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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十七章 剣術大会とメイド大乱
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07 メイド大乱03 攻防(笑) 姫様の部屋の前で


< 王宮のメイド ローズ視点 >


姫様のお部屋の前にやって来た。王妃様をおさがしして。


ナナシ様のお部屋はメイドの数が少ない。だから、王妃様がいらっしゃるのならナナシ様のお部屋よりは姫様のお部屋だろう。

姫様のお部屋には、クリスティーナさんも『一撃』のマリアンヌも居るのだし。


私よりも先に来ていたケイト様親衛隊の隊員たちがドアしに話をしている。

その様子を離れたところから聞いていると、どうやら話をしている相手はクリスティーナさんの様で、のらりくらりとかわされているみたいだ。

うーむ。


しばらくドアしの話し合いが続いた。

れ聞こえてくる内容によると、王妃様がこの部屋にいらっしゃるのかについてはのらりくらりとかわされているものの、ナナシ様がこの部屋に来られたことはクリスティーナさんが教えてくれた様だ。

ナナシ様がここに来られたのであれば、きっと王妃様も一緒にここに来られたであろう。

話をしている隊員もそう考えた様で、話し合いがさらに加熱した。だが、あいわらずクリスティーナさんにのらりくらりとかわされている。

どうやら、クリスティーナさんに遊ばれている様だ。


さらにドアしの話し合いが続いたが、まったく進展が見られなかった。

らちかない!』とばかりに隊員たちが殺気さっきってきた時。

彼女が、トテトテと廊下を歩いてやって来た。


マリアンヌが。


お前、姫様のお部屋に居なかったのか?!

イザという時にまったく役に立っていないあたり、じつにマリアンヌらしいなっ。


だが、マリアンヌがここに居るのは我々にとってはごうがいい。強引に踏み込む時の為に彼女をコチラに引き込もう。

相手がマリアンヌなら交渉は簡単だ。お菓子やおやつで買収すればそれで済むし。

それにマリアンヌなら、たとえ職場の同僚を相手にすることになったとしても『アイツお菓子で買収されやがった!(笑)』で済んでしまうので、人間関係がこじれることもないしな。


私は、マリアンヌに駆け寄って交渉する。

「マリアンヌ、私たちに協力してほしい。報酬はプリン10個でどうだろう?」

「プリン10個?!」

食い付きがいいなっ。

さすがはマリアンヌだ。

私は、交渉が上手うまくいくごたえを感じながら、依頼の内容をマリアンヌに話す。

依頼の内容は、所謂いわゆるすけ”というやつだ。

『一撃』のマリアンヌがコチラ側に居てくれるだけで相手は手を出すことを躊躇ためらうはずだ。居てくれるだけでも十二分に効果がある。

マリアンヌは『うむうむ。』とばかりにニンマリとした笑顔を浮かべる。

どうやら交渉は上手うまくいきそうだ。『それでいいのか?』と思わないでもないが。


マリアンヌが私に向かって返答を口にしようとした、その時。

マリアンヌの両隣に”お世話係”とおぼしきメイドが二人、スッと現れた。そのうちの一人が、何やらマリアンヌにみみちする。

「おおーー!!」

マリアンヌは、そう声を上げて笑顔をはじけさせた。


お世話係に何やらみみちされたマリアンヌが、とてもイイ笑顔で私に向かって言う。

「報酬は、ドラゴンじるしのハチミツをたっぷりかけたアップルパイを10個!」

「……………。」


マジかよ……。

なんて物を要求するんだよっ、お前はっ。

『むふふん♪』とばかりにドヤ顔で笑顔を浮かべるマリアンヌと、その両隣でウンウンとうなずいているお世話係の二人。

そんな彼女たちを見ながら……。

私は呆然ぼうぜんと立ち尽くすしかなかった。


『ドラゴンじるしのハチミツをたっぷりかけたアップルパイ』


それは、王宮で出される美味おいしいおやつの中でも『最高に美味おいしい!』と皆の意見が一致する至高の逸品いっぴん

ナナシ様から提供される最高に美味おいしいハチミツを甘さを控えめにしたアップルパイにたっぷりとかけたその味は、まさに至福。

ナナシ様に花の種を大量に提供し続けることで年に数回は食べられるようになったとはいえ、あの至高の逸品いっぴんを一度でも食べられなくなってしまうなんて、想像するだけでも目の前がくらになる。


