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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十七章 剣術大会とメイド大乱
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09 メイド大乱05 ナナシ、あっちへ行ったりこっちへ行ったり

剣術大会の決勝戦が始まる直前からの、ナナシ視点でのお話。


< ナナシ視点 >


俺は、今、剣術大会とやらを観戦している。

何でも、この剣術大会を主催しゅさいする王宮騎士団とグラム王家とが良好な関係であることを印象付けないといけないんだそうで。


でも、シルフィには『ナナシさんが出たくなければ出なくてもいいですよ。どうせ騎士団ですし。』って言われていた。黒いみを浮かべながらね。

そう言われた時は『そ、それじゃあ、出なくていいかなぁ。(ビクビク)』って思ったんだけど、前に【製作グループ】が作ってくれた日本刀を振ってみた時に何だか振り方がよく分からなかったから、『実際に剣を振っているところを見てみたいなぁ。』とか思って、剣術大会とやらを観戦することにした。

観戦した結果は、『素人しろうとが見たところで分かる訳がないよねー。』ってことが分かっただけだったんだけどね。


剣術大会は、いよいよ決勝戦を残すのみとなった。

たいの上に、これから対戦する軽装の人とブカブカなプレートメイルを着た人ががった。

ブカブカなプレートメイルを着た人を見て、『あの人は、何であんなブカブカなプレートメイルを着ているんだろう?』と少しだけ思ったけど、『あと少しで解放されるなぁ。』なんて思ったら、どうでもよくなった。


彼らが貴賓席こちらに向かって一礼いちれいし、『いよいよ決勝戦に始まるなぁ。』と俺が思った、その時。王妃様から声を掛けられた。

「一緒に付いて来てちょうだい。」って。


王妃様のあとに付いて、シルフィと一緒にひん席を離れる。メイドさんたちをゾロゾロと引き連れながら。

これから決勝戦が始まるって時に、コレっていいんですかね?『王宮騎士団とグラム王家とが良好な関係であることを印象付けないといけない』とか聞いていたおぼえがあるんですけど……。

王様がひん席に残っているとはいえ、逆効果になっちゃいませんかね?

まぁ、俺がそう思ったところで、サッサカ、サッサカと前を歩て行く王妃様のあとを付いて行くしかないんですけどねー。


背後で歓声ががったりしずまりかえったりしてたけど、それらを完全にスルーして、俺は王妃様のあと大人おとなしく付いて行きます。

シルフィを腕にまとわり付かせながらね。


観客席の裏のひとに付かない場所まで来たところで、王妃様に頼まれた。

「転移魔法でシルフィの部屋まで運んでちょうだい。ここに居る全員。」

全員かぁ。ちょっと多いな。ケイティさんとクーリの他にもメイドさんが10人くらい居るしね。

今まで、これ程の人数を一度に運んだ事って無かった気がするけど、まぁ、お風呂場の建物を丸ごと転移させた事があるんだから大丈夫だよね。

手をつないでもらって一塊ひとかたまりになってもらい、サクッと転移魔法を発動します。

頭の中で『ボッチだったですからねぇ。』とか言われていた気がしますが、そんなものはもちろんスルーしましたっ。


転移魔法でシルフィの部屋にやって来た。

この人数がいきなり現れたのでクリスティーナさんがビックリしていらっしゃいます。

いつもならにらまれるところだけど、王妃様が一緒だったので『何か事情がある』とさっしてもらえた様です。

いつもそんな感じでお願いします。クリスティーナさんをビックリさせる目的でここに転移して来ることなんてありませんので。それと、そろそろ『サメ子さん』を返してくださいませんかねぇ。

