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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十七章 剣術大会とメイド大乱
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12 後日談 メイド長の失敗と苦悩

(人名)

ケイト

王宮のメイド。最強格の一人。『鉄壁てっぺき』のふたを持つ。

メイドにファンが大勢おおぜいおり、『ケイト親衛隊』なるものが存在する。

ナナシの護衛を、クーリと交代でつとめている。


アレク

ケイトの兄。ヘインズハート男爵家の長男。

王妃様たちに隠されていたのだが、剣術大会で彼の存在がメイドたちにバレてしまった。

クララ・ダーラム侯爵と結婚することが決まった。


クララ・ダーラム侯爵

王都の西隣のダーラム侯爵領の領主。ケイトのことが大好き。

ケイトの兄のアレクを王妃様から結婚相手として紹介されて、ガッシリとゲットした。

ダンジョンマスターであるダーラムの子孫であり、グラム王国の重要人物。その為、ダーラム侯爵邸には王宮からメイドが多く派遣されている。


ニーナ

王宮のメイド。元ナナシ付きのメイド。

現在はお菓子製造部に所属。



< メイド長視点 >


「はぁ。」


私は読んでいた報告書を机の上に置いて、溜息ためいききます。

ケイトの兄、アレクの存在が知られてしまったことで起きたあの騒動。

その後に起きたことについて、色々と報告ががってきています。


最近、貴族たちの間で『メイド大乱たいらん』などと言う、ふざけた言葉が広められています。


先日のあの騒動の時、ケイト親衛隊の者たちが王宮内を走り回っていたり、メイド1部の者たちに蹴散けちらされたりしている様子を、貴族や騎士団員たちに目撃されてしまっていました。

また、剣術大会の会場でも、アレクの確保に向かったケイト親衛隊の者たちが、たいの近くで騎士団員を何人もぶちのめしてしまっていました。

さいわい、王妃様の部屋の前で起きた乱闘騒ぎについては知られていない様で、その事にはあんしたのですが……。


メイドたちが騎士団員をぶちのめした事に対する反発なのか、あるいは剣術大会での王宮騎士団の失態から目をらせたかったのか、起きてもいない色々な出来事が面白おもしろおかしく脚色きゃくしょくされて広められています。『メイド大乱たいらん』などと言う、ふざけた言葉と一緒に。

どうやら、王宮騎士団と彼らとつながっている貴族たちがそんな話を積極的に広めている様です。

ですが、元はと言えば、あの騒動は王宮騎士団が仕出しでかした事が原因です。

そう思うと、本当にはらちます。


広められてしまった噂の対応にひとが必要なのですが、ひと不足で人員じんいんのやりりがむずかしく、尚更なおさらはらちます。



少し気分を落ち着けた後。

私は別の問題についても考えます。

乱闘騒ぎを起こした『ケイト親衛隊』の、その後のことです。


『ケイト親衛隊』が、『ケイトファンクラブ』と『ケイトの練習相手の育成会』にハッキリと分かれたのは、まぁいいでしょう。これまで『ケイト親衛隊』という組織が大き過ぎて色々と問題が起こっていましたので。

ですが、『ケイトファンクラブ』から新たに『アレク親衛隊』が誕生し、その『アレク親衛隊』の者たちから、グラアソのダーラム侯爵邸への異動願いが大量に出されているのには困ります。ただでさえひと不足なのですから。

異動願いを出した者たちは、どうやらアレクの”愛人(わく)”を狙っているようなのですが、そんな者たちをダーラム侯爵のもとへ大量に送りつける訳には、もちろんいきません。

