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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十八章 のんびりしよう(できるとは言っていない)編
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07 目覚まし時計作りと、ナナシの携帯端末02end


目覚めざまし時計作りが難航している間。俺の携帯端末が進化し続けています。明後日あさっての方向に。(遠い目)


【多重思考さん】が与えたものを元気に振り回す、手足がえた俺の携帯端末(=携帯電話型ゴーレム)。ソイツに対してケイトがダメ出しをして、何処いずこかに持ち去って行く。

そして、戻って来た時には、俺の携帯端末はものの振り回し方がすごくさまになっている。

そんな事が、ここしばらく隔日かくじつで続いていました。


今日の護衛はケイトではなくクーリなので、俺の携帯端末の”謎進化(笑)”はお休みです。

でも、テーブルの上でトンファーを元気に振り回している携帯端末にクーリが今にも飛び掛かりそうな気配を出しているので、変に緊張してしまいます。

ネコかな?



そんな風に変に緊張しながら過ごしていたら、【多重思考さん】から報告が。


『『テンプ』を使った時計の試作機と、その他の色々な物が出来上がりました。』


おお。出来たか。

そこそこの日数が掛かったけど、『テンプ』の試作まであったことを考えると意外と早かったのかな?


早速さっそく、見せてもらうことにして、トンファーを元気に振り回している携帯電話型ゴーレムをテーブルの端に寄せました。



テーブルの上に出された物は、全部で三つ。

そういえば、『時計の試作機』の他にも、『色々な物が出来上がりました。』とか言っていたね。


それらを一つずつ見ていく。


ず、時計の試作機。

前に見させてもらったのと同じ物らしく、一辺いっぺんが40cmくらいの箱型のモノで、正面いっぱいに文字盤がある。


『これの中身には、今回(あら)たに試作した『テンプ』を使っています。ご覧の通りイイ感じに動いています。』


ああ。これで稼働中なのか。秒針が無いから分からなかったよ。


顔を近付けて”長い方の針(分針)”をジッと見る。すると、ゆっくりと動いているのが確認できた。それと、カチッ、カチッていう音も。

『テンプ』を使うことでちゃんとした時計が出来上がったようです。

前の、スゴイ勢いで針がブン回っていたモノを思い出すと、すごい進歩を感じます。うむうむ。(←満足げ)


『この試作機をもとに、この国の職人たちにさらに改良してもらって目覚めざまし時計も作ってもらいましょう。』


ん? どうしてそんな話に?

王妃様の『目覚めざまし時計を作って』っていう依頼は?


『この試作機をもとに、この国の職人さんたちに試行錯誤してもらいながら時計を作ってもらったほうがこの国の為になります。この機会にとくした技術は時計作り以外にも活用できるはずですので、きっと、この時計作りを切っ掛けに、この国を『モノ作り大国』にすることが出来るでしょう。それに、歯車の”歯”の形状なんて、多くの職人さんたちにきそわせて試行錯誤させないと、いつまでっても良い物になってくれませんしね。そんな風に説得すれば、王妃様も納得してくれるはずです。』


ふむ。


『それに、”歯”の形状に満足できないまま、そんな歯車を沢山たくさん作らないといけない今の作業には、もうきしているんです。目覚めざまし時計はまだ作れていませんが、もう、この国の職人さんたちに丸投げしてしまいましょう。』


それが本音か。

そんな事を言うなんて、よっぽど面倒でイヤな作業だったんだね。時計って沢山たくさんの歯車を使いそうだしね。

時計の場合は負荷が小さいから”歯”の形状が多少(ざつ)でも大丈夫だろう。だけど、大きな負荷が掛かる歯車の場合はキッチリとした形状が求められるはずだ。

この時計作りの機会にこの国の職人さんたちに歯車を作る経験を積んでもらえば、やがて良い物が出来上がって、この国の将来に役立つことだろう。


『この試作機も、まだ十分にテストをおこなえていませんが、きっと職人さんたちが改良して良い物に仕上げてくれるでしょう。』


【多重思考さん】は、もうすっかり、この国の職人さんたちに丸投げする気でいるみたいです。(苦笑)



まぁいいや。次の物を見よう。

二つ目の物は、手の平サイズの四角い箱で、その上には小さなかねの様な物が吊り下げられている。それと、箱の側面からは斜め上に棒の様な物が突き出ている。

これは何だろう?