この要求は飲めない。


だが、マリアンヌの”とてもイイ笑顔”が『報酬の再交渉なんて不可能』と言っている。

ぬぬぬぬぬ。


仕方がない。

隊員たちと話し合おう。



ドアしの話し合いに何の進展も見られない様なので、その者たちも含め、姫様のお部屋の前に集まっていた親衛隊員たち全員を呼び集めて相談する。

「踏み込む時の為の一員としてマリアンヌをコチラを引き込みたい。ちょうどここに居たし。だが、報酬として『ドラゴンじるしのハチミツをたっぷりかけたアップルパイ』を10個要求された。」

「「「!!」」」

要求された報酬におどろく隊員が三割ほど。残りは、「あのアップルパイが10個も……。」とうっとりとした表情で言ったり、無言でくう見詰みつめながらヨダレをらしたりしている。

おいおい。お前たちにふるうという話ではないんだからな? 分かってるか?

やはり、あの至高の逸品いっぴんは、人の心をわしづかみにする魅力があふれている様だ。さっきまでは殺気さっきっていた者も居たというのにな。


そんななか、妄想にひたらずにいた隊員たちが口々(くちぐち)に言う。

「私は嫌よ。あのアップルパイが食べられないなんて。」

「私だって嫌よ。」

「「「そうよ、そうよ。」」」

彼女たちには至高のアップルパイをゆずる気はまったく無さそうだ。もちろん、私だってゆずる気はまったく無い。


そんな状況に、隊員の一人がサラリと言う。

「じゃあ、ここに居ない人のぶんを報酬にするってことで。」

おい。

サラリと何てことを言うんだ? こいつは。

「いやいや、それはマズイでしょ。」

「マズイマズイ。それは絶対にマズイ。」

さすがに反対する声が上がる。

「でも、それしかなくない?」

「『『ふたちを取り込めるだけ取り込め!』って指示されてるじゃん? 私たちはその指示に従うだけよ。」

「「「そうそう。」」」

「そうは言っても、後でブチギレられるのが分かってて、そんな事は出来ないわよ。」

「そうそう。絶対にマズイって。」


しばらく話し合うが、話がまとまる気配はまったく無かった。


隊員の一人が別のかい策を口にする。

「『ふたちを買収するならクーリのほうが楽なんじゃないかな? もうナナシ様の部屋に戻って来てるんじゃない?」

「でも、クーリではマリアンヌに勝てないじゃん。」

「いやいや、何もクーリ一人ひとりにマリアンヌの相手をさせることはないでしょ。マリアンヌが相手なら数人であたればいけるんだし。」

「でも、マリアンヌにはお世話係の人が二人も付いてるんだよ? 部屋の中にもメイドが何人も居るんだし、そう上手うまくいく?」

「乱戦になれば、むしろ、クーリの方が強くない?」

「そうね。それにクーリって小さいから、かくしてお世話係をやり過ごせればマリアンヌも倒せそうよね。」

「あー、それはいいかも。マリアンヌも”した”に死角があるしね。」

「ぐふっ。」、「ぐはっ。」

イイモノをお持ちの隊員のなにない一言ひとことにダメージを受けている者が何人か居たが、それには気付かなかったていで私たちは話し合いを続ける。

「で、でも、クーリをこちらに引き込むとしても、その交渉をしている間に後ろからマリアンヌに襲われちゃわない? 至高のアップルパイが10個もかってるんだよ? マリアンヌなら何だってするでしょ?」

