03 生け捕り作戦 (冒険者レアード視点)
< ベテラン冒険者レアード視点 >
俺が冒険者を引退する事を決めてから10日ほど経った。
だが、俺はまだダンジョンに潜り続けている。
あの金色の牛の魔物の情報を売ったモウケル子爵からの依頼を受けて。
今回、俺が受けた依頼は、俺と酒場のマスターのハゲ頭に髪を生やしたあの金色の牛の魔物を、生きたまま捕まえて持ち帰ることだ。
ハゲを治す為に、わざわざ貴族様がダンジョンに入る訳などないのだからな。
それに、あの金色の牛を手元に置いておけば、大儲け出来ることは間違い無いのだ。
情報料を受け取った時はあまりの金額に驚いたのだが、あの金額くらいならすぐに取り戻せるのだろう。
◇ ◇
12階層までやって来た。
同行して来たモウケル子爵の私兵の内の20人ほどが、目的の金色の牛を探しに散らばって行く。
俺は本隊に同行し、この階層の真ん中辺りで発見の報せを待つことになっている。
本隊と一緒にのんびりと進む俺の隣では、私兵のリーダーがワクワクした表情をしている。
目的の金色の牛を捕まえるついでに、自分のハゲ頭で試してみたいのだろう。『雇い主であるモウケル子爵に効果を説明する為』という立派な口実も有るわけだしな。
この階層の真ん中辺りに到着した。
すると、すぐに私兵の一人がやって来て、「目的の金色の牛を発見しました。」と報告する。
焦る気持ちを抑えながら、金色の牛を探しに散らばって行った私兵たちがこの場所に集まってくるのを待った。
しばらく待っていると……。
「俺は、目的の魔物を足止めしに行ってくる!」
そんな事を言って、待つことに我慢できなくなったらしい私兵のリーダーが走って行ってしまった。
……まぁ、いいだろう。
他の私兵たちも苦笑いをしているだけだしな。
金色の牛を探しに散らばっていた私兵たちが全員集まり、目的の魔物を発見したという場所まで移動する。
その場所に着くと、私兵のリーダーが金色の牛に頭を差し出して舐められていた。
アレの効果を知らなければドン引きする光景だ。
ハゲた男が笑顔でハゲ頭を差し出して魔物に舐めさせているんだからな。
見ていたら、『悪い夢に出てきそうな光景だな。』なんて思った。
散々舐められて頭をねっちょりとさせたリーダーの指示で、金色の牛の足をロープで縛り、組み上げた荷車の上に横たわらせる。
金色の牛がほとんど無抵抗だったお陰で、難なく荷車に載せる事が出来てホッとする。
大人しい魔物だとは思っていたが、ここまで無抵抗だと少々不気味に感じる。
だが、後は地上まで運んで、モウケル子爵のお屋敷まで運ぶだけだ。
荷車に布を掛けて目立つ金色の牛を隠すと、俺たちは上機嫌で上の階層へ続く階段の方へ向かった。
◇ ◇
ダンジョンの中を上へ上へと移動し、いよいよ第一階層へ上がる階段が見えてきた。
金色の牛を載せた荷車を持ち上げて階段を登るのは重労働だったが、あれが最後の階段だと思えば笑顔も出てくる。
布が掛けられた荷車の積み荷に興味を示す冒険者たちを、俺が先頭に立って視線で威圧しながら最後の階段に向かって歩いて行く。
そんな時……。
「あれ?」、「何だ?」、「おかしいぞ?!」
後ろから、そんな戸惑った声が聞こえてきた。
俺は思わず立ち止まり、後ろを振り返った。
「牛が居ないぞ。」、「どうした? 何が起きた?」、「消えた。消えたんだ!」、「そんな馬鹿なことがあるか!」
そんな声を上げて、荷車の周りでオロオロする私兵たち。
その様子を見ていたら、荷車に掛けられていた布が取り払われた。
そこに、金色の牛の姿は無かった。
咄嗟に周囲を見渡す。
だが、あの金色の牛の姿は何処にも見えなかった。
おかしい。
足をロープで縛っていたのだし、そんなに遠くへ行けるはずがない。
そもそも、荷車には横たえた状態で載せていたのだ。立ち上がろうとした時点で、間違いなく気付いたはずだ。
おかしい。
何が起きた?
……まさか、本当に消えたのか?
俺は、やけに大人しく縛られて荷車に載せられていた、あの金色の牛の不気味さを思い出して……。
呆然とその場に立ち尽くしたのだった。
(設定)
(モウケル子爵)
元軍人。文官タイプで数字に強く、軍では財務関係の仕事をしていた。先代ククラス侯爵の側近の一人。ハゲ。
ククラス家とは親戚関係で、ダンジョンの在る街グシククに住む。
(グシククの街に住む貴族たちについて)
ダンジョンの在る街グシククは最前線の街でもあるので、普通の貴族はこの街に居着きません。この街に住んでいる貴族は、皆、ククラス家の親戚です。




