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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十七章 剣術大会とメイド大乱
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06 メイド大乱02 攻防。王妃様の部屋の前で


< 王宮のメイド カタリナ視点 >


王妃様の部屋の前にやって来た私が目にしたもの。

それは、廊下にたおす多くの隊員たちの姿と、数人の隊員の後ろ姿。

そして、その隊員たちの向こうで前のめりに倒れる隊長(=ケイト様親衛隊の隊長)の姿だった。


……どうしてこうなっているんだ?

隊長をめて、”彼”の正体しょうたいを聞き出すのではなかったのか?


こちらに背を向けている隊員たちをけ、うつせで倒れている隊長の横にしゃがみこんでひっくり返すと、隊長は満足まんぞくげな表情を浮かべて気を失っていた。

これでは、隊長に”彼”の正体しょうたいめることなど出来やしない。

一体いったい、どうしてこうなったんだ?


そばに立つ、顔をらして肩で息をしている隊員に、しゃがんだまま訊く。

「どうしてこうなったんだ? これでは”彼”の正体しょうたいを聞き出せないじゃないか。」

「隊長にっ、決勝戦のたいに居たっ、”彼”の事をっ、知っていますかっ、とっ、訊きましたっ。」

うん。

れにそう話す彼女に相槌あいづちを打って、話の先をうながす。

「そしたらっ、隊長がっ、ちからずくで聞き出してみろっ、とっ。それでっ、ここで戦闘にっ。」

「そうか。」

隊長がその気だったのなら、こうなってしまうのも仕方が無いか……。


私は隊長の横でしゃがんだまま、廊下にたおしている隊員たちの姿をながめる。

10人以上倒されているな。

まぁ、それも当然か。

隊員たちが問題を起こすたびに振り回されている今の隊長の姿しか知らない者たちには想像できないだろうが、隊長も相当な実力者だからな。

でも、隊長が相当な実力者であることは、少し想像すれば分かりそうなものだ。

ケイト様を育成する為に隊長が立ち上げた、『ケイト様親衛隊』の前身ぜんしんである『ケイト様育成会』。

隊長が実力者であったからこそあれだけの実力者たちが集まり、その結果、ケイト様をあれほどまでに強くすることが出来たのだからな。


私は思い出す。

『ケイト様育成会』がその役割を終えた、”最後の戦い”を。

『ケイト様育成会』のラスボス。当時『最強』の称号しょうごうを持っていた者に完勝し、ケイト様が名実めいじつともに頂点に立った、思い出すだけで鳥肌とりはだが立つ様なあの素晴らしい戦いを。


……素晴らしい思い出にひたりそうになってしまったが、今は、それどころではなかったな。

剣術大会の決勝戦のたいに居た”彼”の正体しょうたいめなければならないんだった。知っていそうな幹部をつかまえて。


私は、再び隊長に視線を戻す。

隊長は気を失って倒れている。あいわらず満足まんぞくげな表情を浮かべて。

もちろん、話を聞ける状態ではない。

せっかく見付けた、”彼”の正体しょうたいを知っていそうな幹部だったのにな。

隊長がかくれもせずにここに姿を現したのは、こうしてここで普段のストレスを発散する為だったのだろう。すごく満足まんぞくげな表情をしているし。

「はぁ。」

思わず、溜息ためいきが出た。


起きてしまったことは仕方が無いとして……。

この後、どうしたものかな?


王妃様に”彼”の正体しょうたいについてお訊きしたいが、王妃様の部屋の前でこんな大乱闘をひろげたのだ。

その直後に、『王妃様はいらっしゃいますか?』なんてドアの向こうに訊ける訳がない。

私だったら絶対に無視するし、ドアを開けたりなんかしない。

本当に、どうしたものか……。

私は一度立ち上がると、私のあとからやって来た隊員たちと一緒に倒れている者たちの様子を見て回りながら、これからどうしようか考えるのだった。



私が倒れている者たちの様子を見て回っていると、あとからやって来た隊員の一人が空気を読まずにドアをノックして「失礼します。」と言ってドアを開けた。


おい。


その次の瞬間。


ドガッ!