「それなら、いっその事、ここで私たちだけでマリアンヌを倒す? マリアンヌなら大勢おおぜい一斉いっせいに行けば何とかなる可能性があるんだし。」

「あー、それはもうダメかも。私たちがこうして話し合っている間にマリアンヌが姫様の部屋の前にじんってるよ。お世話係の二人を前に並べて。」

「うわぁ。あの陣形じんけいって、誰を呼んで来てもくずせなくない?」

「そうよねー。お世話係の二人が前で守りにてっしている間に後ろからマリアンヌに『ぴしっ!』てやられて、それでおしまいよねー。」

「そうだねー。あれにいどんじゃったら秒殺確定よねー。クーリが居ても無理なんじゃないかな?」

「そうなると、買収するならマリアンヌ一択いったくか……。」

「あの陣形じんけいって、その為のせきでもあるんでしょうねー。報酬の件といい、ホントお世話係の人たちってタダ者じゃないわよねー。」


うーん。どうしたものか……。


「で? マリアンヌを買収するとして、誰がアップルパイを差し出すの?」

「「「「「!!」」」」」

隊員の一人が言ったその一言ひとことで、隊員たちの間で緊張の糸が張り詰める。


「私は嫌よ、あのアップルパイが食べられないなんて。」

「私だって嫌よ。」

「「「そうよ、そうよ。」」」


先ほどと同じ話し合いをすること、しばし。

別の隊員が控えめに言う。

「ねぇ、ナナシ様の部屋から姫様の部屋に行けるように改装されてたんじゃなかったっけ?」

「「「「「…………。」」」」」

その言葉の意味を考えること、しばし。

「「「「「それだ!」」」」」


こうちゃくした状態を解決する糸口いとぐちを見付けた私たちは、全員でバタバタと隣のナナシ様のお部屋に向かう。

ドアの前で控えていた護衛のメイドが逃げて行くのをそのまま見送り、ドアをノック。

ケイティさんと話し合う。


「お引き取り下さい。(キリッ)」


ただ一言ひとこと、キッパリとそう言われた。

『交渉の余地などありません。(キリッ)』と言われたかの様な、そんな声だった。

だが、このくらいで引き下がる訳にはいかない。

私は、マリアンヌの動きにも警戒しながら、部屋の中に居るはずのクーリに交渉を持ちかける。

クーリを買収して抱き込めれば、ケイティさんではクーリをめられないし、こちらのお部屋から姫様のお部屋に踏み込むのにも大きな戦力になってくれる。


ドアの向こうから、クーリの声で返事が返って来た。

「ドラゴンじるしのハチミツをたっぷりかけたアップルパイを10個。」

「…………。」

どうやらクーリは、私たちが廊下で話し合っていたことを聞いていた様だった。


私は背後を振り返って、隊員たちの表情をうかがう。

彼女たちの目は……。


何かを強く決意したかの様に、私には見えたのだった。



クーリのなにに非情な要求によって、ケイト親衛隊の隊員たちの話し合いは振り出しに戻った。

彼女たちは、改めて誰を犠牲にするか話し合う。

強い決意をもって、自分の『至高のアップルパイ』を死守しながら。


話し合いは長い時間続いた。


彼女たちは気付かない。

自分の『至高のアップルパイ』を死守することに意識を集中するあまり……。


当初の目的が何であったのかを、すっかり忘れてしまっていることに。



(設定)

(『ドラゴンじるしのハチミツをかけたアップルパイ』とは?)

ナナシが提供するハチミツをお菓子製造部が作った甘さ控えめのアップルパイにかけたもの。おやつとしてメイドたちに提供される物の中で最高に美味おいしいと大評判。

こんなところにも、ナナシがした事の影響がっ。

ちなみに『ドラゴン』とはナナシをす言葉で、『ドラゴンじるしの』は『ナナシから提供された物』をす言葉としてメイドたちに使われている。


(ウラバナシ)

当初、ローズが『カタリナに出させるのは確定として、あと9個ね。』と言って周囲をドン引きさせるシーンがありました。ですが、それはボツにしました。ローズがドエライ目にってしまう未来しか見えませんでしたので。


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