26 8日目 公爵家サイド 執事さん視点
勝負の期日が迫ってきました。
初めから勝ち目の薄かったこの勝負ですが、改めて私たちがこの勝負に勝てる状況を考えてみます。
1、一番大きいオークキングを仕留め、持ち帰ってくる。
冒険者たちに依頼しましたが、ナナシ氏は転移魔法が使える様です。
移動速度がはるかに劣る冒険者たちとは、捜索範囲と移動可能範囲が圧倒的に違います。
冒険者たちが行けないところから、より大きいオークキングを仕留めて持ち帰って来られたら、それでこちらの負けです。
あの王妃様が勝ちを確信しているのは、ナナシ氏の転移魔法が理由なのでしょう。
2、ナナシ氏が仕留めて持ち帰ったオークキングを奪う。
私たちがこの勝負に勝つには、これが一番確実でしょうか?
持ち帰ったオークキングは【マジックバッグ】に入れられているはずです。
それを奪えば良いだけです。
手持ちの駒のほとんどを、これに充てました。
姿と気配を消せる魔道具と【遮音】結界を張れる魔道具を持たせて、向かわせています。
王宮にその対策がされていないはずはありませんが、これ以上の手段を我々は持っていません。
上手く王宮に侵入して、見付かる事なく奪い取って来てくれる事を願うだけです。
3、ナナシ氏を殺害する。
お抱えの呪術師が、『これが一番楽だろ。』と、言っていた事です。
オークキングが入った【マジックバッグ】を奪った場合は、期日に間に合う様に王宮から脱出しなければなりません。
それに比べて殺害は、『脱出するのに時間制限が無い分、はるかに楽だ。』と、言っていました。
優秀な呪術師が向かっているので、かなり期待が出来ます。
彼には何か、私が把握していない手段も持っている様ですし。
しかし、ナナシ氏に付いている護衛のメイドたちが厄介です。
簡単な事ではないでしょう。
打てる手は、すべて打ったと思います。
しかし、まだ他にも、勝つ為に出来る事が有るかもしれません。
考えます。
考えますが、ナナシ氏が、”転移魔法を使える”ことと、”王宮に居る”ことが、難易度を引き上げています。
やはり、勝ち目の薄い勝負でしたか…。
あの王妃様に勝負の話をされた時点で、もう既に勝負が付いてしまっていたのでしょう。
このグラスプ公爵家の一番の武器であった情報網の崩壊も、あの時点で決まってしまいましたし…。
「………恐ろしいお方だ。」
思わず口から言葉が零れました。
私は、崩壊した情報網の回復に全力を注ぎます。
”その日”が来るのを忘れるかの様に。
ひたすらに。
届かないかもしれない、朗報を待ちながら。