俺が、そうクリスティーナさんに目でうったえかけていると、シルフィに腕を引かれてソファーに座らされた。

俺の隣に座り、いつもの様に俺にベッタリとするシルフィは、すでに”くつろぎモード”に入ってしまっている様です。

『王宮騎士団とグラム王家とが良好な関係であることを印象付けないといけない』とかいう話は、もういいんですかね? いいんだろうなぁー。

シルフィに訊いたところで黒い笑顔を拝見させていただく結果になるだけな気がしたので、俺は何も訊かずに大人おとなしくシルフィにベッタリされていることにします。


剣術大会の観戦はもういいみたいなので、ずっと俺に付いてくれていたケイティさんとクーリを部屋に帰す。お疲れ様でした。

二人を見送ってから室内に視線を向けると、先ほどから王妃様から何やら指示を受けていたメイドさんたちが部屋から出て行くところだった。

メイドさんたちを見送った王妃様は溜息ためいきいていらっしゃいます。

と、思ったら、何やらイライラしだしたご様子。黒いオーラがにじていらっしゃいます。

そのご様子にビビった俺は、王妃様のイライラに巻き込まれない様に”置物モード”でジッとしていることにしました。


「ナナシさん。」

「……はい。」

王妃様に声を掛けられた。

おかしいな。”置物モード”でジッとしていたのにね。

イライラしているご様子の王妃様にちょっとだけビクビクしながら、これから言われる事に意識を集中させる。

「決勝戦のたいに居た金属の(よろい)を着ていた人って分かるかしら?」

「えーっと、ブカブカのプレートメイルを着ていた人ですかね?」

「そう。その彼をここに連れて来てほしいのだけど、お願いできるかしら?」

「はい。すぐに連れて来ます。」

そう言って、俺はスッと立ち上がる。

黒いオーラをまとっていらっしゃる王妃様の前からはなれられるのなら、何処どこにでも行きますよ。

俺は、ちょっとご不満そうなシルフィの頭をナデナデしてから、剣術大会の会場の上空に転移しました。



【レビテート】でふよふよと浮いた状態で、上空から剣術大会の会場をろす。

どうやら、試合と試合のあいだった様で、次に試合をすると思われる人がたいの上にがるのが見えた。

一方いっぽう、勝ち残っていたらしい人がたいの上でボーっと立っている。ブカブカのプレートメイルを着た人が。

王妃様に連れて来るように言われた”彼”は、まだ出番が終わっていない様だ。

王妃様には『すぐに連れて来ます。』って言っちゃったけど、試合中に乱入してまで連れて行く必要は無いよね。ぶん

俺は、彼の出番が終わるまで待つことにして、そのまま上空からたいながめる。

そうしたら、ブカブカのプレートメイルを着た人が、仲間に呼ばれたのかたいはしに歩み寄って行った。

作戦会議でもするのだろう。


彼の出番が終わるまでやる事が無い俺は、観客席に視線を向けた。

観客席で一際ひときわ目立つひん席には王様しか座っていない。

俺や王妃様たちが座っていた空席くうせきに思うところが無い訳ではないけど、先ほどの王妃様のご様子を思い出すと、だまってしたがったのが正解だったと思う。うん。


ひん席から目をらし、さらに観客席をまわしてみると空席くうせきの目立つ一角いっかくがあった。

その空席くうせきあたりには、見慣みなれたメイド服を着ている人たちの姿が多く見える。

どうやら、王宮のメイドさんたちも観戦に来ていた様だ。

でも、メイドさんたちが観戦しているあたりに空席くうせきが多い理由が分からないな。どうしてだろう?

そんな事を不思議に思っていたら、会場から走り去って行くメイドさんの集団が居る事に気が付いた。

15人くらい居そうなメイドさんの集団だ。

さらに見ると、その先にも10人ほどの集団と、さらにその先にも3人のメイドさんが走っているのが遠くに見えた。

……何だろう?

王妃様とシルフィが会場を離れた事に気が付いて、『何か非常事態が起きているのかも?!』って誤解させちゃったのかな?

るなぁ。

でも、王妃様たちの身に何かが起きた訳ではないし、そもそも護衛のメイドさんが何人も付いていたんだから誤解はすぐにけるだろう。シルフィの部屋のメイドさんを何処どこかに説明に行かせていたみたいだったし。

べ、別に走っているメイドさんたちに俺が説明しに行くのが面倒だった訳でないですよ? それに、今は王妃様に頼まれた事をしないといけないんだしね。(←誰に言い訳してるんだよ)


俺は、たいに視線を戻す。

たいの上では、軽装の人とプレートメイルを着たガタイのいい人(●●●●●●●)たいしていた。

……あれ? 中身(そだ)った?(←そんな訳ありません)

俺は、中身が急に(そだ)った事におどろきつつ(←違うってば)、ねんためたいそでに視線を向ける。

すると、たいそでに、プレートメイルを上にげられてズボッとがされている人が居た。

あまりにも”正規のがしかた”とは思えないそのがしかたに、彼が本物の”ブカブカのプレートメイルを着ていた人”なのだろうとさっした。


上空でふよふよと浮きながらその人の様子をうかがっていると、たいに注目している仲間たちからコッソリと距離を取り、ある程度(はな)れるとたいに背を向けて歩いて行ってしまう。

あれ? どういうことだろう?

もしかして、彼は正規のメンバーではなくて、臨時のすけとかだったのかな? それなら、ブカブカのプレートメイルを着ていた理由にも説明がつくし。

でも、彼の立場がよく分からないな。さすがに騎士団に所属していない人を引っ張ってきたって訳ではないだろうけど。

きっと彼自身が、試合後の表彰式とかにまったく興味が無いだけなんだろう。何だか足取りが軽そうに見えるし。


まぁ、色々と分からない事があるけど、今は王妃様に頼まれたことを済まそう。ちょうど彼が一人になっていることだしね。

別に、よく分からない事だらけで考えるのがめんどくさくなった訳ではありませんよ?(←だから、誰に言い訳してるんだよ)