ですが、異動願いを却下してしまうと、メイドをめて突撃する者が出て来てしまわないとも限りません。本当に厄介やっかいです。

武闘派のお目付めつやくを付けたうえでローテーションを組んで送るのが、現実的な対応になってしまうのでしょうね。



そんな事を考えていた時。

ふと、思い付いたことがあって、机の中から別の報告書を取り出し、ななみしながら考えます。

この報告書は、『鎖骨同好会』の再始動についてのものです。


以前、『ケイト親衛隊』との間のトラブルで、『ケイト親衛隊』に蹴散けちらされて解散させられた『鎖骨同好会』。

それが再始動し、活動を活発化させています。

また、『ケイト親衛隊』の混乱にじょうじて隊員たちをやみちしているなんていううわさもあります。


私は、かつて『鎖骨同好会』を立ち上げ、最近、会長に復帰したらしい”彼女”の姿を脳裏に思い浮かべます。

そして、思います。


『やはり、ニーナは何かを持ってるのかもしれない。』と。



かつて、”部屋付き”のメイドから”ナナシ様付き”になったニーナ。

そのナナシ様がお着替えする様子を『鎖骨同好会』の者たちを呼び集めて見世みせものの様にした為、その罰としてお菓子製造部にトバしました。お菓子の材料の受け入れをしている過酷な部署に。


そんなニーナでしたが、今では王妃様にとても気に入られています。

王妃様がナナシ様にお願いして作ってもらったコーラの、その味の改良や収益拡大にとても大きな貢献をして。


ニーナがコーラ作りにたずさわることになったのは偶然でした。元々(もともと)彼女はお菓子製造部に所属していた訳ではなかったのですから。

コーラ作りがナナシ様の手からお菓子製造部に移管された際、ナナシ様が急遽きゅうきょ作られた小屋サイズの魔道具の担当者にニーナが選ばれたのは、彼女が特に重要な人員ではなかったからです。炭酸水の運搬というツライ仕事が敬遠されたからでもありましたが。

その後、コーラの材料に使う香辛こうしんりょうを見直す為の味の評価にニーナが参加することになったのも、なるべく多くの人たちから意見を聞こうと、コーラ作りにかかわっていた全員に参加させたからでした。

そして、ニーナの助言によって使用する香辛こうしんりょうの見直しが進み、製造コストの削減と味の改良が上手うまくいくと、ニーナはその部署に引き抜かれ、そこでも成果を出し続けました。

ニーナの活躍はそれだけにとどまらず、クセになる味の新製品をも作り上げて、それも今では売り上げに大きく貢献しています。

まぁ、その『クセになる味のコーラ』には中毒性があって、『後々(あとあと)、何かの裏工作のさいに役立つかもしれない。』と、アレな貴族たちに売り付けているのは秘密ですが。


この様にコーラ作りでとても大きな貢献をしたニーナは、今ではすっかり王妃様に気に入られているのです。

今、『鎖骨同好会』が活動を活発化させているのは、その事とも無関係ではないのでしょう。


しかし、このまま『鎖骨同好会』が、かつてのいきおいを取り戻してしまうのはよくありません。

いっそのこと、『鎖骨同好会』を『ケイトファンクラブ』や『アレク親衛隊』にぶつけてつぶいをさせるのはどうでしょうか?

いいアイデアの様に思います。


グラアソのダーラム侯爵邸にローテーションを組んで送る、愛人(わく)ねらいの『アレク親衛隊』の者たちに、武闘派のお目付めつやくと一緒に『鎖骨同好会』の者も付けることにしましょう。

いきおいを取り戻しつつある『鎖骨同好会』の勢力を分散させる口実こうじつにも使えますしね。


そう考えた私は、関係する部下たちを呼んで、それぞれに計画書の作成を指示しました。




あの騒動が起こる原因を作った王宮騎士団。それと、王宮騎士団とつながり、騎士団員たちと一緒に『メイド大乱たいらん』などと言うふざけた言葉を広めていた貴族たちをらしめました。


王宮騎士団を解体することによって。


王宮騎士団の解体は、思っていたよりも簡単に進みました。

王妃様がお使いになられた”カード”が、貴族たちによくさりましたので。

その使われた”カード”のおかげで、解体された王宮騎士団がヒドイけなされかたをしていますが、あの騒動を起こした責任を取らせただけなのですから、まぁいいでしょう。


それと、ニーナの作った『クセになる味のコーラ』も裏工作で想像以上の効果を上げていました。

後々(あとあと)、何かの裏工作のさいに役立つかもしれない。』と、アレな貴族たちに売り付けていたとはいえ、私たちの想像以上にがありました。

あまりにもよくいたので、作戦部長がかなり引いていましたね。

ニーナが作ったあの『クセになる味のコーラ』の中身がとても気になりましたが、それについてはすでに作戦部長が動いてくれているので、報告ががってくるのを待つことにしましょう。