ドアを開けた隊員が吹き飛び、壁に叩きつけられた。


「「「「「!!」」」」」


隊員たちはその場で固まる。

誰も動かない。

誰も声をはっしない。


廊下がしずまりかえなか……。


半分ほど開いたままのドアから出ていた、隊員を吹き飛ばしたとおぼしき黒い棒がスッと引っ込み、それに代わって黒いトンファーを両手にぶら下げたメイドが一人、フラリと姿を現した。


「「「「「………………。」」」」」


誰も動かない。

誰も声をはっしない。


その、たった一人のメイドがまと雰囲気ふんいきに飲まれてしまって。


とても静かな、それでいて張り詰めた空気のなか、彼女がくちを開く。

ちがいにも感じる、どこか明るく、落ち着いた声で。


「先輩が楽しそうでしたので、手を出しませんでした。」


「「「「「………………。」」」」」


全身からあせが出た。


「私も……。」


「「「「「………………。」」」」」


彼女がこれから言う事とこれから起こる事が想像できてしまった私は、ひざをガクガクさせながら立ち尽くす。


「……楽しませてくださいね。(ニヤリ)」


「「「「「!!」」」」」


彼女のその最後の一言ひとことと笑顔に、私のたましいが悲鳴をげた。


そして、また一人、ドガッ!っと壁に叩きつけられたのだった。



ドアの前に立ちふさがる彼女に隊員たちがいどんでいっては吹き飛ばされていく。

彼女の事を知らない若い隊員たちが。


彼女に勝てる者など、この場には誰も居ないというのに。


これ以上、私がここに居ても出来る事など何も無い。

私は、ここから逃げ出すことにした。

いつになく体の動きがにぶく感じるが、ふるえるひざ叱咤しったして体の向きを変える。

駆け出そうとして前に出した右足。それを咄嗟とっさに引き戻す。

足を引き戻したのとほぼ同時に、私のすぐ前を隊員の一人が吹き飛んでいって床をゴロゴロところがる。

それを見た私の頭の中で警報がひびく。

しまった! 足が完全にまってしまっている!

その事にブワッとイヤな汗が出た。

咄嗟とっさきで横腹を両手でガードした。


その次の瞬間。


私の体は吹き飛び、ドガッ!っと壁に叩きつけられた。


ズルズルと床に落ちていく私の視界の中で……。

立っている者は、すでに”彼女”しか居なかった。


双星そうせい』のクラウディア。


彼女こそ、かつての『最強』。

ケイト様をみずからの手でその座にまで育て上げるまで長く『最強』の称号を持ち続けた、『最強』の中の『最強』。

両手であらゆる武器を使いこなし、攻守で最強をほこった『ケイト様育成会』のラスボス。


その彼女のものりなくて不満そうな表情を見ながら、私の意識は闇に落ちていく。


『隊長が王妃様の部屋の前で隊員たちを挑発したのは、こうしてここで追手おって殲滅せんめつさせる目的もあったのかもしれないな。』と、そんな事を考えながら……。


(設定)

(突発的メイドさん紹介)

双星そうせい』のクラウディア。

王妃様の護衛たちのラスボス。ラスボスなので王妃様の部屋に常駐している。

『鉄壁』のケイトを育て上げた者の一人。『ケイト親衛隊』の前身ぜんしんである『ケイト育成会』のラスボス。ケイトがクラウディアを倒したことで『ケイト育成会』はその役割を終えた。

ケイトに敗れるまで『最強』の称号を長く保持し続けた『最強』の中の『最強』。

両手であらゆる武器を使いこなし、みずからも育成に参加した『鉄壁』のケイトに完封負けをきっするまで攻守で最強をほこった。

ケイトが『鉄壁』のふたを与えられるほどまでに防御が上手うまくなったのは、このクラウディアの所為せい

当時(この)んで使っていた武器は小剣しょうけんの二刀流。最近はトンファーがお気に入り。

ケイト親衛隊の隊員たちを吹き飛ばしていたわざは、トンファーをフェンシングの突きの様にわざで、相手の腰のあたりをやさしく押して吹き飛ばす。

ドガッ!という音は突かれた時の音ではなく、壁に叩きつけられた時に出た音。

音も立てずにやさしく押している様に見えるが、威力いりょくはハンパない模様。

双星そうせい』のふたは、『双剣術』の『双』と、『流れ星の様な速さ』と『隕石の様な破壊力』を表す『星』からけられた。

『星』の付くふたは特別で、これまでクラウディアにしか与えられていない。


(称号『最強』)

メイドたちの中で一番強い者に与えられる”称号しょうごう”。『最強』を倒した者が『最強』の称号を引き継ぐ。

『最強』の称号は、『双星そうせい』のクラウディアを倒した『鉄壁』のケイトに引き継がれ、ケイトから『一撃』のマリアンヌに引き継がれている。

公式には『一撃』のマリアンヌが『最強』の称号を保持していることになるのだが、マリアンヌが一対一以外ではポンコツぎた為、『ケイト様が『最強』でしょ!』と主張する声が多い。

マリアンヌもケイトも称号にまったくこだわっていない為、現在、『『最強』の称号が浮く』という異常な状態におちいってしまっている。

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