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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第二十章 やったね、家族が増えるよ(増えるのが家族だけだとは言っていない)編
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04 ナナシ、【製作グループ】が試作したベビーベッドがブッ飛んでて、ツッコミが追い付かない


『試作したベビーベッドについて報告が有ります。』


【多重思考さん】にそう言われて『工房』にやって来た。

俺は、ベビーベッドを脳裏に思い描きながら周囲を見回す。

だが、工房の中にそれらしい物は見当たらなかった。


おや?


不思議に思っている俺に、頭の中で【多重思考さん】が説明を始める。


『高さを調節できる様にしたベビーベッドの試作をしました。』


うん。そういうベビーベッドの試作をお願いしていたんだったよね。

ベビーベッドって腰をいためてしまいそうな微妙な高さだから、高さを調節できればメイドさんたちに喜ばれるだろうと思ってね。


『足を曲げる事により無段階で高さを変えようと思ったのですが、その状態を上手うま保持ほじする方法が思い浮かばずに難航しました。ですが、ゴーレムにする事で、それが可能になりました。』

「ん? ゴーレム? ベビーベッドを?」


これまで色々とゴーレムを作ってきたけど、ベッドみたいな家具をゴーレムにしようだなんて考えたことも無かったね。


『はい。ベビーベッドをゴーレムにしたことで、口頭こうとうで指示するだけで高さを調節できる様にもなりました。』


ほうほう。口頭こうとうで指示するだけで高さを調節できるのはメイドさんたちに喜ばれそうだね。


『ですが、せっかくゴーレムにしましたので歩かせることにしました。足が有って、関節も有るのですから。』

「お、おう……。」


そう言われて少しまどう。ベビーベッドを歩かせなければならない状況が思い浮かばなくて。

ベビーベッドを歩かせたい状況なんて、せいぜい、掃除そうじをする時に退かすくらいなんぢゃないのかな?

その様子を頭の中で想像している俺に【多重思考さん】が説明を続ける。


『ゴーレムについてはこれまでの経験の蓄積ちくせきが有りましたので、ベッドを水平にたもったまま静かに歩かせることは容易に実現出来ました。』

「お、おう……。」


赤ちゃんを寝かせたまま歩かせるつもりか?

そんな事をしなくちゃいけない場面なんて思い浮かばないんだけど。


『次に、階段をのぼりさせる実験を、ダーラムさんにダンジョン内に実験用の階段を作ってもらっておこないました。』

「ちょっと待って。」


さすがにめる。


「ベビーベッドで階段をのぼりさせる必要性なんて無いだろっ。どうして階段をのぼりさせようと思ったし。」


歩かせる必要性すらあまり無いのに、階段をのぼりさせる必要性なんて、もっと無いよね。


『そこに階段があるからです。キリッ。』

「カッコ良さげに言うなや! それに、『そこに階段があるからです。』って言うけど、さっき『作ってもらった。』って言ってたぢゃん! あと、わざわざ『キリッ。』とか言うな!」

『階段をのぼりさせている間もベッドを水平にたもつのに、大分だいぶ苦労しました。ふう。』

「その機能、必要か? それと、やり切ったみたいに『ふう。』とか言うな!」


そこまでして階段をのぼりさせる必要性なんて無いからなっ。それ以前の、ベビーベッドを歩かせる必要性すらもっ。


『で、その後なのですか……。』


ん? その後? まだ何かあんの?

そういえば、ここに、そのベビーベッドが無かったね。

何処どこかで何かの実験をしているのかな?

でも、何の?


『階段をのぼりさせる実験と改良を繰り返した結果、それはそれは素晴らしい完成度にいたりました。』

「お、おう……。」


取り敢えず、そう返事をする。この後に続く言葉にちょっと嫌な予感を感じながら。


『そうなれば、次にやるのは、もちろん『最高速チャレンジ』です。』

「何でだよ?! ベビーベッドの話をしていたんだよね? ベビーベッドの話をしていたんだよねっ?!」


即、ツッコミを入れる。

だが、【多重思考さん】は気にせず説明を続ける。


『隣の大陸に平坦な直線道路を作って『最高速チャレンジ』をしました。』

「いやいや、何で『最高速チャレンジ』が必要なの?! 必要無いだろ! ベビーベッドの話だよ?!」

『『最高速チャレンジ』の結果、新たな発見がありました。』

「もしもーし? 俺の話を聞いてー。」

『”足”では十分な速度が出せない。”足”ではなく”車輪”にすべきだ。と。』

「俺の話を聞けよ! それと、それって『ベビーベッド』か? 車輪を付けたら、それってもう『ベビーカー』になっちゃわないか?」

『ですが、”足”を”車輪”にした結果、推進力を生み出す物が別に必要になってしまいました。本当はジェットエンジンを作りたかったのですが、そんな物の作り方なんて知りませんでしたし燃料の問題もあります。なので、プロペラを付けることにしました。』

「ちょっとー、俺の話を聞いてー。」

『”足”を”車輪”にし、プロペラで推進力を得て走らせた結果、素晴らしい速度が出せました。これには【製作グループ】一同いちどう大喜びでした。』


あー、そうですかー。


そろそろ、ツッコむのも面倒になってきた。

どうみてもベビーベッドの話ぢゃなくなってきちゃってるしなっ。


『そして、その素晴らしい成果を見た我々は、ふと思ったのです。『これって、翼を付ければ飛べるよね。』と。』

「やっぱりそうなったか! 『ジェットエンジン』って言葉が出てきたところからそんな心配していたよっ!」

『ベッドの横に翼を取り付け、空気抵抗にしかならないさくを取り外して、早速さっそく、飛ばしてみました。』

さくを取り外すなや! 四方しほうを囲むさくってベビーベッドから排除してはいけない最重要部品なんぢゃないのか?! しかも取り外した理由が『空気抵抗にしかならない』って訳が分からないよ! それに、翼なんか付いていたら邪魔だろ! 最初のメイドさんたちへの配慮は何処どこ行ったんだよ?!」


面倒になってたけど、さすがにこれにはツッコまざるを得ないよなっ!


