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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十九章 『金色の牛』編
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02 噂の始まり (冒険者レアード視点)


< ベテラン冒険者レアード視点 >


「……ハッ?!」


ガバッ!


目をました俺は、地面からあわてて体を起こす。

さやに剣が入っていない事に気付いた俺は、両手で地面をさぐって剣をさがしながら周囲に魔物が居ないか気配をさぐる。

地面をさぐる手から生き物が歩いている様な振動を感じ、それらしい気配がする方へ視線を向けた。

すると、金色きんいろをしたうしらしき魔物がとおざかって行くうし姿すがたが見えた。


近くに他に魔物は居ない様で、その事に俺はあんした。……剣は見付けられなかったが。

予備の短剣がちゃんと有ることを確認し、次に体の調子を確認する。

そして、気付いた。


頭がひんやりとしていることに。


ハゲ頭を手で触わってみると、ねっちょりとしていた。

あの金色きんいろをしたうしみたいな魔物にめられていたのだろう。


「くそう。めやがって。」


思わず口から出たそのセリフに、自分で笑い出しそうになった。



他の装備を調べて、無事であることを確認した。

だが、メインの武器を失ってしまったのだ。

サッサとダンジョンから出るしかあるまい。


俺は立ち上がり、体の調子を確かめながら上の階層へ続く階段に向かって歩き出した。



  ◇  ◇


『そろそろ引退すべきかもしれんな……。』


第一階層まで戻って来てホッとした俺は、そんな事を考えながら出口に向かって歩いて行く。


このとしまで冒険者としてやってこれた。

それなりに腕が立つと自負じふしていたのだが、たかだか12階層程度で意識を失って倒れていたなんてな。

しかも、どうして意識を失っていたのか、まるでおぼえていないし……。


こうして命があるだけでも幸運だった。


そう思ったら、これまでの冒険者人生で経験した色々な出来事が頭の中をよぎった。

それらの思い出の最後が、金色きんいろうしに頭をめられたことになってしまうことに、「ハハハ……。」と、乾いた笑いが出た。


だが、笑い話でこの生活を終われるのは悪い事ではないだろう。


そう考えた俺は、晴れやかな気持ちでダンジョンから出たのだった。



ダンジョンから帰って来た日の夜。

行き付けの酒場でマスターにげた。


「マスター、俺はもう冒険者を引退することにしたよ。」

「…………そうか。」


ん? 何だかマスターの反応が変だな?

マスターからは『そろそろ引退したらどうだ?』と何度も言われていたというのにな。


「……個室で話そう。」


個室で?

一体いったい、俺に何の話が有るって言うんだろう?

俺はただ、『冒険者を引退する』って話をしただけなんだけどな。


不思議に思ったが、俺はマスターのあとを追って個室に向かった。



「その頭はどうした?」


個室に入り、くたびれたソファーに腰を下ろすと、向かいの席から身を乗り出してくるマスターからそう訊かれた。初めて見るような真面目まじめな顔で。


ん? 頭?


俺は無意識に自分の頭をさわる。ハゲ仲間のマスターと同じ、自分のハゲ頭を。


ジョリ


へ?


いつもと違う感触にまどいつつ、俺は自分のハゲ頭をでる。


ジョリ ジョリ ジョリ ジョリ


へ? へ? へ? へ?


「なんだこれ?」


思わずマスターに訊いてしまう。


「こっちが訊いてんだよ。」


マスターからそう返事が返って来た。”あきれ”と”真剣さ”が混ざった様な声で。

そんなマスターは、俺の頭をジッと見詰みつめ続けていた。



「ダンジョンで何かあったのか?(ヒソヒソ)」


さらにズイッと身を乗り出してきたマスターからそう訊かれた。ささやく様な声で。


ダンジョンで?


マスターにそう訊かれた俺は、あの出来事を思い出した。

ダンジョンで見た金色きんいろをしたうしみたいな魔物に頭をめられたことを。


俺は、マスターにあの出来事を話した。

それ以外に思い当たるものなんて無かったからだ。



「冒険者は引退するんだな?」

「ああ。」

「それじゃあ、その情報は貴族に売れ。きっと高く買ってくれるぞ。いい退職金になる。俺が仲介ちゅうかいしてやろう。」


なるほど。

確かに、この情報はカネになりそうだ。


「その前に、もう一度くらいは確認しておいたほうがいいだろう。貴族サマを相手にするんだ。『間違いでした。』なんてことになったら大事おおごとだからな。(ソワソワ)」


マスターはそう言いながら、俺の頭をずっと見詰みつめ続けていた。ちょっと気持ちの悪い笑みを浮かべながら。



翌朝。

俺はマスターにかされながら、二人でダンジョンに入った。


昨日、『冒険者を引退する。』って決めたばかりだったのにな。



(設定)

(レアードは何でダンジョンの中で倒れていたの?)

レアードが気を失っていたことやその理由をおぼえていなかったこと、メインの武器を無くしていたことや、頭を金色きんいろうしに舐められていたことも、すべてダンジョンマスターのダーラムさんがしたことです。

その目的は、金色きんいろうしうわさを広めてもらい、ダンジョンに人を呼び込む為です。


(ダンジョンの上の階層へ行く階段についての補足)

ボス部屋のある階層から下の階層へ行く際は、ボス部屋にある魔法陣から【転送】で行きます。

その逆は、登り専用の階段があって、それを利用して行きます。

11階層からボス部屋のある10階層へ階段で登って行くと、10階層にランダムで出口が現れます。その出口からは入ることは出来ず、ボス部屋をけて下の階層へ行くことは出来なくなっています。


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