14end 外伝 王宮騎士隊の誕生と、あるメイドの失敗
王宮騎士団が解体された。
それに伴って、これまで王宮騎士団が担っていた仕事を受け持つ新たな組織『王宮騎士隊』が王宮に作られた。
『王宮騎士隊』では、これまで王宮騎士団の装備が長剣一辺倒だった点が改められ、小剣術や双剣術、さらには格闘術に秀でた者たちが多く配属されることになった。
また、女性隊員のみで構成される部隊も新たに作られたのだった。
< 王宮騎士隊の、ある女性隊員の話 >
「おはよう。出戻り隊員。(にまにま)」
「『出戻り』ゆーなー! うがー!」
部隊長の失礼な挨拶に私は言い返します。
今朝も。
『出戻り』だなんて、まるで離婚されて実家に返されたみたいじゃないですかっ。私は離婚された訳ではないのにっ。
本当に失礼な部隊長です。
がるるるるー。
私と夫との出会いは、私が王宮のメイドをしていた時のことでした。
当時の私は、ダンジョンの在る街グシククで情報収集の仕事をしていました。作戦部の下っ端として。
その仕事中に起きた、領軍による盗賊討伐の失敗と再討伐。そして凱旋。
その時、私たちは、領軍が盗賊を生け捕りにして街に移送していた事を知ったのでした。
それは、いつもの盗賊討伐では有り得ない行動でした。
さらに調べてみると、領軍の兵士たちが、生け捕りにした盗賊たちから体術を習っている事が分かりました。
遠くからその様子を観察すると、ちょっと面白そうな体術でした。
私は、上司の許可を得て領軍の兵士の一人に接近し、さらに情報収集をすることにしたのでした。
私が接近した男の名はディレック。グシククで生まれ育った領軍の兵士でした。
剣も槍もそれほど上手くはないそうで、盗賊の討伐で返り討ちに遭ってしまい、その際に盗賊たちが使っていた体術に興味を持ったのだそうです。
そして、盗賊たちが使うその体術を習得すべく、盗賊の生け捕りを領主様に直訴したのだそうです。
自分を打ち負かした相手からでも学ぼうとする姿勢はいいですね。領主様に直訴した、その行動力も。
べ、別に、『ちょっといいな。』だなんて、思いませんでしたよ?
ある日のこと。
ディレックから、王都で開催される王宮騎士団主催の剣術大会に、領軍の代表として出場することを知らされました。
王宮騎士団か……。
ディレックが習得した体術は、ロングソード(笑)を振り回す王宮騎士団とは相性が良さそうに思います。
彼の活躍に期待が持てますね。
そこで、ふと、私は考えます。
『もし、彼が優勝するなんて事になったら、さぞかし領主様に喜んでもらえることでしょう。』と。
盗賊から体術を習得するにあたり、盗賊の生け捕りを領主様に直訴したなんて話を、以前、彼から聞いていました。
領軍の代表に選ばれるほどの成果を既に挙げている彼が、さらに剣術大会で優勝するなんて事になれば、領主様に彼の功績を高く評価していただけるでしょう。
そして、その領主様は国軍の最高指揮官でもあるのです。
そんな領主様に高く評価された彼が何処まで出世するのか私には想像もつきません。(キュピ-ン)
「頑張って! あなたならきっと優勝だって出来るわ!」
私がそう言うと、彼も満更でもない様子です。
おだて上げてやる気にさせて、彼には是非とも優勝してもらいましょう。
私の将来の為に!(ニヨニヨ)
私は、出世コースに乗った彼と、そんな彼に寄り添う自分の姿を夢想したのでした。
むへへへへ。
剣術大会の当日。
王都まで観戦にやって来た私は、関係者席で試合を観戦しています。
そう。関係者席で。
領主様にもご挨拶させていただきました。彼の恋人として。(ニヨニヨ)
私の計画は着々と進行中です。うふふふ。
後は、彼がこの大会で優勝して、その勢いで私にプロポーズしてくれれば、私の計画は完璧です。(ニヨニヨ)
私に先を越されて悔しがる先輩方の姿が目に浮かぶようです。
うへへへへ。
彼のチームは順調に勝ち進み、いよいよ決勝戦です。
王宮騎士団の連中など彼らの敵ではありません。
優勝は目前です。
うひょひょひょひょ。
ブンッ!!
バキャッ!
「ガハッ!」
バッタリ
……あれ?
その決勝戦の第一試合。
彼のチームの先鋒がアッサリと負けてしまいました。
王宮騎士団のチームの先鋒にロングソードを鞘ごと投げ付けられて。
その手があったかぁー!
くそう。
馬鹿みたいにロングソード(笑)を振り回す馬鹿な王宮騎士団の連中には余裕で勝てていたのにっ。
ロングソード(笑)にあの様な役に立つ使い方があったとはっ。
で、ですが、同じ手が何度も通用する訳がありません。
まだ一人負けただけです。
まだいける、まだいける。
うんうん。
しかし、彼のチームは、その男の体術の前に四連敗を喫してしまったのでした。
くぅ。
私の計画が……。
まさか王宮騎士団にあれほどの体術の使い手が居たとは。
ぐぬぬぬ。
だけど、彼なら。ディレックなら、やってくれるはず!
舞台に上がった彼に、祈るように声援を送ります。
「ディレック、勝って!」
私の為に!