『それで、そのベビーベッドなのですが……。』


いまだにソレを『ベビーベッド』と言い張っている事に思うところが何も無い訳ぢゃないけど、それは今は、まぁいいや。

俺は【多重思考さん】に訊く。


「その『ベビーベッドとはすでがたい何か』は、その後どうなったの? 『飛ばしてみました。』とか聞こえた気がしないでもないんだけど?」


墜落して大破しちゃったのかな? ここに無いし。


『そのベビーベッドは、現在、行方不明です。』

「行方不明?」

『はい。』

「行方不明って、どうして?」

『滑走路からテイクオフして飛び去って行く姿を見て、『コレって、ベビーベッドじゃないよね?』と、ふと思ってしまって……。呆然としているうちに行方不明になってしまいました。』

「いやいや。『ベビーベッドじゃないよね?』ってさぁ……。それはテイクオフしちゃう前に気付こうよ。それまでにも何度かそう思う機会が有ったよね? ”足”をやめて”車輪”にした時とか、さくを取り外しちゃった時とかさ。それ以前の歩かせるところから既にベビーベッドには必要無い機能だったよね?」

『前向きな人の眼には前しか見えていないものなのです。ふっ。』

「カッコ良さげに言うなや! あと、『ふっ。』も!」


『そのベビーベッドは、今も何処どこかかの空を飛んでいると思います。はっはっはっ。』

「『はっはっはっ。』ぢゃねぇよ! 吹っ切れんてんぢゃねぇ!(キレ気味)」



俺は心を落ち着けると、頭の中でソイツが空を飛んでいる姿をイメージします。

本来ほんらい有ったパーツはベッド部分しか残っておらず、その左右には翼が、先端にはプロペラが、そして車輪を付けられて空を飛んでいる、その姿を。

説明を聞いて想像した姿はほとんど飛行機です。

ベビーベッドだったはずなのに、むしろ、ベビーベッドの要素を探す方が大変です。

どうして、こんな事になってしまったんだろう?(うつろな目)



『飛び去ってしまったベビーベッドは、見付けだいかくして【無限収納】にぞうしておきます。』


ぞうしておく分別ふんべつは有ったかー。

いや、分別ふんべつが有ったのではなく、当初の目的から大きく外れてしまった失敗作だけど、捨ててしまうのはもったいないからだな。

恐らく、この世界で最初の『飛行機っぽい何か』だろうし。

その正体が『ベビーベッド』なのが、いまだによく分からないけどなっ。

どうしてこうなった?!


だけど、本当に何でテイクオフしちゃったんだろうなぁ。

せめて、テイクオフしちゃう前に何とかしてほしかったよ。

マジでっ!



こうして、【製作グループ】が試作した『ベビーベッド初号機』は、おかしな暴走をした結果、変なところに着地したのでした。いや、まだ着地してないけど。飛びっぱなしだけど。はははは……。(乾いた笑い)


俺は、改めて頭の中で想像します。

いまだに何処どこかの空を飛んでいる『ベビーベッド』と言い張られているソイツの姿を。

最重要部品であるはずのさくは『空気抵抗にしかならない』というよく分からない理由で取り外され、左右には翼を、先端にはプロペラが取り付けられ、今も何処どこかの空を飛んでいる、飛行機にしか見えないその姿を。


……『ベビーベッド』って、何だったっけ?(ベビーベッド像が絶賛崩壊中)


訳が分からないねっ。



< 後日談 >


『飛んでいた『ベビーベッド初号機』を発見してかく。【無限収納】にぞうしました。……二号機と一緒に。(ぼそっ)』


見付けてかくできたか。

変なところに墜落してしまってさわぎにならなくてよかったね。(ホッ)

でも、最後に何か”ぼそっ”と言ってなかった?


『……二号機はちゃんとかくしましたよ。テイクオフ直後に。』


おい。


「何で二号機もテイクオフしちゃってんだよっ。何で二号機もテイクオフしちゃってんだよっ?! ポンポン飛ばすなや! ベビーベッドを!!」

『えーっと、いつの間にか? 気が付いた時にはテイクオフしちゃっていました。てへっ。』

「『てへっ。』ぢゃねーよ。おかしな暴走をしやがって!」


まったく。どうして二号機までテイクオフしちゃってるんだよ……。


だけど、注意したところで、どうせめられなんかしないんだろうなー。(遠い目)


だから俺は、『せめて、三号機が作られませんように。』と心の中で祈っておいたのでした。



【製作グループ】の暴走回。

今回、暴走したのはベビーベッドでした。

暴走どころか飛び去ってしまいましたがっ!

訳が分からないね!

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