会場から離れたひとの無いところで、俺は彼の前に【転移】で移動し、【レビテート】を解除してストッと地面に降り立つ。

そして、彼をおどろかさない様にらくに挨拶する。

「こんにちはー。」

「こんにちはー。」

……何だろう。おどろかさない様にらくに挨拶をしたとはいえ、普通に”のほほん”と挨拶を返されてしまって、逆にこっちがまどってしまう。

もう少し違った反応があってもいい気がするよね。自分でやっといてなんだけど。

まぁ、今はそれはどうでもいいや。王妃様に頼まれたことをサッサと済まそう。

「王妃様にあなたを連れて来るように頼まれてるんですけど、一緒に来ていただけますかね? あ、私、グラストリィ公爵って言います。」

我ながらまらない自己紹介だ。爵位しゃくいとか普段まったく意識していないし、こういう時くらいしか使う機会も無いしね。

それ以前に、自己紹介を先にしてから用件を話すべきだった気がするけど。

頭の中で『ボッチでもりでしたからねぇ。』とか言われていた気がしますが、もちろんスルーします。


「あー、いも……、ゲフンゲフン。分かりましたー。」

いも?

確かに俺は畑でイモをそだててたりするけど、彼がその事を知ってる訳がないよなぁ。

また、よく分からない事が増えてしまった気がするけど、気にするのもめんどくさい。

サッサと王妃様のところに連れて行ってしまおう。

「転移魔法で移動するので、手をつないでもらえますかね?」

「はーい。」

何だか、この人のしゃべりかたって誰かさんを思い出すなぁ。

俺は、あまり仕事らしいことをしない護衛のメイドさんの姿をチラリと脳裏に思い浮かべながら、王妃様に頼まれた用件をサッサと終わらせるべく、王妃様の待つシルフィの部屋に彼と一緒に転移しました。



転移魔法でシルフィの部屋に戻って来ると、王妃様とシルフィ、それとメイド長がソファーでお茶していた。

俺が連れて来た彼は、キョロキョロと室内をまわしている。

転移魔法って、いきなり景色が変わるからねー。おどろくよねー。

割とよく見る反応を見せる彼のことはひとほうっておいて、王妃様に報告する。

「王妃様、連れて来ましたよ。」

「ありがとう。助かったわ。(ホッ)」

王妃様が明らかにホッとしていらっしゃいます。

頼まれた人を一人連れて来ただけなんですけどね。

一体いったい、何が起こっているんですかね? よく分からないことだらけです。


俺がそんな事を考えていると、俺が連れて来た彼が王妃様に向かって一礼いちれいして挨拶する。

「お久しぶりです、王妃様。再びお目にかかれて大変光栄です。」

「……ええ。久しぶりですね、アレク。」

彼の挨拶に、微妙な表情でそう返す王妃様。

あと、彼の名前は『アレク』と言うらしい。

王妃様が名前を知っているってことは彼は貴族なのかな? 前にも会った事があるっぽいし、きっとそうなのだろう。

「こほん。ところで、どうしてあなたがあんな場所に?」

王妃様がアレクに訊く。

でも、『あんな場所』って言ってしまうのはどうなんですかね? 王宮の敷地内の、剣術大会が開催されていた場所ですよ? まぁ、俺は何も言いませんが。

「はい。私が室内訓練場で訓練しておりましたら、いきなりあそこに連れて行かれました。」

俺に対しては”のほほん”としたしゃべりかたをしていたアレクだけど、王妃様に対してはキッチリとしたはなかたをする。

やっぱり、彼は貴族っぽいね。

アレクが王妃様に説明を続ける。

「あの会場に連れて行かれると、大きなプレートメイルをかぶせられて、何の役にも立たないロングソードを持たされて、『相手をぶちのめせ。』と。」

ふーん。

「やっぱり、ロングソードって相手に投げ付けるのが一番役に立つ使つかかたですよねー。思い切りぶん投げられて気持ち良かったですー。(ニコニコ)」

最後は、言葉(づか)いが元に戻っていた。

いいのか? それで。あと、内容もっ。

お前、王宮騎士団の関係者だろっ?!

まぁ、王妃様も笑っているから、それでいいのだろう。……ぶん



王妃様とアレクがもう少しお話しをした後。

王妃様に、また転移魔法で送るように頼まれました。

はいはい。お任せください。


今度のメンバーは王妃様とメイド長とアレク。それと護衛のメイドさんが数人。

また一塊ひとかたまりになってもらって、サクッと転移魔法で移動しました。


隣街の領主の屋敷の前までね。



(設定)

(ロングソードの呼称について)

ちょうけん』と表記している場面も有りますが、これは組織によって呼び方が異なっているからです。

国軍こくぐんと王宮のメイドは『ちょうけん』と呼んでいますが、王宮騎士団では『ロングソード』と呼んでいます。だって、その方がカッコイイからっ。


(裏話)

”彼”に気付いて、”彼”の確保に向かっていたメイドさんたちも居ました。

ですが、邪魔だった騎士団員を何人も蹴散けちらしながらたいの近くまで行ったものの、その時にはすべての試合が終わった後でした。

ちなみに、メイドさんたちが蹴散けちらした騎士団員の中には決勝戦まで勝ち進んだ人たちも含まれていましたが、一蹴いっしゅうされていました。


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