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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十八章 のんびりしよう(できるとは言っていない)編
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06 目覚まし時計作りと、ナナシの携帯端末01

(人名)

ケイト

ナナシの護衛の一人。最強格の一人。『鉄壁』のふた持ち。クーリと一日交代でナナシの護衛にいている。ナナシの護衛として部屋に居る時間は、ほとんど大きなペンギン型ゴーレムに抱き着いてモフモフに顔をうずめている。


携帯電話を王妃様に引き渡した翌日の午後。


俺は、ふくのミリィさんに作ってもらったホルスターを身に着けて、ご満悦まんえつです。

イイよねっ。こういうのっ。

男の子だからテンションが上がってしまいます。(ニヤニヤ)


追加で付けてもらったポケット。そこから取り出すフリをしながら【無限収納】からお金を取り出す動きをシミュレーションします。

手がスルリとはいりする感じで、とてもいい感じです。

こうしたちょっとした事でも、この王宮のふくの技術力の高さをひしひしと感じます。うむうむ。(大満足)


次に、携帯端末をホルスターに収納しようと、テーブルの上に視線を向ける。

テーブルの上では……。


【多重思考さん】が用意してくれた”手足がえた携帯電話型ゴーレム”が、元気に薙刀なぎなたを振り回しています。


『……【多重思考さん】? 何で試作1号機(コレ)なの? 普通の端末でよかったんだけど?』

『普通の端末では何も面白くありませんので。』

『いやいや。そもそも面白くする必要自体が無いからね?』


王妃様に持つように言われたから持つだけだし。


『いえいえ。面白さは最優先ですよ。本体ほんたいさん(=ナナシのこと)はそういう運命さだめなのです。』

『勝手に決め付けんなや。いらねぇよ、そんな運命さだめ!』

運命さだめじゃ。』

『やかましいわ!』


変な声で変な事を言った【多重思考さん】を、一言ひとことで切り捨てました。



改めてテーブルの上の”ソレ”に視線を向ける。

手足がえた携帯電話型ゴーレムが元気に薙刀なぎなたを振り回しています。

コレを身に着けたくはないよなぁ。コイツ、絶対にわきのところでモゾモゾするだろ。

その様子を想像してゲンナリしてしまいます。


薙刀なぎなたの振り方が全然なってないねー。」


俺がそんな事を考えていたら、いつの間にかテーブルの横にしゃがみ込んでいたケイトがテーブルの上のソイツを見ながらダメ出しをします。

でも、『薙刀なぎなたの振り方が全然なってない』ってダメ出しをされる携帯端末って、一体いったい、何なんだろうか?(遠い目)


「実際に振っているところを見せた方がいいよねー。」


ケイトはそう言うと、携帯電話型ゴーレムを手に持って何処どこかに行ってしまった。俺が遠い目をしている間に。


えーーっと。


まぁ、いいか。

王妃様から持つように言われてるけど、今日は出掛ける予定は無いから持っていなくても大丈夫だろう。


そういえば、ケイトの声を久しぶりに聞いた気がするな。

ここしばらくは、でっかいペンギン型ゴーレムに抱き着いている後ろ姿しか見ていなかったからなぁ。


チラリと、壁際かべぎわちんしているでっかいペンギン型ゴーレムに目を向ける。

なかあたりが少しへこんでいる様に見えるのは、あそこがいつもケイトが顔をうずめていた場所だからなのだろう。

『護衛とは?』とか考えてしまうけど、ケイトについては今更いまさらだろう。


俺は色々とあきらめて、今日予定していた『目覚めざまし時計』作りに意識を切り替えることにしました。



さて。

目覚めざまし時計』作りについて最初にする事は、【多重思考さん】に進捗しんちょく状況を訊くことだ。


『そこんとこ、どうなのー?』(←あいわらず訊き方がざつです)

『かなり難航しています。時計なんて簡単に作れると思っていたのですが、作り始めてみたら意外と分からないことだらけでした。』


あれ? そうなの?

時計なんて、ゼンマイと歯車を組み合わせて針を回転させれば出来上がるものだと思ってたんだけど?


『【製作グループ】もそう考えていたのですが、そうやって作った試作機には大笑いさせられました。体があったら腹をかかえてころまわっていたと思います。』

『そんなにか?』

『はい。思わず、腹をかかえてころまわるだけのゴーレムを作って、ころまわらせてしまいました。』

『わざわざ、そんなおかしなゴーレムを作ってんぢゃねぇよ。』


使つかみちがピンポイントすぎて、他に使つかみちぇだろうが!


そんなツッコミを入れつつ、取り敢えず、その試作機とやらを見せてもらうことにします。



テーブルの上に、一辺いっぺんが40cmくらいの箱型の物が置かれた。

その正面いっぱいに文字盤があって、その中心からしん分針ふんしんらしき長さが異なる二本の針が伸びている。


『では、動かします。見ててください。』

『おう。』


ビュオウッ! ブゥーーン!


そんな音を立てて二本の針が回った。スゴイ勢いで。

何これ?


ゥゥーーン


そして、10秒もたずに、ブンまわっていた針が止まった。


えーーっと。

何これ?(さっきぶり二回目)


『ゼンマイを動力に、歯車をかいしてしん分針ふんしんを回しています。』


うん。確かに回っていたね。

スゴイ勢いでブン回って、あっと言う間にゼンマイの動力を使い切っちゃったみたいだったけど。

想像以上にダメダメだったけど、どうして、こんな風になっちゃったのかな?


