01 ナナシ、王妃様に訊かれる
「ヅラが……。いえ、先王さまが『ダンジョンに行く!』とか言って飛び出して行ってしまったのだけれど、ナナシさんは何か知っているかしら?」
俺の部屋にシルフィと一緒にやって来た王妃様から、そんな事を訊かれた。
でも、王妃様。『ヅラが』ってハッキリと言っちゃうのはやめてあげてください。確かに頭髪が不自然なお方でしたけどさっ。
それはそれとして。
王妃様には何て答えたものかな?
俺は、いつもの様に俺の腕に抱き着いているシルフィの頭をナデナデしながら、以前、ダーラムさんから相談された時のことを思い出すのだった。
◇ ◇
「ダンジョンにもっと人を呼び込みたいのですが、何か良い方法はありませんか?」
ある日、俺はダンジョンマスターのダーラムさんからそんな相談を受けた。
ん? ダンジョンにもっと人を呼び込みたい?
何で?
ダンジョンには、以前よりも多くの人が来ていたはずだったよね?
以前、ダンジョンの在る街の領主から頼まれて、ダンジョンの第一階層に水場を作った。
その結果、水を汲みにダンジョンに人が出入りする様になっただけでなく、水場を守る為に兵士が常駐する様にもなった。
また、その兵士たちが安全確保の為に第一階層で魔物の討伐を行った為、これまで第一階層で低レベルの魔物の討伐をして魔石を得ていた冒険者たちは、皆、第二階層へ行くようになって彼らがダンジョンに滞在する時間も増えた。
その他にも、ミスリルゴーレムや【マジックバッグ】を狙ってダンジョンに入る冒険者も増えていたはずだ。
ダーラムさんがダンジョンにもっと人を呼び込みたがる理由が分からないよね。
そんな事を考えていた俺にダーラムさんが説明する。
「うっかりガイ〇ンを沢山作り過ぎてしまって、魔物や【マジックバッグ】を作る余裕が無くなってしまったんです。」
これまでの人生の中で一番聞きたくないセリフを聞かされた気がした。(クラッ)
き、きっと、俺の聞き間違いだな。そうに違いない!
うん。
俺は、不都合な真実から全力で目を逸らし、パッと適当に考えた『ダンジョンに人を呼び込む方法』をダーラムさんに伝えると、サッサと自分の部屋に逃げ帰ったのだった。
◇ ◇
……余計な事まで思い出してしまったな。
せっかく、キレイサッパリ忘れていたのに。
しかも、絶対に知られてはいけないお方が目の前に居らっしゃるしなっ。
俺が内心でオロオロしていると、シルフィが俺の顔を見上げながら訊いてくる。
「ナナシさんは、お爺様が『ダンジョンに行く!』って言って飛び出して行ってしまった理由を何かご存知ですか?」
きっと、俺がパッと適当に考えてダーラムさんに伝えた”アレ”の噂が耳に入ったんだろうなぁ。
頭髪が不自然なお方だったし、”アレ”の噂が耳に入ればきっと関心を持っただろう。
「ご友人たちや身の回りのお世話をする方たち。それと護衛の方たちの総勢100名ほどでダンジョンの在る街に向かったそうなんです。」
えらい大所帯だなっ。
まぁ、それなりの地位の人がダンジョンに行くとなれば、そんな感じになるか。『ご友人』とやらも爵位持ちだったりしそうだしね。
それと、身の回りのお世話をする人たちの様な非戦闘員も連れて行こうとすれば、彼らを守る為に護衛がさらに必要になるし、その分、水や食料も増えてしまい、さらにそれを運ぶ人も……、って、必要な人がどんどん増えていってしまいそうだ。
大所帯になってしまうのも当然なんだろう。
『そこまでして行くのも、どうなんですかね?』って、俺は思うんだけどね。(呆れ)
俺が呆れていると、王妃様が怒った声で言う。
「あのヅラ、最初はメイドたちも連れて行く気だったのよ! 毟り尽くしてやろうと思って部屋に行ったら逃げられたわ!」
王妃様から逃げ切ったのか。何気にスゴくね? 先王様。それとも、王妃様が怒りオーラ全開で向かったお陰で察知する事が出来て逃げ切れたのかな?
きっと後者だな。小動物の様に慌てて逃げ出す姿が目に浮かぶようだ。
でも、王妃様。『ヅラ』呼ばわりするのはやめてあげてくださいね。それと、毟り尽くしてやるのも。
大問題になりそうなんでっ。
俺は二人に説明しました。
ダンジョンに新たに現れる様になった『金色の牛』。
その特別な魔物がもたらす特殊な効果と、先王様がダンジョンに行きたがった、その理由をね。
(設定)
(ダーラムさんが作ったガイ〇ンについて)
ダンジョン内に水場を作る際に王妃様が描いた水場の絵。そこに一緒に描かれていたガイ〇ンの絵と【多重思考さん】からの情報提供によりダーラムさんが試しに作った、全長2.5mほどのアイアンゴーレムです。
腹部の回転ノコギリの仕組みや、無駄に長い尻尾による機動力の著しい低下の対策などで試作が多くなってしまいました。未だに未完成。ちょっと飽きてきたようで、納得できるレベルで完成する見込みは立っていません。でっかいフィギュア扱いになってしまうかも。カラーバリエーションを増やして。
とても深い階層に居るので冒険者と遭遇する恐れは無く、その存在が王妃様の耳に入ることはありません。
(更新間隔について)
この章は、更新間隔を3日おき(3の倍数日の更新)にします。
それでいけそうな気がするので。(ただの慢心の恐れあり)
度々変更して申し訳ありません。