チームの大将を務めるディレックの対戦相手は、あの男ではなく、王宮騎士団のチームの大将が出て来ました。
何があったのかは分かりませんが、この大将同士の一戦で優勝が決まる様です。
観客たちが大いに盛り上がる中、私はホッとします。
既に四敗していたので、逆転優勝する為にはディレック一人で相手チームの五人全員を倒さなければならなかったのですから。
優勝を決める最後の一戦が始まりました。
ゴキッ
「あいったー!」
ゴキッ
「あいったー!」
よし! 対戦相手の両肩を彼が体術で外しました。
勝負ありだ! 優勝だ! やったぁ!
ですが、審判が試合を止めません。
「オイコラ、クソ審判! もう勝負ついてんだろ!」
おっと、いけない。
つい、大声を出してしまいました。
おほほほほ。
しばらくディレックを追いかけ回していた対戦相手が派手に転び、そこでやっとクソ審判が試合を止めました。
よし! 勝った!
優勝だ!
やったぁ!
私は、心から喜びました。
グシククの街に凱旋しました。
ディレックは領主様の隣に立ち、街の人たちから祝福を受けています。
笑顔で手を振るディレックの後ろで、私は彼にそっと寄り添っています。
あの決勝戦の後で、彼からプロポーズされましたので。(ニヨニヨ)
凱旋パレードの後に領主邸で行われた祝勝会も、大いに盛り上がりました。
祝勝会の翌日。
私は、上司の下を訪れ、寿退職の報告をします。
上司は昨日の凱旋パレードや祝勝会の様子を知っており、また、王宮で既に退職手続きを済ませていたので、話はすぐに終わりました。
下っ端の私に先を越された先輩方が私ところに集まって祝福してくれます。悔しそうに表情を少し歪めながら。
……あの? 先輩方? 祝福が少し手荒くないですか?
パシパシに混じって、時々ドスッてクルものがあるんですが?
あっ、脇腹は止めて。 あと、その貫手も! いや、『シャキーン。』じゃなくてっ!
うぎゃーーー!!!
……ヒドイ目に遭いました。
後で【ヒール】を掛けるからといって、何をしても許される訳ではないと私は思います。
ああいう人間にはなりたくないものですねっ。(プリプリ)
夫は、中隊長に出世しました。
実戦部隊の指揮官として体術を使う部隊のさらなる強化を図ると共に、後進の育成にも携わる様です。
そんな夫に私も協力します。
夫たちの使う体術は相手を無力化する事に特化し過ぎていて、王宮のメイドたちが使う格闘術と比べると大分劣りますからね。
私自身が夫の訓練相手を務め、王宮のメイドの格闘術を叩き込みます。
ほらほら、いつまでも床に寝ていない。まだまだ続けますよー。
ある日のこと。
「もう、お前が中隊長をやったほうがいいんじゃないのかな?」
訓練場の床に転がる夫が、私を見上げながらそう言います。
何を言っているんでしょうかね? 私の夫は。
「あなたはまだまだ強くなれます。さぁ、続けますよ。」
あなたには剣術大会を連覇し続けて、この国の伝説になってもらうのですから。
うふふふふ。
ある日のこと。
「やっぱり、お前が俺の代わりに中隊長をやったほうがイインジャナイノカナー。」
訓練場の床でしんなりとしている夫が、焦点の定まらない目でそう言います。
夫の目には光がありません。
……少し、やり過ぎてしまいましたでしょうか?
で、ですが、夫にこの国の伝説になってもらう為には、この程度でへこたれてもらっては困るのです。ええ。
私は、弱気になっている夫を励ましながら訓練を続けました。
そんなことがあった数日後。
夫は第一線からの引退を申し出て、後進の育成に専念することになったのでした。
……あれ?
その年の内に、もう一度剣術大会が開催されました。
今回から国が主催することになったのだそうです。
規模が大きくなったこの大会でも領軍の代表チームが優勝し、大会連覇を成し遂げました。
夫が選手として出場しなかった事は残念でしたが、監督を務める夫から指導を受けた選手たちが前回大会よりも良い動きをしていましたので、その事に私は満足します。
これなら、まだまだ夫にも出世の目がありそうですね。
うんうん。
ある日のこと。
領主様に呼ばれました。
私が。
領主邸を訪れて領主様にお会いすると、王宮騎士団が解体され、新たに『王宮騎士隊』が新設されるという話を聞かされました。
なるほど。
そこへ、ここの領軍からも人を送り込みたいのですね。具体的には私の夫を。
私は夫のところに嫁ぐ前は王都で暮らしていましたからね。喜んで夫に付いて行きますとも。ええ。
夫ではなく、私に王宮騎士隊に入ってほしいとのことでした。
……あれ?
「あなたのことはディレックたちからよく聞いています。ディレックよりもはるかに強いと。」
「………………。」
「王宮騎士隊には女性だけの部隊も作られます。あなたにはそこに入ってほしいのです。ここの領軍を代表して。」
「………………。」
夫を鍛える為に領軍の訓練場に入り浸っていた私は、こうして、かつての職場である王宮に戻ることになってしまったのでした。
あれぇー?
「おはよう。出戻り隊員。(にまにま)」
「『出戻り』ゆーなー! うがー!」
そして、今日もこの挨拶で、王宮騎士隊の隊員になった私の一日が始まるのでした。
あれぇー?
(お詫びと、おしらせ)
途中で更新が止まってしまい、申し訳ありませんでした。
何とか、この章を終わらせることが出来ました。
次の章は、いつから始められるのか未定です。まだ書き始めていませんので。
次の章よりも先に、途中で止まってしまっている『外伝 とある異世界の神さまたちのお話』を、キリのいいところまで進めたいと思っています。後で、この話と繋がりますので。
(もしかすると、この話とは無関係の短編を先に上げるかもしれませんが)
完走まで頑張りますので、これからも読んでいただけると嬉しいです。




