12 アンが……
「アンにはナナシさんの愛人になってもらいます。子供を二人は作ってくださいね。」
シルフィにそんな事を言われて、俺はとても混乱した。
”俺ラブ”なシルフィがそんな事を言うなんて、俺にはまるで想像できないことだったしね。
でも、内心で喜んでしまう自分も居る。愛人を増やしてハーレムを作る妄想をしてしまって。
まさか、ハーレムルートがあるなんて思ってもみなかったよ。そんなフラグ、何処にあったんだろう?
だけど、そうそう美味い話がある訳がない。ここは慎重にいこう。
この王宮で下手を打つと俺が死ぬからな。
俺は、シルフィに理由を訊いてみた。うっかりニヤけてしまわないように表情に注意しながらね。
すると、シルフィが言うには、アンのいい結婚相手を見付けられずにアンの父親のサーリス伯爵が困っていたんだそうだ。
まぁ、ずっと男だと偽っていた訳だし王女様と婚約までしていたんだ。『実は女でした。』なんて公表することなんて出来ないだろう。
そんな弱味があるのだから、アンの結婚相手は慎重に選ばないといけない。領地持ちの伯爵家なのだし、下手な相手と結婚して家を乗っ取られでもしたら困るからね。
そんな事情がある為、『密かに子供を作る』という方針でいくことにして、その相手として俺に白羽の矢が立ったんだそうだ。
俺は既にその辺の事情を知っていたしね。アンが性別を偽ってシルフィと婚約していた時に話を聞かされていたから。
そういえば、その時に『子供をどうするの?』って話を少ししていたな。っていうか、密かに子供を作る相手として俺が指名されそうになっていたんだったね。
その後、アンが性別を偽っていることがバレてしまいそうになって、俺がシルフィと結婚することになった。その為、その『密かに子供を作る』っていう話はうやむやになったんだったね。
シルフィの方は、俺と結婚することで後継ぎの問題が無くなった。先日子供も生まれたしね。
だけど、アンの実家のサーリス伯爵家の方は、その問題がそのまま残ったままになっていたんだね。
あと、俺に白羽の矢が立った理由に、俺ならば家や領地を奪われる心配が無いというのもあったんだろう。俺は既に伯爵よりも高位の爵位も領地も持っているからね。
そう考えると、俺ってサーリス伯爵から見れば安全牌に見えたのかもしれないね。
それと、何気に領地がお隣さんだから、共通の秘密を持っていれば今後も仲良くやっていけそうだとかも思われていそうだね。
しかし、サーリス伯爵はどうしてアンの性別を男と偽ろうだなんて考えてしまったんだろうね?
そんな事をしてしまった所為で困った状況になってしまっているんだけど、本気で上手くいくと思っていたんだろうか?
まぁそれは今更考えても仕方がないことか。
つまり、アンを愛人にするというのは、アンの実家の事情に付き合ってあげるっていうだけで、ハーレムルートに突入した訳ではなかったんだね。
ちょっと残念。いや、かなり残念。アンの他に愛人を作るのはシルフィが許してくれなさそうだからね。
ハーレムルートに突入したと勘違いして、何も考えずに『アンの他にも愛人作っていい?』なんてシルフィに訊かなくてよかったね。きっとドエライ目に遭っていたことだろう。
下手を打つ前に話を聞けてよかったね。危うく死ぬところだったよ。
ハーレムルートは残念だったけどね。
そんな訳で、俺は『アンを愛人にする』という話を了承しました。
人助けでもあるし、妻公認で愛人を持てるんだから俺に断る理由なんて無いよね。
アンって胸が大きいし。(←ココ重要)
何故かシルフィが乗り気で俺にも断る理由が無かった為、この話はあっさりと纏まりました。
話が纏まったところで、アンから要望が。
「こ、これから子供を作ることになるんだし、偽装しているステータスを元に戻したいなぁ。(チラチラ)」
ふむ。
まぁ、サーリス伯爵がご存命でアンの結婚相手を探す必要が無いとなればアンが表舞台に立つ必要は無いだろう。それに、サーリス伯爵がご存命中に後継ぎを作ればアンの性別なんて誰も気にしなくなるだろうから偽装されているアンのステータスを元に戻しても特に問題無いよね。
シルフィも了承してくれたので、サクッとアンのステータスを偽装している魔法を破壊します。【多重思考さん】が。(←今日も安定の丸投げです)
それが終わったら、シルフィから今後のことについてのお話が。
アンは、しばらくの間この部屋に滞在するとのこと。
そして、「子作りをお願いしますね。」とシルフィから言われた。
うーむ。これが噂に聞く”正妻の余裕”ってやつなのかな?
でも、最近のシルフィって食事中のヒナ鳥みたいなイメージが強過ぎて、”正妻の余裕”って言葉とはすごく遠いところに居る気がするんだけどね。(苦笑)
しかし、以前は結婚することさえ碌に考えていなかったのに、妻公認の愛人を持つようになるなんてね。
何が起こるか分からないものだね、人生って。
そもそも、俺ってこの星に居るはずでもなかったんだしねー。
ホント、何が起こるか分からないよね。
そう、俺が人生の不思議さに思いを馳せていると、頭の中で【多重思考さん】の焦ったような声が響いた。
『アンさんの状態が[呪い]になっています。さっきまでそんな状態ではなかったのにいきなりです。この、いきなり現れた『グローヴィス家の呪い』とは、一体、何なのでしょうか?』
頭の中で、そんな話を聞かされて……。
俺は再び混乱させられたのだった。
(設定)
(シルフィがアンを愛人として勧めた、その話の内容について)
シルフィは『アンの実家の問題への対応』であるかの様にナナシに説明しましたが、実際は、王妃様に四人も子供を産むように言われて、それが嫌だっただけです。ナナシが納得できそうな理由が実際に在ったので、それが理由であるかの様にナナシに話したのです。




