。

あの勝負を見た他の貴族たちは、どう思ったのかな?

俺の実力で勝ったのではなく、公爵家の実力不足だと思われたかな?

それとも、王様や大臣がこちらに肩入れした結果だと思われたかな?

それならそれで、俺にちょっかいを出すのを躊躇ためらわせる理由になるか。

そうなるといいな。

俺は、ごとけて、のんびりごすと、決めているんだから。



今は部屋に戻って、姫様とお茶しているところだ。

そこへ、メイドさんがやって来た。

何でも、”式典しきてん”とやらが有るんだそうです。

えー。

ウンザリした表情をしてしまったのだろう。

「あまり大きなものではなく、すぐに済むそうですっ。」

そう、あわてた様子でメイドさんに言われてしまった。

でもさー。

式典しきてん”って名前だけで、すでにすぐ済む様な軽いものではないと思うんですよー。

「はぁ。」

溜息ためいきが出た。


メイドさんが帰った後。

今度は、大臣が走ってやって来た。

式典しきてんの説明だそうです。

「はぁ。」

一つ溜息ためいきいて、『よし。逃げよう。』と思ったら、既に姫様に腕をつかまれていた。

しまった! 逃げ遅れた!

「立っているだけでいい! 臣下しんかれいも礼儀作法もいらない!」

そう、大臣に言われた。

「は?」

「”爵位の授与”と”領主に任命する”だけ。立っているだけで終わる! 終わらせる!」

そんな事を大臣に言われた。割と必死な感じで。

立ってるだけなら、いいかなぁ?

式典しきてん”とやらの進行は大臣がするんだろうし、その大臣がわざわざ走って説明に来ているんだ。

信じていいだろう。


俺は、式典に出ることを了承した。

既に姫様に腕をつかまれて、つかまっていたしね。(苦笑)

大臣は、ホッとした様子で戻って行った。

姫様は、俺の腕から離れることはなかった。

離してくれていいんですよー。

”ふにょん”ぶんが少ないし。(←おい)



式典しきてんに出た。


立っていた。


式典がさくさくと進んでいく。


進行役の大臣が「爵位を授与する。」とか「領主に任命する。」とか言っていたが、本来ほんらい返事をするのであろう部分をさっさと省略して、大臣がずっとしゃべっているだけの状況が、さくさくと進んでいった。

「以上です。」

大臣が、一気に式典を終わらせた。

あまりの”怒涛どとうっぷり”に笑ってしまいそうになる。

我慢できなかったのであろう姫様が、笑っています。(笑)

王様が「これからよろしく。」とだけ言って、下がって行った。


本当に立っているだけで式典が終わった。

すげぇ。

”国の本気”を見た。


”国の本気”の使いどころが、おかしいと思いますが。(苦笑)