運命さだめじゃ。』

『や、め、ろ!』


そのセリフをこのタイミングで使うんぢゃねぇよ! マジでやめて。


『で。どうしてこんなことに?』


改めて【多重思考さん】に訊いた。


『どうやら、ただゼンマイの動力を使って歯車を回すだけではダメで、ゼンマイの動力を断続的に歯車に伝える仕組みが必要なんだと思います。』


そうなのか。

そうなると、かなり基本的なところから時計の構造を分かっていなかったことになっちゃうね。


『ゼンマイの動力を断続的に歯車に伝える仕組みを考えて、””を使うことを思い付きました。』


ほう。か……。


【多重思考さん】にそう言われて、俺は、田舎の家にあった大きな振り子時計を思い出す。

大きな振り子時計の、ゆうーっくりと左右に振れていた大きな。その様子を思い出しながら、俺は、振り子の動きを動力にして針を動かしているのだとばかり思っていたが、『あれはゼンマイの動力を断続的につなぐ為のものだったのかもしれない』と考えを改めた。その大きな振り子時計もゼンマイを巻いていたしね。


なるほどね。振り子時計ってそういう仕組みだったのか。

きっと時計特有の『カチッ、カチッ』っていう音も、動力を断続的につないだ時に発生する音だったのだろう。


時計なんて、ゼンマイと歯車だけで簡単に作れるものだと思い込んでいたけど、実際には知らない事が多かったんだね。

それなら難航しちゃうのも当然だよね。


俺が、そう色々と納得したところで、【多重思考さん】が話を続ける。


『そんな理由で想像以上に難航しています。それと、そもそも目覚めざまし時計に振り子が使えるとも思えませんので、何か振り子に代わる物も考えなければなりません。』


そうだね。目覚めざまし時計は、鳴っている音をめる時に手でさわるんだから振り子を使うのはダメだよね。

『振り子時計』は何となく作れそうな気がしたけど、『目覚めざまし時計』ってどうやって作ったらいいんだろう?

思っていた以上に難問だったね。


前の世界の目覚めざまし時計ってどういう仕組みになっていたんだろう?

動力は電池とモーターだ。『クォーツ』ってのは『水晶振動子』と言って、それはただタイミングをはかる為の物だったはず。

針を動かす動力を断続的につな切ったりしていた部品って、何だったんだろう?

あれれ? 分からないや。


あ。そういえば『テンプ』っていう部品があったな。柔らかいゼンマイみたいなのが。

きっと、あれがの代わりをしていたんだろう。


そう考えた俺は、『テンプ』の試作と、それを使った時計の試作を【製作グループ】にお願いすることにしました。


よろしく。(←あいわらす丸投げがざつです)



夕方。

ソファーに座って目覚めざまし時計についてあれこれ考えていたら、ケイトが帰って来た。

そのケイトが携帯電話型ゴーレムを片手に、俺に訊く。


「王妃様の声でコレに怒られたんだけど、コレってなにー?」


『コレってなにー?』ぢゃねぇよ。

何なのか分からない物を持って行くなよなっ。


俺は、無言でケイトの手から携帯電話型ゴーレムを奪い取ると、テーブルの上に置きます。

テーブルの上に置かれた携帯電話型ゴーレムは、早速さっそく薙刀なぎなたを元気よく振り回し始めました。


……コイツも、マジでどうしようかな?

今日は考えることが沢山たくさんあって、うんざりするね。


「動きが良くなったでしょー。」


ケイトがそう言う。ちょっと嬉しそうな声で。

でも、ソレさぁ、携帯電話なんだ。

薙刀なぎなたを振り回す必要なんてじんも無いし、動きが良くなったからと言って、『だから何?』としか言いようがないんだよなぁ。


俺は疲れた目で、薙刀なぎなたを元気よく振り回している携帯電話型ゴーレムをぼんやりと眺めます。


確かに動きが良くなった様な気がして、何故なぜだかちょっとだけイラッとしました。



(設定)

(時計の構造について)

文中で出ている時計の構造は、あくまでもナナシの認識で、実際の時計とは異なっている部分があると思います。

ちなみに、実際の目覚まし時計にはステップモーターが使われているみたいです。安価なわけです。


(携帯電話の端末の製作状況(『糸無し糸電話』以降))

試作零号機(失敗作)

マイクとスピーカーをはぶいて【ゲート】だけで声を伝えようとした試作機。音(=空気の振動)が【ゲート】では送れないことが判明して失敗。廃棄されて素材に。

試作1号機

沢山たくさんの小さな木のブロックを素材としたゴーレムとして製作された。完成品だが、手足が有ることをナナシに問題視されておくらり。『これを王妃様に見せたらガイ〇ンな端末を作らされんぞ。』と。『0774』の電話番号を与えられて、ナナシ用携帯端末として使用開始。尚、手足は本体と一体化させることも可能。

試作2号機

試作1号機から手足をやす機能をのぞいたもの。以前、完成品として王妃様に披露したのはこの端末。製品版と機能は同じだが色が地味。予備機として【無限収納】の中に仕舞しまわれているのだがナナシは忘れてしまっている模様。

製品版

30台だけ製作を依頼されて王妃様に引き渡された。『0000』~『0029』までの電話番号が与えられている。色の違う沢山たくさんの小さな木のブロックをランダムに組み合わせて製作されていて、端末ごとに模様が異なっている。『0010』~『0029』の端末はこの後メイド長に引き渡されることになっている。


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