『これは、目覚めざまし時計の”ベルを鳴らす部分のみ”の試作機です。側面のレバーをげることでバネを伸ばしてセット。時間になったら、時計のほうからなんらかの機構でバネをめているツメを外してもらってバネの力を解放。その力でベルの内側にあるハンマーを左右に動かしてベルを叩きます。』


ふむふむ。


『本当は、この機構に使う動力も時計のゼンマイから引っ張ってきたかったのですが、前の時計の試作機がアレでしたのでその検討を進める事が出来ませんでした。あと、ベルが鳴っているのを途中でめる事もしたかったのですが、それの検討も進める事が出来ませんでした。職人さんたちに期待しましょう。』


もうすっかり、この国の職人さんたちに(以下略)



最後の一つ。

それは、見た目が、まんま前の世界の時計そのもののように見えた。

四角い台座に砲弾型の本体が少し斜めに取り付けられていて、やや上を向いた平面部分に文字盤がある。お店に普通に時計として売られていそうなデザインです。


『これって、何? 時計にしか見えないんだけど?』

『これは『12時間計』です。時計を作る職人さんたちに貸し出す為の物です。正確な時間が分かりませんと時計が作れませんので。』


確かに、正確な時間が分からないと時計は作れないよね。

それは分かるんだけど……。


『時計って、コレぢゃダメなの?』


この、時計にしか見えない『12時間計』を見て、そんな”当然の疑問”が湧き上がります。


『これはゴーレムなんです。ゴーレムだと作れる人が限られてしまいますのでダメですね。』


そうか。

でも、ここまで頑張って時計を作ってもらってきておいて何だけど、ゴーレムで時計を作ってしまった方がはるかに楽な気がしてきたね。すっごく今更いまさらな話だけど。(苦笑)


目覚めざまし時計は個人で使う物です。ですので、ゴーレムで作ってしまうとモノスゴイ数の製作依頼が本体ほんたいさん(=ナナシのこと)のところに殺到することになってしまうでしょう。』


そうだね。ゴーレムで作ってしまうと大変なことになるね。

よし。これは『12時間計』だ。時計を作る職人さんたちに貸し出す為の。

決して時計ではないのです。うん。

時計ぢゃない。時計ぢゃない。時計ぢゃない……。



モノは揃ったっぽい。

でも、コレぢゃあ『目覚めざまし時計を作って』っていう王妃様の依頼通りぢゃないんだよなー。

さっき【多重思考さん】に言われた、『この国の職人さんたちに作らせたほうがこの国の為になる』っていう話で、職人さんたちに丸投げすることに王妃様が納得してくれればいいんだけど……。


『では、王妃様を説得する材料を、もう一つ。』


ん?


『イグサっぽい草を見付けました。』


一瞬、何の話をされたのか分からなかった。まったく別の話だったし。


そんな俺を無視して【多重思考さん】が話を続ける。


『現在、”イグサ(仮)”の処理方法を実験中です。おそらくでたりしたりするものだと思うのですが、その実験をしています。また、歯車作りにきしていた【製作グループ】の多くが畳表たたみおもての試作に取り掛かってしまったので目覚めざまし時計作りを継続することが難しくなってしまいました。ですが、王妃様なら目覚めざまし時計よりもたたみほうを優先させると思います。』


確かに、王妃様ならたたみほうを優先させそうだね。

そしてポロリと明かされた、さらなる裏事情……。


うん。目覚めざまし時計はこの国の職人さんたちに丸投げだなっ。

俺も、早く”真・たたみ”の上でゴロゴロしたいしねっ。


俺は、ケイティさんに王妃様への伝言を頼むと、【多重思考さん】から”イグサ(仮)”について話を聞きながら、王妃様が来てくれるのを待ったのでした。



一時間ほどで王妃様が部屋に来てくれました。

王妃様に、テーブルの上に並べた物を説明しました。もちろん、この国の職人さんたちに時計を作らせる事がこの国の為になる事もね。


俺の説明を聞いた王妃様が『12時間計』を指差しながら俺に訊きます。


「時計って、コレじゃダメなの?」


当然の疑問ですよねー。俺もそう思ったし。


「コレ、ゴーレムなんですよ。他の人でも作れればいいんですけどぶん無理なんで。それに、魔術師でなくても作れる物にして時計職人を育てれば、いずれこの国を『モノ作り大国』にすることが出来ると思いますし。」


