11 シルフィ悩む。そして……
「最低でも二人。出来れば四人産んでほしいわね。国とナナシさんの領地の為に。」
王妃様にそう言われたシルフィは、思わず体をピシリと硬直させたのだった。
ベッドに上体を起こして座り胸元に我が子を抱いているシルフィは、「四人……。」とポツリと呟くと虚ろな目で虚空を見詰める。
そのまま動きを止めたシルフィは、胸元に抱いていた我が子を母親にヒョイと取り上げられたことにも気付いていない。
先日の出産は、難産ではなかったものの、それでも大変だった。
それが、あと三回も……。(クラッ)
想像しただけでもクラッとしてしまうシルフィなのであった。
最低でももう一人は産まなければならない。夫の領地を継がせる為に。それは分かる。
また、『万が一の時の為に、さらに二人』というのも理解できる。跡を継ぐ者が居なくなってしまっては混乱が起きてしまうのだから当然だ。
それは分かるのだが、それでも思わず「ぐぬぬぬ……。」と呻いてしまうシルフィなのであった。
一方、シルフィを悩ませる発言をした王妃様が、実は『四人も産めば一人くらい『ガ〇ガン』って名前を付けられるわよねっ。』などと考えていたことなど、シルフィに分かる訳がないのであった。
王妃様は初孫を構い尽くすと、満足して帰って行った。
一人娘は未だに「ぐぬぬぬ……。」と呻いていたのだが。
さらにしばらくの間「ぐぬぬぬ……。」と呻いていたシルフィであったが、突如として天啓を得た。
『一人で四人も産むは大変。でも、二人なら……。』
幸いシルフィには、この話に乗ってくれそうな親友に心当たりがあった。
シルフィは、早速手紙を送るべく、ペンを手に取ったのだった。
< ナナシ視点 >
子供が生まれてから10日ほど経った。
シルフィも歩き回れるまで回復し、食堂で食事をできるようになった。
何故か、未だに俺がシルフィに食べさせてあげているけど。
シルフィを労うつもりで求められるまま好きに甘えさせていたんだけど、これって、いつまで続けなければいけないんですかね?
なかなか”止め時”が分からなくて困ってしまいます。(苦笑)
そんなある日のこと。
一人で部屋で寛いでいたところにメイドさんがやって来た。
シルフィが呼んでいるとのことだったので、メイドさんの後に付いて部屋を出る。
部屋を出ると、メイドさんはシルフィの部屋とは反対の方向へ向かう。
おや?
でも、シルフィも歩き回れるまで回復したことだし、応接室とかで来客と一緒に俺を待っているのかもしれないね。
そう考えて、俺は大人しくメイドさんの後に付いて行った。
メイドさんの後に付いてやって来た場所は、すぐ近くだった。
って言うか、隣の部屋だった。
この王宮に来た当初に過ごしていた部屋だから、ちょっと懐かしく感じるね。
部屋に入ると、ソファーに座っているシルフィの姿が見えた。
それと、シルフィの向かいに座る、シルフィと同じくらいの年齢の女性の姿も。
『誰だろう?』と思いながらシルフィのもとへ歩いて行く。
その途中で、その女性が誰なのか気が付いた。
ああ、アントニオか。今日は女性っぽい服装だったからすぐには気が付かなかったよ。
でも、シルフィの友人って言ったら彼女くらいしか思い浮かばないし、彼女が、シルフィに子供が生まれたタイミングで会いに来るのは何も不思議な話ではなかったね。
軽く挨拶をしながら、シルフィの隣に腰を下ろした。
お茶を淹れてくれたメイドさんが下がって行ったところで、俺は二人に気になった事を訊く。
「彼女のことは何て呼べばいいのかな?」
彼女の本名は『アン』だ。だけど、前回、彼女の家を訪れていた時に、彼女のことは男のフリをしていた時の偽名の『アントニオ』と呼ぶ様にシルフィに言われてたんだよね。
男装してくれていればよかったんだけど、今みたいに女性っぽい服装をしている時には何て呼んだらいいのか悩んでしまうよね。
「これからは『アン』と呼んでください。」
そう言われた。シルフィに。
それをシルフィが決めてしまうのはどうかと思う。前回もそうだったけど。(苦笑)
シルフィって、アンが相手の時だと割と強引なんだよねー。
きっとアンは苦笑いを浮かべているに違いない。
そう思ってアンに視線を向けると、何やらアンの表情が硬かった。
おや? どうしたのかな?
不思議に思いながら、俺はお茶を一口飲んだ。
カップを戻したところで、シルフィが俺に向かって言う。
「アンにはナナシさんの愛人になってもらいます。子供を二人は作ってくださいね。」
「…………?」
シルフィに何を言われたのか、頭の理解が追い付かなかった。
「?!」
頭の理解がやっと追い付いた。
でも、言葉の意味が分かっても、言っている意味が分からない。(混乱中)
俺は二人の表情を窺った。
二人の表情は、俺の頭が理解した内容を裏付けている様に俺には思えた。
……え?
……マジで?
え? え? え?
俺は二人の表情を見比べながら、しばらくの間、混乱しまくったのでした。
(設定)
(人名)
アン
シルフィの親友。サーリス伯爵の一人娘だが男として育てられていた。当時の偽名はアントニオ。
グラスプ公爵家の馬鹿息子にシルフィが結婚を迫られていた際、それを回避する為にシルフィと婚約していた。
婚約者がナナシに変更された際にサーリス伯爵領に戻り、それ以降、ずっとサーリス伯爵領で過ごしていた。
(サーリス伯爵領について)
グラム王国の南東の端に在る領地。
北部で現クラソー伯爵領(元バディカーナ伯爵領)とククラス侯爵領と隣接し、西部でソーンブル侯爵領、南西部でグラストリィ公爵領と隣接している。