姫様と王妃様が、俺のところにやって来た。

姫様が言う。

「改めてお礼を言わせていただきます。グラスプ公爵家との勝負に勝っていただき、ありがとうございました。」

「あー、爵位とか、領地とか、そんな物、邪魔なだけなんだけど。」

欲しいと思った事も無いしね。

「ナナシさんが、公爵の爵位と領地を持つ事には、色々とメリットが有りますわ。」

「私の夫の身分が低いと、色々(いろいろ)難癖なんくせを付けてくる貴族が居ます。」

「『平民風情が。』とか言う貴族たちを黙らせる事が出来ますし、領地経営で利益を上げれば、口だけ達者たっしゃで無能な貴族たちも黙らせる事が出来ます。」

「領地経営は、アンの実家の者たちに任せておけば大丈夫です。彼らは優秀ですから。」

「それに、あの者たちから領地を奪っておけば、裏でコソコソする資金が無くなります。」

「イイ事だらけです。(超笑顔)」

姫様が言った事の中の『私の夫』の部分が気になったので、きちんと言っておく。

「それはともかく、俺は”夫”になる気は無いからね。”結婚式で新郎の席に座るだけ”だったよね?」

姫様は動じずに、言葉を続ける。

「ナナシさんは、ごとが嫌だから、結婚を断っていたのですよね?」

「公爵の爵位と領地を持っていれば、からんで来る馬鹿な貴族が居なくなって、ごとを回避できます。」

「さぁ、私と結婚して、のんびり悠々自適な生活をしましょう。」

「姫様と結婚しなくとも、のんびり悠々自適な生活は出来ますよ。」

「ぐふっ。」

姫様の口から、王女様らしくはないが、姫様らしい声が漏れた。

「そ…、そうです、ナナシさんには、これから結婚の申し出が殺到します。」

「グラスプ公爵家と勝負をして、たった一人で勝ったのですから、その実力は本物です。」

「この国の貴族たちからだけでなく、他の国の王族からも結婚の申し出が殺到するでしょう。」

「私と結婚すれば、それらをすべてけられます。」

「ナナシさんがしてくださった事で、お馬鹿な者が力を失いました。他の者たちも大人おとなしくなるでしょう。」

「国が安定していた方が、ナナシさんものんびり過ごす事が出来ますよね。」

「私と結婚すれば、ナナシさんが望んでいる、ごとけてのんびりごす生活を送れますよ。」

「ぐ…。」

ちょっと変な声が出た。

困った。

姫様の言った事は間違っていない気がする。

姫様と結婚することで、のんびり過ごせそうな気がするな。

どうしよう。

何て言って断ろう。

困った。

考えろ。考えろ。考えろ。

取り敢えず、返事を保留ほりゅうさせてもらおう。

「………少し考えさせて。」

「はいっ!」


「お母様っ、作戦会議です! 付き合ってください!」

「はいはい、頑張りましょうね。」

「はいっ!」

姫様は王妃様の腕を引っ張って、何処どこかへ行った。

俺は、『どうしたものか…。』と思いながら、部屋に戻った。



部屋の中を、ぐるぐる歩き回る。

困った。

困った。

困った。ゆえに、われ、困った。

いや、落ち着こう、俺。


俺の目的は、”ごとけて、のんびり過ごす”こと。

先ほど、姫様に言われたこと以外に、それを邪魔するモノが何か有るかを考える。

仮に、公爵の爵位を狙う者が、俺に女性を近付けさせようとする。

王宮に住んでいれば、そういう人たちが近付けないから、ごとを回避できる。

”のんびり過ごす”は、姫様が約束してくれているから、まぁ大丈夫だろう。

姫様は信用できると思う。


いやいや、なにメリットを考えてるんだよ。

姫様と結婚するデメリットを考えろよ。

姫様と結婚するデメリットぉ。姫様と結婚するデメリットぉ。

ごとを排除したから、もう無いか?

今日のアレを見たら、変なちょっかいを出してくる者はいなくなりそうな気がするな。

いやいや、あきらめんなよ。

あきらめたら、そこで試合終了だよ。

いや、人生終了か? 結婚は”人生の墓場”って言うし。

考えろぉ。考えろぉ。考えろぉ。


これからごとが起こる可能性を考えればいいのか?

何が起こる? 誰が起こす?

姫様と結婚したい他の人たちが、何かする?

その場合は、今回と同じ方法で排除すればいいのかな? いいよな?

姫様に俺の子供を産んでほしくない人たちが、何かする?

俺を殺す?

かなりの事は回避できる気がする。

王宮に居れば、簡単には近付けないだろうし。

毒殺は?

【鑑定】があるから大丈夫。

”物理攻撃”、”魔法”、”毒”は大丈夫そう。

他に方法は? 何か手段が有るか?

社会的評価を下げる? 姫様に嫌われる様に仕向ける?

結婚にも子作りにも、間に合わないよね。

今ではなくとも、子供が生まれた後でもいいのか?

離婚したとしても、かくもればいいよね。

いや、もるのは、今でも出来るよね。

あれ? そう言えば、俺は何で王宮に居るんだったっけ?

あれーー? なんか考えがまとまらない。


部屋の中を、無意識にぐるぐると歩き回り続けている自分に、ふと、気付いた。

お茶でも飲んで、落ち着こう。

部屋付きのメイドさんにお茶を頼んで、ソファーに座る。

お茶を一口飲む。

立ち上がる。

ぐるぐる歩き回る。

座る。

お茶を一口飲む。

立ち上がる。

ぐるぐる歩き回る。

「あー、おちつくー。」(←落ち着いてませんし、座ってもいません)


しばらく、ぐるぐるしていたら、ドアがノックされた。

あー、廊下の様子とか全然気にしてなかったわ。

【New目玉(仮称)】を通して廊下の様子を見てみたら、いつの間にやらメイドさんが沢山たくさん居てびっくりした。

びっくりしているうちに、姫様と王妃様が部屋の中に入って来た。

二人は俺の前で立ち止まる。


ず、お母さまの胸を見てくださいっ!」

そんな、良く分からない事を姫様が言った。

「はぁっ?!」

俺、びっくり。

「私の胸は、今はまだ小さいですが、このくらいには成長するはずですっ!!」

力強く姫様が言う。

あー、そうですかー。

姫様が変な事を言うから、なんか頭が回転しないんですがっ!

「私は、あなたの良き妻となり、あなたを全力で支えます。」

「あなたの敵は、私の敵として、私の全力をもって排除いたします。」

「あなたがごとけてのんびりごす事を、私の全力をもってお守りいたします。」

「どうか、私があなたの一番近くで、あなたをお守りする事を、お許し下さいませ。」

「ぐふっ。」

変な声が出た。


困った。

困った。困った。困った。

これ、断れるのか?

どうしよう?

困った。

考えろ。考えろ。考えろ。

今こそ、その存在意義を俺に示すんだ! 俺の脳みそっ!

俺は自分の脳みそに答えを求めた。

すると…。

『もう、答えを決めてますよね。』

と、そう頭の中で声がした気がした。

ああ、そうだね。

うん、そうだね。

その通りだね。

うん、その通りだよ。


そう思い、その一言ひとことが、ポロリと口からころがり落ちた。

「…うん。」


この時に決まった。

結婚がぢゃないよ。いや、結婚もだけどさっ!

この時の返事を、一生からかわれる事がだよっ!!


どちくしょおおおぉぉぉ。




< その後の姫様陣営(廊下で聞いていた人たち)のいろいろ >


「『初手しょてあきれさせて反論する力を出させない。』なんていう手は、初めて知りました。」

「その後の展開の速さもすごかったです。一気に押し切りました。」

「あんなに見事に決まるとは。」

「姫様、素晴らしかったです。」

「でも、私は男の人からプロポーズされたいなぁ。」

「『うん。』という返事はないわー。(クスクス)」

などなど。

大変、盛り上がったそうな。


そして、誰も口にはしなかったが、皆が一番に思った事は、『母親の愛を間近まぢかで見ました。』というものだった。


ナナシが気付かず、メイドさんたちが気付いていた事が有る。

それは、王妃様が胸にパッドを少々多めに入れていたという事だ。


姫様のプロポーズの影のMVPは、王妃様だった。


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