王妃様は「うーん。」とうなっていらっしゃいます。

やはり満足してくれていらっしゃらいないご様子。王妃様の依頼は『目覚めざまし時計を作って』だったんだから当然だよね。


俺は、”切り札”を切ります。


「イグサっぽい草が見付かったのでちゃんとしたたたみを作りたいんですが、手がかないんですよねー。(チラッ、チラッ)」

目覚めざまし時計は職人たちに作らせましょう。いい機会だし、この国の為にもそのほうがいいわよね。」


よし! これで丸投げ出来たぞ。これで俺はたたみほうに集中できる。

後は頼んだ。俺の見知らぬ職人さんたちよ!


「それはそれとして。ゴーレムでいいから、私が知っている様な目覚めざまし時計を作ってね。」


ちっ。すべてを丸投げすることは出来なかったか。

まぁ、そうなる気も少しはしていたんだけどね。うん。


目覚めざまし時計作りは、もうちょっとだけ続くことになりました。



試作品を入れた【マジックバッグ】を王妃様におわたしして見送った後、ソファーに座って考える。

そもそも、どうして最初から時計をゴーレムで作ることを考えていなかったんだっけ? 『依頼が殺到するから』なんて理由はまるで考えてなかったよな?

……そうか。『時計なんてゼンマイと歯車で簡単に出来る』と思い込んでいたからか。

何だか、すっごく遠回りをしてしまった気がするね。そのあげ、最後は丸投げだしな。

でも、時計作りを職人さんたちに丸投げできたのはイイ事だよね。

もちろん、俺がらくできるからとかぢゃなくて、『この国の為に』デスヨ?(←ダウト)



夕方。

王妃様におわたしする、”目覚めざまし時計型ゴーレム”が出来上がってきた。

黒っぽい横長よこなが筐体きょうたいに金色をした金属の足が四本()えていて、ちょっと高級感を感じるデザインです。

文字盤が左に寄っていて、それによってけられた空間にベルがおさめられているので、外観がとてもシンプルになっています。


『やっぱりゴーレムで作ると楽ですねー。』


【多重思考さん】が満足げな様子でそう言います。

この”目覚めざまし時計型ゴーレム”の出来できに【多重思考さん】も満足しているみたいです。



早速さっそく、王妃様のところへ持って行っておわたししました。

王妃様も満足してくれた様です。

俺も一仕事を終えて満足です。

うむうむ。



翌日の朝。

俺の部屋に王妃様がやって来ました。昨日おわたした目覚めざまし時計を持って。


「ナナシさん。この目覚めざまし時計、鳴っているベルをめようとすると歩いて逃げるんだけど……。」


『【多重思考さん】! どうして歩くようにした?!』

『ゴーレムですからねー。歩いて当然じゃないですか。(しれっ)』


頭の中で問い詰めたら、【多重思考さん】にそう返された。

くそう。『しれっ』と答えやがって。


仕方なく、俺が王妃様に釈明しゃくめいします。


「ゴ、ゴーレムですからねー。歩くこともあるんぢゃないでしょうか? それに逃げた方が二度寝防止になっていいんぢゃないですかね?(しどろもどろ)」

「歩かないようにしてね。(ニッコリ)」

「……はい。」


手直しが必要になりました。


目覚めざまし時計は歩くというのに、どうして、いつまでってもガイ〇ンが出来上がって来ないのかしら? ふぅ。」


そんな事を言い出す王妃様。

くそう。目覚めざまし時計が歩いた所為せいで、余計なところに飛び火がっ。

でも、俺、『作る。』だなんて一言ひとことも言ってないですからね? 王妃様?