ニーナといえば……。

私は別の報告書を手に取り、改めて目を通します。

これは、グラアソのダーラム侯爵邸にローテーションを組んで異動させている者たちに関する報告書です。


グラアソのダーラム侯爵邸にローテーションを組んで異動させている、アレクの愛人(わく)ねらっている『アレク親衛隊』の者たち。

そんな彼女たちのおお目付めつやくとして、武闘派の者たちの他に『鎖骨同好会』の者たちも一緒に派遣していました。

『アレク親衛隊』と『鎖骨同好会』がつぶいをしてお互いに勢力を弱めてくれることを期待して。

それなのに……。


まさか、その『アレク親衛隊』から『アレク様の鎖骨をでる会』と『ケイト様の鎖骨をでる会』が生まれてしまうとは……。


どうやら、お目付めつやくたちのガードがかたぎて絶望しているところを、『鎖骨同好会』の者たちに言葉(たく)みに勧誘かんゆうされたようです。『鎖骨もいいぞ。』と。

そんな『鎖骨同好会』の者たちの布教ふきょうによってアレクの愛人(わく)ねらいが沈静化したらしく、それはそれで歓迎すべきことなのですが……。

でも、この新しく生まれた二つのグループって、『ケイト親衛隊』と『鎖骨同好会』のどちらの派閥に所属していると見たらいいのですかね?

何だか『鎖骨同好会』の勢力をさらに拡大させる余計な結果になってしまった気がします。



それにしても……。

かつてのいきおいを越える勢力になりつつある『鎖骨同好会』。その会長に復帰し、また、『ペンギン同好会』の会長でもあり、王妃様のお気に入りにもなっている”彼女”の姿が私の脳裏に思い浮かびます。

そして、思わず、天井を見上げながらつぶやきます。


「や、やっぱり、ニーナは何かを持ってるわねー。(ふるごえ)」


どうやら、ニーナのあつかいをどうするか、そろそろ本気で考えないといけない時が来たようです。


コーラの味の改良に今でも取り組んでいるニーナですが、食料をあつかう部署に彼女を置いておくのは、すぐにでもめさせたほうがいい気がするのは、私の気の所為せいではないでしょう。

王妃様のお気に入りなので私の一存いちぞんで異動させることは出来ません。一度、ニーナを呼んで異動先の希望を訊いておきましょう。

ですが、ナナシ様のところへの異動を希望されてしまったら、どうしたらいいのか分かりませんね。


「はぁ。」


本当に色々と頭が痛いですね。


(設定)

(ケイト親衛隊について)

『ケイト親衛隊』は、以前から『ケイトファンクラブ』と『ケイトの練習相手の育成会』にっすらと別れていました。ですが、前回の騒動でそれがハッキリと分かれました。『ケイトファンクラブ』の仕出しでかした騒動に巻き込まれるのを嫌って。

ハッキリと分かれた『ケイトファンクラブ』から、さらにアレクの愛人(わく)ねらう『アレク親衛隊』が生まれました。

『ケイトファンクラブ』、『ケイトの練習相手の育成会』、『アレク親衛隊』の呼称は、上層部の付けた仮称です。『アレク様の鎖骨をでる会』と『ケイト様の鎖骨をでる会』は報告書に書かれていた名称をそのまま使っています。


(ニーナって、何を仕出しでかしたんだったっけ?)

ニーナがトバされることになった行動は、第十二章での『ナナシ、ダンジョンの街の冒険者ギルドに行く01』や『ナナシ、ダンジョンの街の冒険者ギルドに行く02』でのナナシのお着替えシーンでの出来事のことです。


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