13 アンの呪い
『アンの状態が[呪い]になっている。』
そんな話を【多重思考さん】から聞かされて、俺は再び混乱させられた。
目の前に座っているアンの様子を窺うが、特におかしな様子は見られないし不健康そうにも見えない。
その事に一先ず安堵しながら、俺は【多重思考さん】からさらに詳しく話を聞くことにした。
すると、『状態が[呪い]になっている。』、『『グローヴィス家の呪い』という記述がある。』、『LUK(Luck)の値が”-10”になっている。』なんていう話を【多重思考さん】から聞かされた。
LUK(Luck)の値って、マイナスになることなんてあるんだ……。
でも、マイナスになるとどうなるんだろう?
あまり良いことではなさそうってことだけは分かるが。
そんな事を考えている俺の視線の先で、アンがお茶の入ったカップを口元に運んでいく。
パキッ
バシャ!
「きゃあ!」
口元まで持ち上げていたカップをアンが落とした。
いや、カップの持ち手が取れてしまったようだ。アンの指に持ち手だけが残っているから。
「【クリーン】、【ヒール】。」
『珍しいカップの壊れ方をしたなぁ。』と思いながらも、俺は、すかさず魔法を飛ばす。
アンが体の様子を確認しているところに、ぱたぱたとメイドさんが拭くものを手に持ってやって来る。
が、そのメイドさんがソファーのすぐ傍まで来たところで何かに躓いて、アンの胸元に倒れ込んだ。
「キャッ」
「?」
体の様子を確認していたアンがメイドさんの方へ振り向くと、そのアンのアゴ先にメイドさんの頭が軽く当たったのが見えた。
クラッとなるアン。
『あっ、ピヨってる?』と俺が思った直後、アンの体が横に傾いていく。
ごす
アンは、二人掛けソファーの肘掛けに頭をぶつけ、そのままグッタリとしてしまった。
「…………。」(俺)
「…………。」(シルフィ)
『…………。』(【多重思考さん】)
なに? このコントみたいなの?
俺たちは、何を見せられたのかな?
目の前で起きたその光景に、俺たちは、しばしの間呆然としてしまったのだった。
【ヒール】を適当にバラ撒き、アンをソファーに寝かした。
先ほどのコント(?)は、どう見ても普通ではなかった。
マイナスの値になっているというLUK(Luck)が悪さをしたのかもしれないね。
突然現れたというアンの呪い。
誰かがアンに呪いを掛けたのか? ついさっき、この部屋に居るアンに対して。
だけど、この部屋の近くに侵入者が居る可能性は相当低いはずだ。
シルフィの結婚相手を巡って起きたあの勝負の最中に、俺が侵入者から呪いを受けたことがあった。
あれ以降、侵入者対策は厳しくなっているはずだし、近くに侵入者が居れば【多重思考さん】が気付いただろう。
そうなると、アンに呪いが突然現れた原因って、さっきやった”ステータスを偽装する魔法の破壊”くらいしか思い付かないなぁ。
だけど、それで呪いが掛かったりする訳は無いしなぁ。
あれぇー、どういうことだ?
一応、確認の為に、『ステータスの偽装』でアンの性別を”男”にしてみるか。原因を切り分けて調べる為にね。
サクッとやってみたら、アンの状態から[呪い]の文字が消えた。
あれ?
呪いが消えたのはいい事なんだけど、どうしてこれで呪いが消えるんだろう?
どういうこと? こんな呪いなんてあるの?
あれれぇー?
訳が分からないね。
呪いに詳しい人が王宮に居た事を思い出し、部屋に来てもらった。
一人は前にも会ったことがある白衣を着たおじいいさんだ。お久しぶりです。
もう一人も、これまた前に会ったことがある人だ。
っていうか、この王宮に侵入して【目玉】に攻撃して、その後、俺が捕まえた呪術師の男ぢゃねぇか。
え? 何でコイツがココに居んの? コイツがアンに呪いを掛けた犯人で決まりぢゃね?
白衣のおじいさんが言うには、俺が捕まえたコイツは契約魔法で縛って呪術の研究に付き合わせているんだそうです。
うーむ。
まぁ、人材の有効活用としてはアリなのかな? この王宮に侵入した実績もあるんだし優秀なのは間違いないだろう。
何も問題を起こさずに役に立っているのなら、俺がアレコレ言うこともないだろうね。
アンの状況を説明して呪いついて訊くと、その呪術師の男が言う。
「女性にしか効かないようにカスタイズされた呪いなんだろう。どうせどっかのお貴族さまの家でくだらないゴタゴタでもあったんだろうさ。変に弄られた呪いってのは解除が難しい。特にLUK(Luck)の値にまで影響が出る様な呪いなんざ掛けた本人でも解除できないんじゃねぇのか? そもそも、そういった呪いは俺の専門じゃねぇし。ステータスを偽装することで呪いの発動を回避できてたって言うんなら、そのままにしておくのを俺はお勧めするね。」
呪術師の男にそんな事を言われて、俺は考える。
ステータスを偽装することで呪いの発動を回避できていたのなら、そうしておくのが良さそうだ。
実際にそれで回避できていたみたいだし、解除を試みておかしくなってしまうよりはその方がいいかな? 呪いを解除するのは難しいみたいだし。
当面はアンの性別を”男”に偽装した状態にしておくことに決めて、二人には呪いを解除する方法の研究をお願いした。
難しそうだけど放置しておくのも嫌だしね。
それに、その研究がいずれ何かの役に立つことがあるかもしれないしね。
二人を帰した後、改めて三人でお茶をする。
しかし、なかなか厄介な呪いもあったものだね。さっきはアンがお茶を飲もうとしただけでコントみたいな大変なコトになったしね。
お茶を飲もうとしただけでアレだけの騒ぎになったんだ。外を歩けば普通に交通事故に遭いそうだよね。
よく、これまで生きてこられたよね。
性別を偽っていたお陰で呪いの発動を回避できていたようだけど、これって『サーリス伯爵、グッジョブ!』ってことになるのかな?
まぁ、ただの偶然だろうけどね。
夕方。
再びアンの部屋に集まって、調べてもらっていた”グローヴィス家”についての話を聞いた。
すると、アンの母方の祖母の実家がグローヴィス家なのだそうだ。
アンに心当たりが無かったのは、大分前に消滅していたかららしい。
消滅した理由はよく分からないとのこと。
他家に吸収されたり後継ぎが居なくなって家が消滅することは割と普通にあるし、その裏に表ざたに出来ない事情があったりして、詳しい事情が記録に残っていないことは割とよくあるんだそうだ。
そういえば、あの公爵家の話もあの後とんと聞かないし、そういうものなのかもしれないね。既に家名も憶えていないし。
まぁ、俺は初めから貴族の家名になんて興味が無かったから憶えていないだけかもしれないけどね。
この日の夜。
特に言うことは無いんだけど、一言だけ。
やっぱりオッパイは大きい方がいいと思いました。(ニヨニヨ)