俺は、王妃様をなだめます。正論で。


なにかの役に立つ訳でも無い巨大な物を作るのは、国民の理解が得られませんよ?」

「そんな正論なんて聞きたくないわ。」


いや、聞けよ! 王妃っ!


「仕方がないわね。それじゃあ、国民に変な心配をさせない為にナナシさんの領地で作っていいわ。(ニッコリ)」


『作っていいわ。』ぢゃねぇよ。

それと、『これは名案ね!』みたいな顔をすんな。


「ダメですよ。ただでさえ一度も領地に行った事が無い”名ばかりの領主”だというのに。それなのに姿を現したとたんに、いきなりでっかいガイ〇ンをこさえてみなさい。『ここの領主は何をしているんだ?』って、領民を不安にさせてしまうぢゃないですか。」

「国の為には必要な犠牲よ。(キッパリ)」


んな訳あるかーい!

何が『国の為には必要な犠牲よ。』だよっ。王妃様の個人的な趣味100%だろうが!


怒鳴どなりたい気持ちをおさえながら、俺はつとめて冷静に言う。


「それにですね。そんな事をして『領民を不安にさせた領主』は『王女様の夫』ですからね? 結局、この国の将来の心配をさせてしまうことになるんですから、やっぱりダメですよ。」


王妃様は、『ぐぬぬぬぬ』って表情になりました。

いい加減、あきらめてくださいね。


俺は、王妃様を部屋から追い出します。


『ダンジョンの中で作ればいいわよね!』とか、おかしな事を言い出し始める前になっ。



王妃様を部屋から追い出して、ソファーに戻った。

腰をろした俺の目の前のテーブルの上。そこには、ガン〇ムハンマーみたいな物を元気に振り回す携帯電話型ゴーレムの姿が。


『……【多重思考さん】、俺の携帯端末に変なものを与えるのはやめてくれないかな?』

『釣りが楽しいので無理です。』


釣り?

おかしな返答が【多重思考さん】から返って来たので、俺は首をかしげます。


「振り回し方が全然なってないねー。」

『フィーーッシュ!!』


ここ数日の間に何度も聞いていたケイトのセリフが聞こえてきた。それと同時に【多重思考さん】の嬉しそうな声も。

『釣り』って、コレかっ。


そして、【多重思考さん】に釣り上げられたケイトはそんな事に気付くこともなく、今日も携帯電話型ゴーレムを持ち去って行くのでした。



昼前にケイトが帰って来た。


「王妃様の声でコレに怒られたー。」


またかよ。


そして、俺が携帯端末を持っていないタイミングで電話を掛けてきちゃう王妃様。きっと、すれ違いが俺たちの運命さだめなのだろう。

ガイ〇ンの催促さいそくも、ぜひ、そんな感じでお願いします。



その日の夕方。

テーブルの上には、ガン〇ムハンマーを上手じょうずに使いこなしている携帯電話型ゴーレムの姿がありました。


えーーっと。

スゲェ?

で反応に困ってしまいます。


コイツがこうなったってことは、ガン〇ムハンマ(コレ)ーを使えるメイドさんがこの王宮に居たってことなのかな? そんな訳ないよね?

そう思いつつも、『この王宮にならガン〇ムハンマーを使いこなすメイドさんが居てもおかしくないな。』とか考えてしまう、不思議。

いや、全然”不思議”ぢゃないなっ。


またまた、ここのメイドさんたちの”普通でない一面”を見せ付けられてしまったのでした。


本当に、油断ならねぇなっ。



(設定)

(ケイトがナナシの携帯端末を持っている時の操作について)

着信 → 端末が何も考えずに自身の腕で『応答』ボタンをポチっとな → ナナシの携帯端末をケイトが持ち歩いていることを王妃様に怒られる と、なっています。ケイトは携帯端末の操作を教わっていませんので使い方を知りません。

ケイトは『糸無し糸電話』の実験に参加していましたが、この小さなゴーレムが携帯電話であることを知らなかったので、「王妃様の声でコレに怒られたー。」というセリフになりました。


(次回の更新と更新間隔について)

次回の更新は1/25の予定です。

更新間隔は5日おき(5の倍数日の更新)にします。


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